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それでも人生は続く


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:タカハシアヤコ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
小説でも漫画でも、事件が解決したら物語は一度終わってしまう。
 
宿敵を消し、積年の恨みを晴らした主人公は、何やかんやで相打ちで人生を終えてしまったり、長年追ってきた難事件を解決した主人公は矢継ぎ早に次の事件へ向かったり、さまざまである。そこでキリよく物語は幕を閉じる。しかし、人生はそうはいかない。私がずっと恨んできた「怪物」がそれまでとは180度変わって「どこにでもいるような良いお父さん」になってしまっても、私も父も生きていて、関係は続いていく。
 
父は、いわゆるモラハラ男というやつだった。
 
仕事のストレスが溜まっていたのか、子供が苦手なのか分からないが、いつも不機嫌で、そもそも家に寄り付きたがらず、家に帰ってくればきたで、大体母と喧嘩していた。時には布団が飛んだり、皿が飛んだり、ちょっとだけ血が滲んだりもした。父は見栄っ張りだったから、私の教育にはお金をかけてくれた。しかし、このくらいできて当然だ、そんなことをして何の役に立つんだ、はっきり言葉で言われたことはなくても、父がいる空間には、ずっとそういう「空気」が漂っていた。父がいる家は、地雷がたくさん埋まっていた。私は父にずっとへりくだっていた。母はときどき、「あの人はあたしのこと、家族だと思ってないんだ」とこぼした。母は、結婚してからずっとストレスを抱え、とうとう私が高校に上がった時、鬱病になっていた。モラハラの父と、鬱病の母と、優等生を演じて精神的に不安定な娘。私は一刻も早く実家から離れたかった。自分で稼げるようになったら、母を養って父と縁を切ろうかしら、とまで思ったこともあった。
 
そんな父が突然変わったのである。私が大学に入って3年目のこと。体感でいうと映画版ジャイアン×100である。死亡フラグとも思えるような変貌ぶり。金メダルをとった10代の水泳選手のインタビューを見て「たった10年かそこらで、『人生で一番うれしい』なんて⋯⋯」とあざける様に鼻で笑っていたのが、今では大会で優勝した10代の卓球選手を見て、「大したもんだなあ、今までずっと頑張ってきたんだもんなあ⋯⋯」と心の底から感心するなんて。進学校の定期考査で一位になった娘に「〇高生は、そんくらい勉強するもんなんだ」と言っていたのが、大学の学科の成績優秀者に選ばれた娘に「びっくりだ~! すごいじゃん。でも、無理しすぎなくてもいいんだから、体が一番だからね」だなんて。
 
「自分の好きなように生きなさい」だなんて。
 
私はそれまで父を見返すためだけに努力し、生きていた。父よりも高い学歴を、父よりも高い給与の仕事を。そればっかりだった。
 
全部なくなった。普通に意思の疎通ができて、話を聞いてくれて、心配してくれて、母に酷いことを言ったり酷いことをしたりするようなこともなくなって、こんな普通のお父さんを恨む理由なんてどこにもない。これからどうやって生きていこう? 私は何が好き? 本当は何が得意? 何も分からない⋯⋯。私は、いろんな可能性を削って私は勉強だけに特化してきた。結局精神は不安定だったから、第一志望の大学は落ちちゃったけど。
 
当時、大学3年である。就活である。私が考えていた進路はもしかしたら父を見返すためだった? もう頭の中がごちゃごちゃだった。考えれば考えるほど何も分からなくなってしまった。心細い。もう不幸じゃないのに? どうして?
 
人は不幸に依存することができるのだろう。不幸だから、で片付けられる問題はあまりにもたくさんありすぎた。でも、これではいつまでも自分の人生を歩めない。怖い。怖いけど。
 
私は、「不幸」を捨てた。父を恨むのをやめた。話を聞いてくれる「普通のお父さん」が大好きなことを認めた。そして、薄暗い家庭から這い出てきた不幸な娘から、バカみたいに大事にされている幸せな一人娘になろうと思った。
 
本当は、まだ、もうちょっと勉強がしたいなあ。この研究、1年じゃ足りないよなあ。
 
ずっと3年で就職する、研究なんてなんでもいいから、とにかくデカくて稼げる会社に行くと言っていたのに。そう決めたらもう電話をかけていた。「大学院、行ってもいいかな」
 
父は嬉しそうだった。「大丈夫だよ」
 
私はかなり恵まれている。
 
ここから、2年。随分たくさんのものが見えてきた。
 
自由の選択肢の広さを知った。世界は私が思っているよりもずっと広かった。小さな頃から自分の道を進み、もうすでに自分の生きていく道を定めている同世代をたくさん知った。素敵だと思った。しかし、それは出遅れた私にとってはとても怖いことだった。
 
でも、きっと良いのだ。私は、2年前に「生まれた」のだ。すごい人に追いつけなくてもいい。20年かけて一つ一つ捨ててきたものをこれから拾って、抱えて、自分で考えて生きていきたい。不幸に依存するのではなく、自分の幸せを見つめて生きていきたい。
 
宿敵が消えても人生は続いていく。私は物語の終わりを越えて歩いていく。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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