メディアグランプリ

人生は水泳だ。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:黒原 拓朗(ライティングゼミ 日曜コース)
 
 
「苦しい。息ができない」
出社し、ドアを開けてすぐ私はそう感じた。
 
なぜ、息苦しいのか私は考えた。マスクを付けているからだろうか? と一瞬思ったが、別の理由に思い至った。
 
私は不動産会社で働いている。世間を賑わしているコロナウイルスは不動産業界にも少なからず影響している。弊社においても、今年度の目標に対して売上の見通しがたっていない。
そのこともあり、もともとノルマや営業成績を厳しく管理する会社ではなかったが、今年度は成績や勤務態度についての締め付けが強くなった。行動を管理され、さぼらないように常に報告を求められる。今の会社は息苦しい。
 
自分が入社した時もそうだっただろうか? いや、そんなことはなかった。
 
一日でも早く成長したいと、朝から晩まで働いた。寝る時間もろくに取れないのに、仕事が楽しくて仕方がなかった。そして新しい知識を取り入れるたびに、自分の成長を実感する毎日が愛おしくてたまらなかった。忙しくはあったものの、胸を張って充実していると言えた。あの頃の私は息継ぎもせず、とにかく前へ前へと進んでいた。
 
先日、自分の人生について考えさせられることがあった。
 
3年ぶりに15年来の親友と東京で会ったのだ。私の出身は高知なのだが、親友は高知で就職し、出向先の熊本で働いていた。しかし仕事をやめ、今はプログラミングスクールで勉強し東京で就職先を探している。まさか東京で会えると思っておらず、久しぶりの再会に私はわくわくした。実際に会ってみると昔と何も変わっておらず、少し安心した。
 
昔と同じように馬鹿話をし、時間はどんどん過ぎていった。小学校の頃流行ったゲームの話をしたり、高校の時の先生の話をしたりと話題は尽きなかった。そんな中、ふと浮かんだ疑問を彼に投げかけてみた。
 
「仕事を辞めたことに対する後悔とかないの?」
 
このコロナ禍で次の仕事が見つかるかどうかも分からない中で、どうして仕事を辞める決断を下せたのか気になった。彼は答えた
 
「不安はあるけど、後悔はない」
「本当にやりたいことかどうかも分からない仕事に人生をすり減らされるのが嫌や」
 
その姿は昔と何も変わっていなかった。昔から決断がものすごく早くて、誰にも流されない。今回も自分で考えて、考えて、考えた末の決断なのだろうとそう思った。
 
対して、私は昔からとても優柔不断だ。進路にせよ、ファミレスのメニューにせよ人が周りが言う通りに選んできた。会社で言われたことには何でも従う。それが別に悪いことだとは思わないが、相変わらず親友はかっこいいなと思った。
 
親友は今、大きな息継ぎをしている。自分と、自分の人生を見つめなおすために水面に顔を出している。そんな親友の姿を見て、今の会社を選んだ時のことを思い出した。
 
大学4年の就職活動の時、他の友達が大手を志望する中、私はベンチャー企業ばかりを見ていた。人生100年時代が叫ばれるなか、仕事とは一生涯付き合っていく必要がある。生涯1つの会社に勤めるのであれば、教育環境も整った大手でゆっくり成長するのも悪くないかもしれない。
だが、定年後は生活の保障もなく、40年も自分の力で生きなければならない。
そう考え、私は若いうちから責任のある仕事を任せてもらえ、成長できる会社を探していた。そして、私は今の会社に入社した。
 
今思えば、就職活動をしていた時は人生を見つめなおす息継ぎの時間だった。本当にやりたいことは何なのか、どんな未来にしたいのかについて徹底的に考えることができた。
しかし、今はどうだろう。息継ぎはできているか? 人生について考えられているか?
 
この1年半私は泳ぎ続けた。
誰よりも早く成長しようと朝から晩まで働き、休日も不動産の勉強をした。
 
「あぁ、私は泳ぎ疲れたんだな」
 
と親友と話しているうちにそう思った。
毎日、毎日仕事のことを考え、いつの間にか息継ぎの仕方を忘れてしまっていた。
 
ずっと潜り続けていると苦しくなる。人生100年、長く泳ぎ続けるためにはどこかで息継ぎをしなければならない。そう考えると私の心はスッと軽くなった。
 
休みに新しいことにチャレンジしてもいいし、一旦仕事を辞めて友達と旅をしてもいいかもしれない。今まで潜り続けて見えなかったものが、水面に顔を出すことで発見できることだってあるだろう。
 
親友とはその後、週1回ぐらいは集まって温泉に入ったりしようという話をしながら、駅で別れた。
別れた後はマスクをしているにもかかわらず、不思議と息苦しくはなかった。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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