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テニスとは手術だ


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記事:大塚啓介(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
病院での実習が終わるとテニスコートに急ぐ。そんな日々が私の最近までの日常であった。今日はちょっと雨が降りそうかな? それでもコートへ足を運ぶ。そう、私はテニス部に所属する医大生だ。練習は辛い時もあるが、思いっきり身体を動かすことがストレス発散になっていた。残酷にも、急速に蔓延する感染症が原因でその日常は過去となった。雨が降る日も太陽がうるさい日も、すっかり居場所は部屋の中だ。もはやおとなしくなってしまった私は、有り余った時間でテニスについて思いを巡らせた。テニスって一体どんなスポーツだろうか。
 
「テニスとは手術だ」
ふと思い浮かんだ。テニスというスポーツは、約2、3時間もの間走っては打ちを繰り返す結構キツいスポーツだ。長いときは5時間に及ぶこともある。一日2試合もやる日なんて、帰路が永遠のように感じる。
中々身体への負担が大きいスポーツであることは明らかだが、実はメンタルの消耗が大きいのも特徴だ。なぜならテニスは「選択」の連続であるからだ。例えば相手がバックハンドストロークで打ってきたから次は相手のフォアハンドのほうに打って走らせようとか、前のポイントで相手のフォアハンドにサーブを打ったから次は相手の体を狙って打ってみようとかを、ほんの数秒のうちに行わなければならない。毎ショットをどれくらいの強さでどこに打ちどこで勝負をかけるかなど、一試合でその「選択」を迫られる場面を数え上げたら枚挙にいとまがない。卓球に比べて相手との物理的な距離があるので、どちらに打とうかと考えることができてしまう時間が割とあるところも負担の要因の一つになっているだろう。とにかく、テニスは常に選択を迫られるのだ。勝敗を左右するポイントほど、その決断力がものを言う。あの松岡修造さんは、テニスのトレーニングの一つとして、レストランに入ってメニューを手にしたら5秒以内に注文するものを決めるということをやっていたそうだ。
そんなテニスは、上達していくと徐々に「選択」のコツを掴み慣れてくる。毎回思い悩んでショットを決めるのではなく、「こういう時はこのショットだ」と身体に染みついてくる。対戦相手のレベルが上がれば、やはり決断力の勝負となるのだが、自分が上級者になるほど身体は自動運転となるのだ。勝負を左右するサビの部分で集中力を上げるだけで勝てるようになる。
このプロセス、何かに共通している。思い浮かんだそれが手術だったのだ。
 
医学部の学生は4年生までに系統講義が終わり、5年生からはいよいよ病院での実習が始まる。実習の内容は科によって様々だが、外科の実習の時は必ず手術を見学する。
私は昔から外科の手術を実際に見てみたいという思いがあったので、内心ワクワクしながら手術室で外科医の先生方を待機していた。そしていざ先生方が颯爽と現れると手術室の緊張感は増した。選手入場というわけだ。歓声こそ起こらないが。手術の最中、先生方はこの血管は傷つけてはいけない、こちらは切らないといけない、という「選択」を何度も行う。しかし経験を積んだ先生は洗練された手つきで、いみじくも手術を進めていき、もはや自動運転状態なのだ。基本的に自動運転で、術中自動運転では処理できないちょっとしたエラーに対して頭を使って対処していく。かつて天皇陛下の心臓手術を執刀した順天堂大学の天野篤先生も同じことを言っている。まさしくテニスと同じなのだ。
 
ある実習の日、同じように私は手術室で見学していた。その日は胸腔鏡を使った肺の手術だった。胸腔鏡の手術は、メスで大きく胸を開かなくても良い低ダメージの手術である。順調に手術が進む中、手術室に教授が見回りに来た。その教授は一級品の手術の腕を持つお方で、例えるなら錦織圭だろうか。白髪がまぶしいその風貌は本物の錦織圭とは月とすっぽんであるが。
「おう、順調にいってるか?」
ゴルフのスイングをしながら入ってきたその錦織圭は、しばらくその手術を見ていた。しかし事件は起きた。順調かと思われていたが、突然出血が止まらなくなった。見る見る内に術野が真っ赤となってしまい、騒然とした。術者が止血を試みるが上手くいかない。術者に焦りが見え始めたところで選手交代。錦織の出番だ。錦織はすかさずメスで開胸することを選択し、出血している血管をいち早く見つけ出し、直接押さえて止血し始めた。そして頃合いを見てサササッと糸で結んで見事に止血が完了した。後ろからずっと見ていた私はその手捌きに舌を巻いた。これが名医の腕か、と憧景の念を抱いた。咄嗟の判断とその対応力。まさに私は間近で生の「エア・ケイ」を見たのだった。
 
自分の部屋の中で、そんなことを思い出しながら「テニスしかやってこなかったな」と耽る今日この頃。テニスを毎日する日々は終わってしまったが、いまできることは「錦織圭」になるべく、勉強するしかない。そうお尻を無理やり叩いて机に向かう夜である。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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