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引退という虹色のバトン


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:神本崇聖(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「今日僕はここで、サッカー選手を引退します」
 
2020年8月23日、Jリーグ鹿島アントラーズ内田篤人選手、現役引退のラストゲームが開催された。その試合後のスピーチの一言目である。
 
鹿島アントラーズでプロ生活をスタート、サッカー日本代表に選出。その後、ドイツに渡り長年膝のケガにも悩まされながらも海外での多くの時間を世界のトップレベルで経験してきた日本でも有数のトッププレイヤー。
 
そんな内田篤人という寡黙で多くの選手や監督、そしてファン、サポーターから愛された男が32歳という若さで、サッカー選手としてのキャリアに終止符を打った。
 
『引退』
その言葉にどんな想いを抱くのだろうか。
 
真っ先に出てくるのは、『しょうがない、残念、まだ早い、もったいない』というマイナスな印象を抱く言葉。その後、その言葉に自分自身を納得させてから、『よくやった、ありがとう、これからの活躍が楽しみ』というプラスな言葉を発するのをよく目にする。
 
やはり、『引退』という言葉にはマイナスな印象を抱きがちのようだ。
 
ただこの『引退』という言葉は、何もプロのスポーツ選手たちだけに使われるような特別なものではない。僕らが生きてきた時間の中にも、必ず訪れてきたのだ。
 
中学3年、最終学年の夏。僕はサッカー部。
とりわけサッカーが上手いわけではなく、ただ好きで、それだけで続けてきたようなものだった。最後の夏、最後の試合だった。
 
もちろん、上手くもない僕は控え。
その控えの中でも、控えの控えのようなポジション。
正直言って、最後の試合だからといって出してもらえるような選手ではなかった。
 
ただ、その予想は裏切られ、後半の途中ピッチに投入された。
最後の試合、最後にみんなとプレーできる時間。
できるだけみんなに迷惑をかけないように、そして少しでも鼓舞できるように大きな声を出した。
 
「ピ、ピ、ピィー」
 
試合終了のホイッスルが鳴った。
僕の中学最後の試合が終わった。
 
控えで、チームに貢献できているとは思っていない僕は、ここで引退になっても皆のようには悔しがることがないだろう、そう思っていた。
 
しかし、試合終了後、控え場所に戻り、みんなが下を向いている姿を見て、僕の目にも何故だか涙が溢れてきていた。
 
「あれ、こんなはずじゃなかったのに」
「なんで涙が出るんだろう」
 
しばらく、自分の感情に対して整理がつかないままだった。
しかし、僕はどうやら気づいたようだ。
みんなと一緒にサッカーを出来る日が最後だということに寂しさを感じていたのだ。
 
そのとき、現実に『引退』という二文字が自分の目の前に突き付けられたことを実感した。
やはり、あのときも『引退』という言葉にはマイナスな印象を抱いていたようだ。
 
内田篤人選手は、あのラストゲーム後のスピーチでこう話してくれた。
 
「この話を聞いているプロサッカー選手を目指す子供たち、サッカー小僧の皆さん、鹿島は少し田舎ですが、サッカーに集中できる環境、レベルの高さ、そして今在籍している選手が君たちの大きな壁となり、ライバルとなり、偉大な先輩として受け入れてくれるはずです、僕はそれを強く願います」
 
このスピーチで1つ分かったことがある。
『引退とは次の世代へ引き継ぐバトンだ』ということだ。
 
1人の選手の引退。それは自らが作り上げてきた歴史を、次の新しい世代の人たちに超えていけと言わんばかりの熱いメッセージだと、僕は内田選手のスピーチから受けとった。
 
僕らの多くが学生時代に部活動やクラブ、委員会など経験してきた。
そして、とあるタイミングで『引退』という形で自らの活動に終止符を打ってきた。
 
しかし、それはただの終止符ではなかった。
 
「次はもっといい活動できるように頑張ってくれよ」
「来年は全国大会まで行ってくれ、任せたぞ」
 
どうやら、次の世代に僕たちが繋いできたバトンを引き継ぐことだったようだ。
 
「俺たちの世代を超えていけ」
そんなメッセージが込められたバトンだ。
もう自分たちの子供世代かもしれないし、もしかしたら孫世代の人たちもいるだろう。
しかし、どれだけ時は経っても、日本のどこかで、世界のどこかで、僕らが繋いだバトンは今もなお、顔も声も知らない彼ら彼女たちに引き継がれているのだ。
 
僕らはこれから必ず歳を重ねていく。
そして、いつかあの学生時代のように、今度は社会人として『引退』をするときがくる。
 
それが、50歳かもしれないし、60歳かもしれない。
もしかしたら70歳や80歳になるかもしれない。
 
その『引退』という二文字が目の前に浮かんできたとき、僕らは次のバトンを引き継ぐ準備が出来ているだろうか。
次のバトンを誰に引き継ぐのか決めることが出来ているだろうか。
 
その答えは、おそらく僕らが本当に『引退』を目の前にしたときに明らかになるだろう。
そのときの答えが、明確で自信に溢れたものであってほしい、そう願うばかりである。
 
それにしても、どうやら『引退』は決して悲しいものではなかったようだ。
それは、僕らが築き上げてきたものを次の世代に引き継ぐものだった。
明るい未来を築くための虹色のバトンだったのだ。
 
未来の彼ら彼女たちに向かって、大きな声で言えるように。
誇れる『引退』に向かって、歩き続けよう。
 
「おーい、みんな。 次は任せた、よろしくな」
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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