日本人のわたしを、好きでいてくれるように
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まあすけ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「お前ら日本のガキ、なに知ってる。
知らんかったら、この先ずーっと、知らんやろ」
画面で年配の男性が声を荒げる。
主人公の高校生は、うつむいてその場を後にするーー
映画「パッチギ!」 を久しぶりに観たのは、終戦記念日の翌日だった。
中学生のとき、映画館で観た記憶があった。だから今から15年も前のことになる。
面白かった。
ただ観客を楽しませるだけでなく、考えさせる内容もあり、「観てよかった」と思った記憶がある。
そんな印象を持っていた。
たまたま友人に勧められ、「久しぶりに観てみよう」、という軽い気持ちでアマゾンプライムで検索した。
改めて見て驚いた。
その映画は台詞の端々で、鋭いほどまっすぐに、日本人であるわたしたち観客に突きつける「問い」があったのだ。
近所の酒屋のおばさんは、日常会話の中で高校生に問う。
「明日戦争に行けと言われたら、どうする?」
一目惚れした朝鮮人の女の子は、告白した日本人高校生に問う。
「もし、わたしと付き合って結婚することになったら、あなたは朝鮮人になれる?」
北朝鮮に帰る男性は、日本にいる韓国出身の男性に約束する。
「国が統一したら、ソウル駅前で会おうや」
そして一番胸にずしんと迫った台詞は、戦争下で朝鮮から日本に連れてこられた老人が、高校生に向ける台詞であった。
「お前ら日本のガキ、なに知ってる。日本人が俺たちにしたこと、ひとつも知らんやろ」
ごめんなさい。
ごもっともです、そう思った。
そして思い出した。
昔にも同じように、無知でアホな自分であることに、申し訳なさでいっぱいになったことがあったと。
それは高校の修学旅行で韓国に行ったときのことだった。
わたしの通っていた高校は外国人や帰国子女が多く、さまざまなバックグラウンドの友人がいた。
中でも同じクラスで仲が良かったのが、韓国出身の女の子、Yだった。
彼女は明るく積極的で、母語の韓国語に加え英語も日本語もペラペラ。学校全体に友人がたくさんいる人気者だった。
修学旅行中もいくつかの施設見学などをYと一緒に過ごし、夜も部屋で遅くまでおしゃべりした。
修学旅行はひたすら楽しかった。
ただ、「楽しかった」だけでは終わらなかった。
わたしや他の日本人の友達は、日本では聞いたこと、観たことのない「日本」を修学旅行の中でたくさん知った。
戦争中に日本が韓国にしたことを、いくつも見聞きした。
また韓国は今も北朝鮮と「停戦中」だという事実も、恥ずかしながらここで初めて知った。
高校には仲の良い韓国人の友人が他にも複数いたけれど、毎日一緒に笑って過ごしていた彼女たちは、わたしをはじめとした日本人の高校生よりずっと自国の歴史や背負ってきた痛みを理解して、向き合っているのだと感じた。
帰国し、空港から家に帰るバスは、家が同じ方向の友人と一緒に帰宅した。
5人くらいいたと思う。その中にはYもいた。
わたしをはじめとした「日本人の高校生」は、この修学旅行で初めて知った事実があまりに多すぎて、興奮が冷めなかった。
「ここの見学が一番、心にずしんときたな」
「あんなことも初めて知って、びっくりした」
「日本ではどうしてこんなに教育をしないの?」
「逆に、韓国だとどういう認識になっているか、知りたいよね」
「というか、Yはどう思っているの?」
みんな喋りたいことがありすぎて、気づいたら通路を挟んで座ったバスの座席から身を乗り出し、大きな声で話していた。
近くに座っているおばさんから、「うるさい」と強い口調で叱責されたほどだ。
Yはひとつひとつの会話に「韓国人の高校生」の視点から、まっすぐ淡々と返していた。
そしてその会話の中で、彼女がただ、文字通り淡々と放った言葉を、わたしは一生忘れないと思う。
「だから、あなたのことは好きだけど、日本人は嫌い」
それは悪意があるわけでも、何かを問いかけたいわけでもなかった。
ただまっすぐなYの本音であり、事実であった。
「日本人は嫌い」
その言葉を聞いたとき、わたしはおそらく初めて、自分が「日本人」であることを知った。
それと同時に、「日本人」が背負っているものを知らなすぎる自分が、ものすごく、ものすごく恥ずかしく、罪深い人間であると感じた。
そんなわたしたち、なにも知らない「日本人の高校生」に対して、いつも一緒に笑っていたYは複雑な思いを持っていたのではないか。
なにも知らなくて、アホで、ごめん。
強くそう思った。
その日から、わたしは無意識で使っていた「バカチョンカメラ」という言葉を使うのをやめた。
「バカチョンカメラのチョンは、朝鮮人という意味なんだよ」
親から聞いたことがあった。それはただ由来であるだけ、と思っていたけれど、明らかに蔑視言葉であるということに、後からやっと気づいた。
無意識に朝鮮人を蔑視する言葉を使っていた。
そんな自分を、ただ恐ろしいと思った。
大人になった今も、まだまだ学べていないのだと思う。
だから久しぶりに映画「パッチギ!」を見たとき、ハッとさせられ、罪深い気持ちを思い出した。
ただ15年ぶりに映画を観て、一つだけ気づいたこともある。
映画「パッチギ!」 でも描かれるのは、人種や歴史、イデオロギーにとらわれず、純粋に友情や愛情で結ばれる韓国人と日本人の高校生の姿。
この姿は、Yがわたしに言った「日本人は嫌い」ではない方、つまり「あなたのことは好き」と同じだった。
様々な定義を、主張を超えて、わたしたちはただ個人として繋がり合うことはできる。
そうして、大好きな友人が見ている辛い景色があるなら、わたしもそれを知りたいと思う。たとえわたしが主張の上では加害者の立場であったとしても。
そうやって、日常の延長から、個人と個人のつながりから、お互いを理解しようとしていくことはできるのではないだろうか。
根本的な解決には遠いかもしれない。
だけれど、メディアや教科書で見た情報だけでなく自分自身のこととして、過去と、歴史と、解決していない争いや問いと向き合うことは、相互理解に、ひいては平和に繋がるのではないか。
「あなたのことは好きだけど、日本人は嫌い」
Yがあの時言ったこの言葉は、日本人である自分が背負う罪として、同時に定義や主張を超える希望として、一生わたしの中に残るだろう。
ただエピソードとして消化してはいけない。
どう生きていくと良いだろうか。わたしとして。日本人として。向き合い続けていきたい。
***
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