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結婚生活は留学である


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記事:たまっくす(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
先日、たまたまつけたテレビで、自分のクラスから「いじめ」をなくすために奮闘する小学校の先生のドキュメンタリー番組をやっていた。もともと見るつもりのなかった番組なのに、結局、最後まで見続けただけでなく、何度も泣いた。ソファの隣に座ってスマホをいじっていた高校生の娘が何度も不思議そうに私の顔を見ているのを感じたが、気にしていられないほど泣いた。娘も、見てはいけないものを見たと思ったのか、何も言わずそっとしておいてくれた。
 
その先生は男性で、来年50歳になる私より、少なくとも7~8歳は先輩に見えた。いわゆるベテラン教師なのだが、子どもたちに対する向き合い方が情熱的で真摯で、優しい。「この人、教師になりたてから今までずっと、こんなに情熱的に子どもたちと接してきたのではないか?」と思わせるほど、「慣れた感じ」がない。子どもたちと一緒になって笑ったり泣いたり、悩んだりする姿に心を打たれた。
 
この先生が「いじめの芽」を摘むために重要だと強調していたのが、他者や自分のとらえ方を「“差”から“違い”へ」と変化させることだった。人は他者を評価するとき、自分より優れているか、劣っているかを気にする。自分を「まとも」な者としてとらえ、他者がそれより優れていたり劣っていたりすると、その「差」を「異質なもの」「変なもの」ととらえ、周囲に「あいつ、変じゃね?」と同意を求めるようになる。この先生は、子どもたちに、「“変なところ”は誰にでもあるよね。自分の“変なところ”を探してみよう」と言って考えさせる。自分にも変なところがあると気づいた子どもたちは、それまで「変」ととらえていた他者との「差」は、「違い」であると気づき、「一人ひとり違うことは変ではない、受け入れられないものではない」と考えるように成長していく。
 
私はアメリカの大学院に数年留学した経験があるが、そもそも建国以来、多民族が共生し、世界中から留学生が集まるアメリカでは、まさにこうした「互いの違いを認める」教育が徹底される。逆に、「“差”を“違い”」として尊重できなければ、すぐに民族間の争いに発展する。黒人男性が白人の警察官に首を圧迫されて死亡した事件を受け、アメリカ全土に抗議デモが広がったことは記憶に新しい。私は、この先生のいじめの芽を摘む教育方針を聞いて、留学時代を思い出した。
 
もう一つ、「これも同じだな」と心のなかで思い至って苦笑したのが「夫婦生活」である。
 
妻とは職場結婚だったことから、お互い、相手のことはよくわかっているつもりだった。同じ会社に勤め、業務や会議、社員同士の飲み会などを通じて気心はしれていた、はずだった。今思えば、当たり前の話だが、会社で見せるヨソユキの顔など、その人間のほんの一部でしかない。東北生まれ(私)と東京生まれ(妻)、ずぼら(私)と綺麗好き(妻)、インドア派(私)とアウトドア派(妻)など、一緒に暮らすことで見えてくるのは、まさに「違い」だらけなのだが、若い(?)二人は、それをお互いが尊重すべき「違い」とはとらえず、「相手が変なのだから、修正させなければ」と思い、なんとかその「差」を埋めようとする。当然、互いに自分こそまともな人間と思っているのだから、喧嘩が絶えない。「家のなかで靴下をはくのはおかしい(妻)」「東北では家の廊下も寒いから脱ぐ習慣がない(私)」「せっかくの週末なのに家でゴロゴロしているのはもったいない(妻)」「週末くらい、ゆっくりと家でくつろぎたい(私)」など、喧嘩の種は尽きなかった。
 
あるとき、お互いに「これはどちらかが正しくて、どちらかがおかしいいのではない。ただ“違う”だけなんだ」と、ようやく気が付いた。それでも、違いを受け入れられない場面は何度も出てくる。結婚18年目の今だって、新発見の「違い」はある。昨日は、食洗器を朝食分の食器と昼食分の食器を合わせて回そうとした私に、妻から「食事ごとに都度回すべき」との新たな指摘があった。でも、そんなとき、「これは“差”ではなく“考えの違い”なのだ」と言い聞かせられるようになった自分がいる。
 
また、子どもの存在も大きい。子どもが生まれると、夫婦お互いの考え方の違い、では済まされない場面も出てくる。食事をしながらテレビを見るのが好きな私と、それを咎めながらもあきらめて、一緒にテレビをみるようになった妻だが、子どもには、テレビを見ながら食事はさせたくない、との申し出があり、それは「我が家では、食事中にテレビはつけない」という共通ルールになった。アメリカの建国の父たちが、多様な民族が共生するうえで、必要な憲法をつくったのと一緒である。
 
今朝は、夫婦生活とアメリカでの留学生活は一緒だなあ、としみじみ思いながら、食洗器に洗剤を流しいれ、スイッチを押すことができた。
 
 
 
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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