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其処へ行かなければ観えない景色がある


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:晏藤滉子 (ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「私は何処に向かっているのだろう?」
2015年から3年間、私は不思議な時を過ごしていた。
これは自分自身のことながら、動機は今もってハッキリしない。
 
事の発端は、ダイエットと記憶している。
「いい加減運動不足だな。痩せたいし何かしようかな」という短絡的な発想。そうは言っても運動は避けたかったというのが本音だった。
 
というのは、私は自他共に認める「筋金入りの運動音痴」だ。
運動が苦手というと主観的なものだが、「小学生の三種の神器」が全て出来なかったというと分かり易いかもしれない。小学生の三種の神器……当時の私が密かに創った造語なので誰も知らないのは当然。要は「自転車・逆上がり・25m水泳」の事を指す。ほとんどの小学生は6年間の間で体得するものだろう。勿論能力に応じてではあるが、授業で絞られ、日曜日の公園で特訓し、多くの小学生が出来るようになっている。これは、体育の授業云々というよりも、友人同士との繋がりには必要なものだろう。
 
私は何故出来なかったのか。自分自身の運動嫌いもあるが、
何より当時の私は「三種の神器」に関心がなかったのだろう。外を走り回るよりも、本を読んだり、リカちゃん人形で遊んだり、編み物をしたり、完全にインドア嗜好だったのだ。幸いなことに同じ趣味の友達もいて、それなりに満足していたものだ。自転車が乗れないという多少の不便さは感じていたものの、最初から乗れなければ不満は湧かない。歩くなりバスを利用するなり……何とかなるものだ。
 
そんな「筋金入り運動音痴」の私がダイエットの為に運動しようと思いついた。
運動未経験であれば、ウォーキングやヨガの初心者クラスなどに入会することが殆どだろう。そこで私は何故だか「走りたい!走る!」という衝動に駆られたのだ。走ることだってずっと苦手だった。50m全力疾走しても「100mのタイム?」と言われる始末……。でも当時の私は無謀にも「走る気満々」だったのだ。
 
「走る気満々」なだけで走れるほど現実は甘くはない。それ以前に「走る」ということを完全に忘れている身体は正直だ。翌日には、ふくらはぎを痛め階段すら登れない。たった10分弱走っただけで10日間悲鳴をあげていた。
身体は満身創痍。でも、根拠のない「走る気満々」は萎える事はなかった。
本屋さんやネット動画で「走り方」をイメージし、走る理屈とノウハウを頭に叩き込んだ。その頃、村上春樹氏「走ることについて語るときに僕の語ること」はバイブルだった。
 
その後の3年間は、今思い出しても別世界で生きていたような気がする。
長く走れるように、ウエイトトレーニングも本格的に加えた。休日はほとんど「走ること」がメイン。距離も次第に伸ばし15キロまでは止まることなく走れるようになっていた。特に速いわけでもないし遅くもない。マラソン大会に出たい訳でもない。ひとりで黙々と走り続け、ゴールに向かっていくだけ。苦しさと、時折空から降ってくる「どこまでも走れそうな高揚感」が交差し、走っている時間はとても尊く感じたものだ。当時の私は走ることを確かに楽しんでいたのだ。
 
私は、何処に向かっているのだろう?
自分のことながら答えを出す事は出来なかった。楽しいといっても、仕事に繋がることではない。皆と盛り上がるようなコミュニケーションにも繋がらない。
でも、何かと繋がっているような気がする……。
 
そんな「走る気満々生活」は3年で終止符を迎えた。原因は運動し過ぎによる体調不良。情けない話だが、やり過ぎ注意を無視した結果と自戒している。
 
ただ、走ることと離れた時に気づいたことがあった。
私が向かっていたものは、走ることによって体感出来る景色を見たかっただけなのかもしれない。充足感、自己肯定感、全能感……自分でやってみて初めて見られるリアルな景色。山に登らなくては山頂からの景色は見えないということだ。
 
私は、小学生の頃の自分と繋がっていたのかもしれない。
「小学生の三種の神器」さえ出来なかった自分。それはそれで問題はなかったと思い込んでいた。でも本当はどうだったのだろう。夢中になって自転車で走り回っている男子。公園で逆上がりの練習に夢中になっている子。鬼ごっこで興奮状態のクラスメイト。そんな様子を遠巻きに見ながら「その夢中の先には何が見えているの?そんなに楽しいもの?」と疑問に思っていたのかもしれない。
 
過去の自分が「どうせ出来ないし」「無理だし」と置いてきぼりにしてきたことは記憶の残像として意識下に沈んでいくものだ。「もし、それをやっていたら私は楽しめたの?」という問いが脳裏にこびりついてしまうものかもしれない。当の本人は大人になればそんなこと忘れてしまっているだろう。運動し始めた当初「走ること」に拘ったのは、そんな記憶の残像と繋がったのかもしれない。そして、私はまんまと乗ったのだ。どんな景色が見られるのか確かめる為に。
 
私は相変わらず、自転車に乗れないし、逆上がりは出来ないし、泳ぎはカナヅチだ。でも、運転免許を取って自由に行動範囲を広げる楽しみを感じているし
走ることでの豊かな時間も体感出来ている。以前のような無理な運動は出来なくてもほどほどにする要領は掴んでいる。考えてみると、今の自分が楽しんでいる事は、過去の自分が躊躇していたカテゴリーが意外と多いのだ。全てはやってみなければ分からない事であり、その原動力は好奇心だ。遠巻きに見ているだけでは、夢中のその先は見えない。
 
苦手だからと遠巻きに見続けていた「小学生の私」へ出来る事なら伝えたい。
「やってみなければ、その先の楽しさは見えないよ。やってごらん」
 
世の中には、其処へ行かなければ観えない景色があるのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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