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溺れたら、沈め


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記事:庄司 あきこ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「溺れたら、一度丸くなって、身体に力を入れて、沈みなさい。必ず底があるから。底に着いたら、思いっきり蹴って浮かべばいい」
 
小学校高学年の時、産休の担任の先生の代わりに、おじいちゃん先生が来た。昭和の「頑固で怖い、近所のおじいちゃん」みたいな先生だ。実際に、よく雷が落ちたし、厳しい先生だったと思う。でも、理不尽に怒ることはなかったから、好きだった。
 
小学校の頃、先生が話をしていたことなんて、あまり覚えていないが、あの一言だけは、鮮明に覚えている。脈絡もなにも覚えていないのに。
 
溺れたら、沈めだなんて、今の「浮いて待て」とは逆のことを言っている。
実際に、溺れたら、流されるかもしれないし、底まで息が持たないかもしれない。
だけど、私は、何度もこの言葉に助けられた。
 
学校に行くことが苦痛で仕方ないとき。
あっぷあっぷして苦しくなって、もがくことをやめた。ふと、雷親父先生の言葉を思い出したのだ。
「必ず底はある」
そう言い聞かせた。言い聞かせて、じっと耐えた。底にたどり着く前に、浮かぶことができた。
 
もう、生きていけない。大失恋をしたとき。
悲しみには、底があった。底を蹴って浮上してみたら、そこは、晴れていた。
 
恋愛をこじらせて、すごく、苦労している気分に浸っていたとき。
「一回、沈むんだ。沈みきったら、もう大丈夫」
そう言い聞かせた。沈みきってみたら、太ももくらいまでの、浅瀬だったと気がついた。我に返ることができた。
 
仕事がうまくいかないとき。もう少し、もう少し。底を蹴って浮かんだら、自分が思っていたよりも深い海に潜れていたことを知った。上司の言葉は、単に厳しいだけじゃなく、「育てて」くれるためだったのだとわかった。
 
自分が嫌いでどうしようもないとき、落ち込めるだけ、落ち込んだ。そこから浮上できることを知っていたから。
 
最近では、比較的、ポジティブなものが、良しとされる風潮だ。物事は、見方、受け止め方次第で、良いことに変換できる。
だけど、私は、落ち込む課程を大切にしている。
 
苦しい時、イライラするとき、悲しいとき。感情が激しく揺さぶられているとき。それはもう、溺れかかっているときだ。
まずは、溺れていることを、自認すること。意外と、溺れているまっただ中だと、必死すぎて、自分が「溺れている」という事実に気がつくことが難しい。
溺れている自覚がないと、意図的に沈むことはできない。
 
溺れていると気がついたら。お母さんのお腹の中に居るみたいに丸まって、底へ沈んでいく。わたしは、そんなイメージをよくする。夜、眠る前に、丸くなって、青暗い深海に静かに沈むイメージをするときもある。
大切な事は、「努力や、抵抗をやめる、行動をやめる」という意味ではないことだ。やるべきことは、やる。でも、足掻かない。できるだけ、淡々と、落ち着いて。腹をくくって沈むのだ。
「溺れる!」
と思って、もがいていると、どっちが水面なのかすら、わからなくなってしまう。だから、沈む意思が必要だ。
沈む過程が、大切だ。
自分の、辛い気持ちと向き合う課程でもある。ポジティブ変換しなくて良い。分析もしなくて良い。するのは、ただ、自分の感情を眺めることだ。
自分の気持ちと向き合いすぎると、急に呼吸が苦しくなったり、底なし沼にはまったりする。だから、向き合わずに、眺めるくらいがちょうど良い。幽体離脱して、自分が沈んでいく様を眺めるのだ。
 
自分の感情を眺めて、
「なるほどね」
と思う頃には、底が近い。いつ、底に到達するかは、溺れている場所次第だ。だけど、必ず、底はある。あると信じていると、たどり着く。
 
底についたら、自分の好きな力で、その時出せる力で、底を蹴れば良い。
沈む過程で、感情を味わい尽くせていたら、浮上する間に、自然とポジティブ変換されていく。
 
一度沈むことができた深さは、次からは、潜ることができる深さになる。
何度も溺れる場所は、浮上の仕方を覚えてくる。浮上が早くなる。
 
おまけに、
「底があると信じることができた」
「浮上することができた」
という体験は、自分への信頼感を強めてくれる。
 
本当は、溺れることなんて、無いにこしたことはない。
だけど、浅瀬だと思っていたら、急に深くなって足をすくわれることがある。溺れそうとわかっていて、足を進めてしまうこともある。急に海に突き落とされることだって、あるかもしれない。
 
「溺れたら、一回丸くなって身体に力を入れて、沈みなさい。必ず底があるから。底についたら、思いっきり蹴って浮かべばいい」
 
何度もこの言葉を思い出す。
 
カナヅチの私は、一人では浮いて待つことができない。
だから、とことん沈むのだ。生きるために、沈むのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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