メディアグランプリ

外出自粛でストレスを抱えている、大人たちへ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:菊田麻矢(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
最近、うちの夫がイライラしている。
普段は虫一匹殺せないほど、穏やかな性格の持ち主。その彼が身の回りのものや、妻である私にイライラをぶつけてくるようになったのは、ここ1ヶ月くらいのことだ。扉を「バタン!」と大きな音をたてて閉めてみたり、私がなにか言うと「うるさいなあ」と文句を言ったり。寝ている間も、悪夢でも見ているからだろうか、「わああああ!」と叫びだすこともあった。さすがに心配になった私は、意を決して夫に聞いてみた。
 
「最近、イライラしてない?なにかあったの?」
 
「ここのところ仕事が忙しいし、今年はGWもお盆も旅行にいけなくて、ストレスがたまっていたんだと思う。心配かけてごめん」
 
夫は無類の旅行好き。旅行費用を稼ぐために働いているといっても過言ではない。しかし我が家は3月以降、コロナウイルスの感染を避けるために、旅行のみならず週末の日帰りレジャーすらも自粛してきた。その積もりに積もったストレスが、ここにきて爆発しそうになっているのだろう。ストレス爆発により家庭崩壊、なんてことになるのは、なんとしても避けたい。
 
そこで私が思いついたのは、「花火」だ。
近所の公園で手持ち花火をすれば、「三密」を避けられるし、ちょっとしたお祭り感も味わえそう。少しでも、ストレス解消になるのではないか。早速私は、「家庭内花火大会」の開催に向けて、動き出した。
 
スーパーで花火セットを調達し、非常用持ち出し袋からチャッカマンを引っ張り出し、バケツも持って準備完了。会社から帰ってきた夫を連れ出し、家から徒歩5分のところにある公園へ向かった。日中は、子どもたちやお年寄りたちが集い、活気のある公園。夜9時過ぎに行ってみると、人っ子一人おらず、シーンと静まり返っている。狙い通り、三密対策は万全だ。電灯もまばらで、薄暗い。しかも暗闇の中から虫の声なんかも聞こえてきて、なんだか風情がある。見慣れているはずのいつもの景色が、いつもと違って見えて、ちょっと遠出しているような感覚に。とても家の近所とは思えない、非日常感が感じられた。
 
水飲み場の近くに陣取って、さっそく花火スタート。ただただ、花火に火をつけてその火花をぼんやり眺めるという動作を繰り返す。「なにかに火をつける」という行為が、普段しない行動だからだろうか。なんとも新鮮に感じられて夢中になった。しかも、花火セットには定番の線香花火はもちろん、「色が変わる花火」、「火花が吹き出す花火」、「雪の結晶のように四方八方に火花が飛び散る花火」、「香り付き花火」など様々な種類があり、意外に飽きずに楽しめる。
 
二人で黙々と花火に没頭していると、
 
「花火の火をぼーっと見ていると、なんだかリラックスできるね」
 
と夫がぼそっとつぶやいた。
たしかに、絶えず変化する火花や、火薬がパチパチ燃えている音に集中していると、久々に無心になり、リラックスできる気がした。外出自粛によってぽっかり空いてしまった時間を埋めようと、私も夫も暇があればYou Tubeやネットフリックスなどを見て過ごし、休みの日ですら、常にデジタル漬けになってしまっていた。デジタル漬けの毎日は、情報が常に入ってきてせわしない。無心になってリラックスする余裕なんて、ない。ふたりとも画面に夢中なので、会話もない。外出できないということだけでなく、もしかしたら「デジタル漬け」の日々も、知らず知らずのうちに夫にストレスを与えていたのかもしれない。
 
その日以来、私たちは時々公園で花火をするようになった。時間に余裕のあるときは、浴衣を着て。忙しいときは、線香花火だけ握りしめて。
花火をするようになってから、夫のイライラは嘘のようになくなり、夜もいびきをかきながらぐっすり眠るようになった。夫婦の他愛のない会話も、前より増えた。我が家に、穏やかな日々が戻ってきた。
 
花火なんて、子供がやるものだと思いこんでいた。しかし、むしろ花火は、ウィズコロナ時代の、大人のためのエンタメだと気づいた。三密を避けられる。家族とでも友人とでも楽しめる。手軽に近場でできて、非日常感を味わえる。デジタル漬けの時間から、いっとき離れることができて、リラックス効果もある!日々大きなストレスを抱えている大人たちにこそ、ふさわしいエンターテインメントではないだろうか。
 
花火メーカーの人に代わって、伝えたい。
最近出かけられなくてストレスを抱えている大人たちへ。久々に花火、してみませんか。

〈終わり〉
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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