朝、2杯目のコーヒーと彼女
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Atsu Fuji(ライティング・ゼミ平日コース)
「コーヒーは、銭湯なんだよ」
という彼女のつぶやきで、読んでいた本から目を上げた。
ステンレス製の目覚まし時計は、夏日に照らされて朝11時をさしている。
「今度は、何のはなし?」
知り合った頃は、突拍子もない発言に驚いたものだが、今では少し楽しみにしている自分がいる。
「だからさ、目覚めのコーヒーの美味しさは格別なのに、どうして2杯目のコーヒーはそこまで美味しく無いかってこと。2杯目のコーヒーも、同じぐらい美味しかったら人生2倍楽しんでると思わない?」
相変わらず不思議なところで、ポジティブさを出してくる人である。
話しながら彼女は、近所の商店街で浅煎りしてもらったニカラグア産の豆を挽き始めた。クラシックな木製のミルで手挽きされる豆は、ゴリ……ゴリ……とゆったりした低音と、フルーティーさが混ざったコーヒーの香りを部屋に充たす。
この音を楽しむために、彼女は手挽きのミルを離さない。
情報理工学部で同じ研究室だった彼女は、当時から普段の食事には無頓着であった。野菜が多いという理由だけで、コンビニのビビンバ丼を12日連続食べたこともある。
一方なぜかコーヒーに関しては研究レベルの熱量を注いでおり、炒り方、豆の種類、ドリップ時の攪拌などをスマホアプリに記録している。
最近凝っている浅煎りは豆自体が重いため、通常よりも多めにドリップ時の攪拌が必要であるらしい。
円錐形に折った濾紙の上に中挽きの豆をのせ、最初に10秒以内で湯を注いだ後にかき混ぜ30秒蒸らすと、浅煎り独特のクリーンな香りがしてきた。
「うーん、至福」
私の分のコーヒーはまだのようだ。
「朝起きて、1杯目のコーヒーを飲むとカフェインが吸収されるでしょ。カフェインは頭の中で、アデノシンという睡眠誘発する物質の働きを邪魔するの。だから、目が覚めてイキイキするんだ。でも2杯目になると、この効果はぐっと減っちゃう」
まだ、話は続いていたようだ。
「なるほど、流石だね。……でも2杯目のコーヒーを楽しむことと、銭湯とどういう関係があるの?」
確かに我々は銭湯好きであり、休日ともなれば家から20分のスーパー銭湯にせっせと通っている。岩盤浴が3種類、湯船も露天風呂や壺湯など数種類あり、一日いても飽きない。露天の壺湯に入り、少し体を温めてから岩盤浴を複数回、最後に水風呂で締めるというのが私の定番コースだ。
「ふふん、それがあるんだよ」 浅煎りコーヒーを飲みながら彼女が満足気に応じる。
「……風呂上がりの、コーヒー牛乳が美味しいとか?」
「違う! 2回目の珈琲を飲む前に、毎回お風呂入れっていうの?」
そんなことは、いかに休日中であってもしないだろう。特に最近は、夏の到来を肌でヒシヒシ感じる日々である。
「銭湯って実は不思議なんだよ。お湯は同じなのに、湯船の形や場所が違うと二度も三度も楽しめちゃうんだ。この原理を、私はコーヒーに応用したの」
よく見ると、朝は煉瓦色だった陶器のコーヒーカップが、レインボーカラーのマグカップに変えている。
「ひょっとして、コーヒーカップをわざわざ変えたの?」
「正解! 豆や入れ方を変えるのは勿論、環境を変えてみたの。コーヒーカップだけじゃない、流すBGMもさっきはクラシックだったけど、今はボサノバにかえたんだ。あと窓を全開にして、風が入るようにした。テラスのあるレストランでコーヒー飲んでるみたいでしょ? 朝とは違う美味しさが一層感じられるの」
なるほど、間違い探しクイズみたいだが、たしかに早朝と変わっている。
「しかも銭湯でも内湯から露天風呂に行く前に、一回水風呂はいったりして身体をリフレッシュするじゃない。だから1杯目のコーヒーを飲んだ後に、実はカフェインレスの麦茶を飲んで体を整えておいたの。そうすることで、コーヒーを美味しく飲める体になるんだよ。こうやって、朝2杯目のコーヒーが、最初のコーヒーに比類する感動を得て、結局は2倍人生を楽しめるってことなの」
言われてみればそんな気もしてきた。
「悪くないかも。じゃあ、俺は水風呂ならぬ、アイスコーヒーにしよっかな。アイスコーヒー作ってもらえないですかね」
「あ、アイスコーヒーは、ドリップ用を冷やしてもあんまり美味しくないから、お店でアイスコーヒー買ってきた方がいいよ。ついでに、ラムレーズンのアイスクリームも買ってきてくれると嬉しいな」
我が家の水風呂は、どうも水自体も湯船のお湯と違う方針のようである。と思いつつも、あまりの暑さに結局、近所にアイスコーヒーを買いに行くことになった。アイスクリームのお使いもかねて。
相変わらず、彼女は人生を味わうのがうまい。
***
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