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ビジネスホテルが教えてくれたこと


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記事:天音璃音(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
レトロといえば聞こえはいいけれど、実際はただ古いだけの建物。禁煙プランというなぜか微かに残るタバコの匂い部屋。寝られれば十分という妥協を暗黙の了解とされる場所。
 
それが、私のビジネスホテルのイメージだった。
 
ビジネスホテルを知ってる人からすると、そんな昭和かいつかの話みたいに思うだろう。だけど、長年、秘書として働いてきた私にとって、ビジネスホテルといえば上司のために予約するモノであり、自らは泊まる縁など今後もやってこない、そう思っていた場所。
 
そんな場所だから、調べる意味もない。だから、きっとこんな場所だろうという勝手な憶測で決めつけていた。
 
私のビジネスホテルの定義は、現実を知らずに自分勝手な思い込みで作られた、かなり歪んだものだった。
 
歪んだ私のビジネスホテルのイメージが変わったのは実はごく最近のこと。
 
遊びにきた友人が東京タワーに行きたいと言った。東京に住んでいると東京タワーに行こうなんて考えもしない。面白そうだから付き合うよと、一緒に行った帰りのことだった。
 
ふと、そういえばこの東京タワーと一緒で東京のホテルを知らないものだな。泊まる必要もないし……。
 
と、思ったのがきっかけだった。そこから、私の東京ホテル探索が始まった。
 
最初に泊まったのは、実はビジネスホテルじゃない。東京にはラグジュアリーで素敵なホテルがたくさんある。夢を見れるような場所はたくさんあった……。 だから、わざわざビジネスホテルなんて安っちい場所に泊まる必要もない。そう思っていた。
 
確かに素敵だった。夢のようだった。サービスも空間も一流。ワクワクしてたまらなかった。でもそのワクワクの中には、微かな不安も入り混じっていた。そして、どこかモヤモヤした気持ちもあった気がする。
 
そんな複雑な思いを抱えている自分に気づいた時、心から楽しめてない自分にようやく気づいた。
 
豪華であれば、良いわけでもない。サービスが良ければ、良いわけでもない。確かに素敵なのだ。だけど、ここは、私が本当に泊まりたい場所ではないのかもしれない。ふとそういう考えがよぎるようになった。
 
そんな時だった。すごくオシャレなホテルの写真を見つけた。だけど、今までと違って、そのホテルの値段はものすごく安かった。なんでこんなに安いんだろう? 疑問を抱きながら調べるとそこは、ビジネスホテルだったのだ。え?ビジネスホテルなの?これが? それが、最初の正直な感想だった。
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私がイメージしていたビジネスホテルとは、だいぶかけ離れていた。私が今までイメージしてきたオシャレとは程遠い古ぼけたホテルではなく、スタイリッシュでオシャレ女子が好きそうな場所だったのだ。
 
ビジネスホテルって、もしかして、私がイメージしてる場所とはだいぶ違うのかもしれない。そのビジネスホテルを見つけたことをきっかけに、色々調べていくと、
最近では、すごくおしゃれで便利なビジネスホテルがたくさんあることに気づいた。
 
立地も申し分ない。サービスも悪くない。部屋もいいし、何よりコスパがいい。
まるで蚤の市で素敵なアンティークを発見した時の興奮の如く、私は素敵なビジネスホテルを探すのにとてもワクワクした。連泊してもラグジュアリーなホテル1泊分だったりする。なんてお得で楽しいんだろう!
 
こうして、ビジネスホテルの魅力にハマった私の新しい趣味が始まった。この新しい趣味のおかげで去年の8月は、ほとんど家にはいなかったのだが……。 1泊わずか数千円でお得に泊まれる、非日常とワクワクを与えてくれる異空間。こうして私のビジネスホテルの定義は180度変わっていったのだ。
 
ビジネスホテルの価値観と人生観はとても似ている。
 
私はカウンセリングの仕事をしているが、この仕事を通してお会いしてきた、たくさんの人生をこじらせている人たちは必ずと言っていいほど、
 
幸せとはこうだと決めつけている。結婚すれば幸せになれる。お金を稼げれば幸せになれる。幸せはこうすればなれるもの。でもそれが叶わないから幸せになれない。そう思い込んで苦しんでいる。
 
幸せになるためにはこれしかないと思い込んでいるので、それ以外の幸せがあることなんて想像すらしない。知ろうともしない。そのせいで自分の幸せの可能性が広がらず、自分を追い詰めていることにすら気づかない。
 
自分の信じるものが本当にそうなのか? 疑問を抱くからこそ幸せの様々な形を見つけることができ、そのたくさんの選択肢から本当に選びたいことを選ぶことによって、自分の幸せの可能性が無限に広がっていく。
 
でも、幸せに色々な形や可能性があるなんて、考えもしないのだ。まさか、その幸せの狭さによって自分が追い詰められているなんて予想すらしないのだ。
 
幸せにはいろんな形があるということを、確かに知らなくても人が困ることはないのかもしれない。知らなければ自分が不幸かもしれないことも気付きもしない、だとすれば、彼らは不幸じゃないのかもしれない。
 
でも知らなかった世界を知った人間からすると知ったらもっと人生は楽しいのに……。
とやはり、考えてしまうのだ。たとえ、それが自分のエゴだとしても。
 
時代はどんどん変わっていく。だけど、悩める人たちの考え方はいつまでも変わってないことに気づいてない。
 
いつの時代だよという、ツッコミをしたくなるような、視野の狭さは、ビジネスホテルはこんなだと、ろくに調べもせずに決めつけていた私と、同じだと思った。
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もちろん、人生の楽しみ方は人それぞれだ。別に全ての人が高級ホテルでシャンパンを嗜むになる必要はない。でも、色々な幸せの形を知らなければ、自分が選びたくないものを
幸せだと思い込んで選ぶことになるかもしれない。それは見方によっては恐ろしいことではないだろうか?
 
ろくに知りもしないのに、これが良いに決まってると決めつける。それを決して悪いとは言わないが、なんとももったいない気がするのだ。この世界にこうに決まってるんだろう、なんて本当はそもそもないはずだと思うから。
 
あるクライアント様に、素敵なビジネスホテルに泊まった話をしたら、彼女は早速泊まってみますと行動に移していた。彼女はトラベルサイトのポイントで、なんと一人2100円で泊まれたらしい。
 
彼女は言った。
 
こんなリーズナブルな値段で銀座に泊まれるなんて、私の世界が広がったと。
 
確かに、たった2100円のビジネスホテルに泊まれることになっただけで、彼女の人生の可能性が変わったかどうかわからない。
 
でも私は、その彼女の笑顔を見て、私に自分の思い込みを気づかせてくれたビジネスホテルに、まだまだハマり続けそうだと確信している。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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