五感を研ぎ澄ます
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀川 亜希子(ライティングゼミ7月開講通信限定コース)
私は某大学で学生の就職支援を行っている。
特に私が力を入れているのは「相談」だ。
「相談」を受ける時、私の心は常に「水」になる。
つまり、森の中の静かな湖畔をイメージしていただければ、と思う。
そこに波風もなく、穏やかにたゆたう湖水のような存在でありたいのだ。
湖面は、豊かに水をたたえているが、その中へ潜ると数の命であふれている。
無味無臭の真水ではなく、生き物の過ごせる自然の水。
そのような酸素いっぱいの、生き物を育むエネルギーに満ちた静かな湖の水。
その水に学生の想いを鏡のように映す心持ちで学生と向き合っている。
彼らの今の感情はどうなのか。
こんがらがってしまった糸を質問で解きほぐすのが、私の使命。
相談に来る学生は、私との会話を通して自分の心に気づいていく。
私は、ある意味私自身を忘れて「触媒」としてそこにあろうとする。
今まではこうした業務を対面で行ってきた。
自分の感覚を研ぎ澄まし、五感をフルに使って学生を感じていく。
時には始まったばかりの一日を意識しながら。
あるいは学生の背中から差し込む西日を意識しながら。
相談を受けているその時々の空気感も同時に私の心に刻み込まれる。
それだけに、当初テレワークが始まったときはとても心配した。
遠隔で、カメラや音声を使って、どれだけ私のこの感覚(アンテナ)が生きるのか。
『これはいつも以上に感覚を鋭くしなくては、学生の悩みの真意に気づけない』
そう思った。
そして、今。
思いのほかうまくいっている、と思う。
コミュニケーションとは、目で見えるだけではもちろん、成立しない。
ただ、逆に映像がなくても、耳を研ぎ澄ますだけでもかなりの情報が得られることがわかってきた。
そして面白いことに、気がついた。
これまで彼らの「今、ここ」の空気感が感じられたのは、相談時にともに過ごす場所からの「視覚」情報によることが多かった。
しかし、いざPCによる遠隔通信に頼るようになったら「聴覚」によるアナログチックな感覚が活躍しているのだ。
学生の中には、未だ私との信頼関係ができあがっていない中で相談せざるを得ない者もいる。
そんな彼らは、映像よりも音声だけで相談することを望む。
だからこそ私は、対面よりも一層耳を研ぎ澄ます。
そして、とにかく、待つ。
相手の発言にかぶせて発言の邪魔をすることのないよう。
唇が何かを発しようとしている瞬間を逃さないよう。
そうしていると、はっと息を呑んだりする息遣い、何かを感じて必死でペンを走らせている音、考え込んでいる様子が浮かんでくる。
気づきや想いが駆け巡っている様子が、音で感じられる。
ああ、頑張っているなあ……
(なんだか、愛しいなあ……)
そんな時私は、彼や彼女らの力を持っている力を信じることができる。
それは学生の持つ「生きる力」そのもだ。
さらに、ちょっと嬉しいおまけがついてくることに気がついた。
なんと、彼らが過ごす環境が、穏やかな風景とともに映像のように浮かんでくるのだ。
バックでうなりながら通り過ぎるオートバイの音が聞こえてくるときは、開け放った窓から爽やかな風がレースのカーテンを揺らしている様が浮かぶ。
比較的賑やかな町中で過ごしているのだろう。一人暮らしだろうか。
一方、ジージーと蝉が鳴く声が入り、カエルの鳴き声が聞こえてきたりなどすれば、豊かな自然に恵まれた環境が浮かんでくる。
きっと夜になると星空が美しい場所に住んでいるのだろう。
このように期せずして、コロナの影響から新しいコミュニケーションの形が始まった。
当初は、遠隔でカウンセリングがどこまで有効に行えるのか、ちょっと心配だったけれど。
今、私は楽しくて仕方がない。
だって、コミュニケーションにおいては、新しい発見や可能性がまだまだ満ちていることに気がついたから。
できない理由は、ない。
物事は、やってみるかどうか。
そして、試して失敗すればすぐに改良を加えていけばいい。
むしろ、以前より自由にフットワーク軽く実験できる。
ネット環境だからこそ、より多くのコミュニケーションが実現できる。
文字だけのコミュケーションから恐る恐る始めた学生も、こちらの静かで熱い想いで受け止めれば、じわじわとだが着実に反応が返ってくる。
うん。大丈夫。
私があなたの悩みにしっかり伴奏する。
あなたを一人にしない。
一緒に悩み考えるから。
音声だけの学生も、私とのやりとりの内に自分に対しての新しい解釈に気づいたとき、ぱっと声が明るくなる。
「ああ、僕って。ずっと自信が無かったけれど、がむしゃらな姿勢がちゃんとまわりに評価されていたってことなのですね!」
涙がこぼれんばかりに喜びに震える声が聞こえたとき、私はしみじみ幸せを感じる。
なんだ!コミュニケーションって、方法によってとても豊かになり得るじゃないか!
PCによって、文字だけの場合のコミュニケーション=手紙、音声だけのコミュニケーション=電話といった具合に、少し古いアナログ的なコミュニケーションの魅力に気づいてしまった。
いやあ、人間って本当に豊かなコミュニケーションの手段を持つものだなあ!
そして、私はあらためて自分の仕事に感謝する。
学生の想いや考えを言語化する「触媒」でよかった。
自信のない若者に寄り添い背中を押す、この仕事ができて本当に良かった!
どうか、どうか、この私が存分に学生の自立にお役立てできますように!
そのために、私は今日も自分の心を整える。
自分の心の有り様を冷静に見つめる。
若い人たちの純粋な心に私自身の価値観でもって余計な影響を与えることの無いように。
澄み切った泉のような心であるために。
どうか、どうか、私の存在が彼らのエネルギーに勇気を与えられますことを。
***
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