メディアグランプリ

本物のおいしさ


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記事:秋元賢介(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
醤油ってどんな味ですか?
 
この質問、明確にその味を言葉で表現できる人はほぼいないだろう。でも、醤油の味はこういうものだということは、日常的に醤油を使う機会の多い我々日本人ならば、誰だって想像できるはずだ。
 
しかし「鶴醤(つるびしお)」という名のこの醤油、コーヒー用のスプーンに一杯垂らして口中へ運んだだけで、我々が想像しうる醤油の味とは別次元ということが分かる。普通の醤油の味のように舌の上だけで終わるものではなく、そこからさらに奥深く広がりが感じられるのである。
 
よく、上質な赤ワインを表現する際に、「構造がしっかりしている」とか「奥行きがある」と表現されることがあるが、鶴醤の広がりとはまさにそれと同じものを感じる。同じ分量の液体を含んでいるはずなのに、口中で捉えられる要素の量が非常に多いので、多くを口に含んでいるように感じる。
 
一般的な醤油の味わいは舌だけでその味わいを感知するものであるのに対し、鶴醤はワイン同様に、舌から鼻腔へと抜ける香りや、頬の内側の皮膚へと行きわたらせることで、舌先だけでは感じることのできない全容を把握することができる。
 
なぜ深淵な味わいを感じられるのか、そこには鶴醤が一般的な醤油と醸造工程において大きく2つの点で異なることが分かる。
 
1つ目は、杉樽仕込み。
 
杉の木桶で仕込むことで、僅かな木目の隙間から縫って行われる空気の透過や保水、そして微生物の働きにより、まるで生命力を持つかのような力を醤油自体から感じることができる。
 
2つ目は、再仕込みという手法。
 
約2年かけて出来上がった醤油を桶に戻し、さらに2年間熟成させることで、極限まで深みを出すことにある。水の代わりに醤油を原料とし、醤油以上の醤油を仕込むのだ。
 
このように大きな手間をかけて作られている醤油なので、素晴らしく美味しいけれども、流通量は非常に少ない。
 
日本国内で醸造されている醤油のうち、木桶で仕込んで造られる醤油は全流通量の1%にも満たず、また再仕込みの醤油も、こいくちやうすくちといった醤油の分類の中で、1%程度である。
 
しかし、このような現状に立ち向かう若者が現れ、少しずつ少しずつ醤油醸造の世界は変わりつつある。
 
効率を重視して画一的な大量生産品が広く流通した20世紀後半の流れに対し、昔ながらの木桶で仕込まれる醤油の味わいに魅せられた若き醤油職人が、効率よりもとにかく美味しい本物の醤油を造ろうという意志を見せ、それが形となって現れ始めている。
 
そして本物の醤油の味わいは、本物を志向する消費者によって指示され、まだごく少量ではあるが熱心なファンを生み出し、今後もさらにファンは増え続けるであろう。
 
私の専門はワインであるので、古人の知恵と自然の力をリスペクトし本来あるべき姿の物づくりをすることこそ、これからの時代の在り方であるということは、ワインを通じて分かっていたつもりではあった。
 
世界各地で起こっている食や農に対するムーブメントは知っていたはずなのに、日本人として日本の素晴らしい伝統的な食物のことは、何一つ分かっていなかったことを鶴醤を通じて教えられた。
 
美味しいものを食べたいという欲求は誰もが持っているはずだ。しかし美味しいものを評価する基準が、「高級品、ぜいたく品であること」や「コストパフォーマンスのよいもの」を軸として捉えただけではなかっただろうか。
 
オーガニックが流行し始め、もはやそれは流行というよりは全世界的なスタイルとなっている。自然をリスペクトすることで、次世代につながる素晴らしい食料資源を保持しようという動きが当たり前になって久しい。
 
これからは自然をリスペクトすることに加え、本物の味を文化として後世に伝えるために、これは本来こうやって作るのが美味しいのだけれど、手間やコストがかかるから簡略化されて作られているものが多い、ということを大人の世代がきっちりと理解しなければならない。
 
充填豆腐、だしの素、みりん風調味料、食卓塩、白砂糖など、例を挙げればキリが無い。どこのスーパーマーケットでも見かける大量生産品を排除しろという事ではない。本物があって、本物を知るからこそ、汎用品の安さへの理解にもつながる。
 
さて鶴醤、今のところまだ試飲をしただけなのだが、料理に使うと料理が負けてしまいそうなので、シンプルに素材の味が引き立つ冷奴でいただくことにしよう。
 
絹ごしよりも木綿の方が合いそうだ。水分の含有量が少なく目地の詰まった濃厚な豆腐に、薬味を乗せることはせずシンプルに醤油をさっと一かけ。それこそこの醤油を最大限に活かす必要十分条件。
 
美味しいものを伝えることはできても作り出すことのできない私は、せめて美味しいものをより美味しくいただくための方法も模索しよう。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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