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セックスレスは夫婦がうまくいっている証拠である


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記事:カズ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「セックスレスが必ずしも悪いことだと思わないよ」
僕は若いカップルを目の前にして言った。
 
男性の方は、うちの会社を担当していた証券会社の社員。
要望や質問に素早く対応してくれるナイスガイ。わかる範囲ですぐに返事をくれて、「よくよく調べてみると違ってました。実はこうでした」とフォローをくれる。うっかりしているところもあるが、コミュニケーションのテンポが心地よい。
 
もう一人は、相続税のセミナーで知り合った税理士事務所勤務の女性。
前職は、男性が勤めているのとは別の証券会社。パッと見は遊んでそうに見えて、話してみると実にしっかりしている。自分で稼ぐ力をつけたいと税理士試験の勉強を欠かさない才色兼備だ。
 
僕は、彼らと別々に知り合った。
僕は既婚者で、ふたりは独身だった。
人生で一度ぐらいは「キューピッド役」をやってみたいという下心。おせっかいにも二人を引き合わせた。うまくいきそうな予感もあった。二人とも真面目で頭の回転も早い。証券会社出身だが「証券っぽい人は嫌い」というところも一致していた。
 
顔合わせは一ヶ月ほど前だった。
「こんな人がいるんだけど会ってみます?」と両方に聞き、感触は悪くなかったので引き合わせた。仕事の経験も年齢も近く、話は合った。
その後も何回か、僕抜きで二人だけで会っているよう。
 
そして、今日。三人で会うのは二回目。
一回目と同じカクテルバーで七時から。
現時点ではどうやら、まだ付き合うところまではいってないらしいが、僕からすれば、二人が「くっつく」のかどうか、興味津々である。
 
年齢はふたりとも二十代後半、結婚適齢期。
人は結婚したらどう変わるのか、家族が増えていくとどうなるのか、そういう情報を聞きたがった。彼らより二十年ほど長く生きている僕は、説教臭くならないように注意しながら、経験から学んだことを彼らに共有した。
 
「長く相手とともに暮らすつもりなら、早めに相手の親に会ったほうがいい。自分が男性なら、相手の女性のお母さんに。自分が女性なら、相手の男性のお父さんに」
これが最初に彼らに話したことだ。
「二十年後、相手はその母親や父親みたいになっている可能性が高い。会ってみて、将来こういう風になるんだな、と思うことで、将来のイメージが湧く。もし、生理的に受け付けないのであれば、その付き合いはいずれうまくいかなくなる可能性が高い」
 
僕の話に興味を示した二人は、もっと話を聞きたがった。
 
ドリンクはもう四杯目。
酩酊していたせいか、いつの間にか夫婦のセックスレスの話になった。
 
「日本の夫婦は、セックスレスが多いって聞きますけど、実際どうなんですか? 16年目ですよね?」
彼は聞いてきた。
「基本、無いよね。あったとしても年に1回か2回かなぁ」
彼は自分のスマホを開いた。
「ウィキペディアによれば『1ヶ月以上性交渉がないカップル』が、セックスレスっていう定義みたいですね」
「僕はね……」
彼の言葉を遮りながら言った。
「セックスレスが必ずしも悪いことだと思わないよ。むしろうまく言っている証拠だと思うな」
僕の主張に、彼らは怪訝な顔をした。
 
「まず、三年目の危機、という話からはじめよう」
 
僕は口をひらいた。
三年目、というのは得てして離婚をしやすい年である。
三年で飽きが来る。
 
「これは、相手に飽きるんじゃないんだ。
……何に、飽きるんだと思う?」
 
僕はもったいぶりながら彼らに問う。
首をかしげる彼ら。
僕は彼らの答えを待たずに言う。
 
「それは、自分の役割に飽きるんだ」
 
仕事だって、新卒で入社して3年目に転職を考えたりする。
役割が変わらないまま3年経過してしまうと、飽きる。変わりたくなってしまうのだ。
 
結婚後も役割が変わることは多い。
誰かの配偶者という役割からはじまり、子供ができればパパ・ママという役割になる。そのうち、ローンで家を買って負債者になる。子供が学校に行き始めて、宿題の丸付けとかやりはじめると、先生的な役割も担う。そうやって、役割がどんどん移り変わっていく。新しい役割になると、目先が変わって、「飽き」がリセットされ、もう少し続けてみよう、となる。
 
「ということは、逆に、結婚しても役割が変わることなく三年を経過してしまうと、飽きて駄目になってしまうっていうことですね」
彼女が僕の代弁をした。さすが頭の回転が早い。
 
「そうとも。……でさ、さっきの話に戻るんだけど」
僕は二人の目をじっと見た。
「セックスレスが必ずしも悪いことだと思わない。むしろ、うまく言っている証拠だともいえる。二人がそれぞれ役割を変化して、違う魅力、性的な箇所以外の魅力を、見つけられているっていうことだから」
 
我が家だってそうだ。
僕の妻も、結婚して思いがけずいろんな魅力が発掘された。受験勉強でテンパった子供への対応の仕方がすこぶるうまく、舌を巻いた。家のローンの繰り上げ返済を完璧にコントロールし、十年以上早く返し終わった。僕じゃできないな、と思うことをやって新しい役割を獲得し、僕は妻の新しい魅力を発見する。最近では、年甲斐もなくアニメのキャラクターの声を真似するようになって、それが妙に僕のツボだったりもする。
 
若い二人はうんうんと頷いていた。
みんな酔っ払って、顔は赤かった。
 
時計は、夜の十時。
 
果たして目の前の二人は、付き合い始める時がくるのだろうか。
 
「さあ、もう一つ、カップルが長続きするためのコツを教えようか」
得意になって僕は次の話をはじめた。いよいよ説教臭くなってきた。
終電まではもう少し時間がある。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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