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記事:鈴木彩友 (ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
まさか、私たち家族がこんな争いに巻き込まれるなんて……
 
3ヶ月前、無口で生真面目な父が脳梗塞で突然倒れ病院に運ばれた。母が倒れた父を自宅で発見し救急車を呼んで病院に運んだが、二日間目を覚まさぬまま帰らぬ人となった。まだまだ現役の59歳だった。
 
突然の出来事に悲しむ暇はなかった。死亡診断書を病院から受け取るとそれを市役所に持っていき様々な手続きをする。
 
火葬するにも役所からの許可がないとできないなんてこの時に初めて知ったし、銀行口座も凍結されてしまい、たとえ親族であっても原則現金が引き出せなくなってしまうため、葬儀に必要な現金を用意するにも一苦労であった。
 
その他にも、保険の手続きや、支払いが残っている自宅の住宅ローンの処理、遺品整理や資産調査など、やることが目白押しであり、父との別れを悲しむ暇もなかった。
 
私には兄と姉がいた。兄は結婚をし子どもが二人いた。姉は離婚をし一人娘をかかえるシングルマザーである。
 
相続をするにあたり資産の調査を進めていくと、父の総資産額は3000万ほどであった。自宅の建物は40年が経過していたため価値は無く、郊外の少し広めの土地の評価額が1800万程度だ。
 
現金は、コツコツと貯めた銀行預金のみ。リスクがあるからという理由で父は投資などには全く手を出さなかった。
 
「ま、ウチなんてそんな程度だよな。まだ1200万もの現金があるだけましか……」と私は笑って言った。
 
しかし、悲劇はここから始まったのである。単純に相続の計算をすれば、資産3000万のうち、母が1500万であり、残り1500万を我々兄弟が均等に三等分して、一人500万づつ分割されるはずである。
 
が、しかし、そう簡単に済む話ではなかった。
 
兄は自宅を建てる際に父から300万の支援を受けていた。また、姉はシングルマザーであるため生活難から父から200万の借金をし50万しか返済をしていなかった。
 
私はというと、兄と姉は地元の大学に実家から通っていたが、私は遠方の大学に入学したために、大学の近くで一人暮らしをして4年間仕送りなどをしてもらっていた。
 
このそれぞれの事情が火種となったのだ。
 
「兄貴はすでに300万の支援をしてもらっているのだから、500万全額ををもらう権利はない!」
 
と姉が言えば、
 
「お前はまだ150万の借金があるのだから、それを相殺しろ!」
 
とお互いがお互いを攻め立てる。
 
更に、姉が
 
「娘は来年から小学生になり、これからもっとお金がかかる。あの子に苦労させたくないから多くもらいたい。女性一人で子供を育てるのは大変!」
 
と言えば、
 
「ウチにだって小学生の子供がいる。子供をダシに使うな!」
 
と兄が抵抗する。
 
そして、末弟である私には……
 
「大学時代に4年間に500万もの仕送りをしてもらったのだから、お前の分はない!」
 
と二人は強く言ったのである。
 
私は言葉がでないくらい悲しかった。それは、「お前の分はない!」と言われたからではない。私たち兄弟は昔から仲が良く、これからも助け合っていけると私は本気で信じていた。なのに、今では父の死を悲しむよりも父が残した遺産をめぐって争っているのである。
 
醜い相続争いなんて金持ちがやるものだと思っていた。そして、私は兄弟で争いたくなかった。こんな醜い状況を見て父はなんと思うだろうか?
 
問題は更に複雑化する。総資産額が3000万とはいえ、土地の評価額が1800万であって、現金は1200万しかない。我々兄弟が受けられる相続は1500万、しかし簡単に分けられる現金は1200万しかないため、なんらかの方法で不足分300万の現金を用意するか、土地を分割で相続するしかない。
 
兄は自分の不動産をすでに持っているため、中途半端な不動産はいらない。姉も現金化が難しい共有不動産よりも現金が欲しい。
 
一方、母だって今後の生活を考えれば「現金」は必要だろう。とはいえ、家を売ってしまえば母の住む場所がなくなる。
 
父からの死亡保険が入ったとは言え、今のパートの収入を合わせても生活をするのがやっとである。例え遺族年金をもらったとしても、母にとっては決して安心できる状況ではない。そのため家を売って家賃を支払う生活はリスクが大きい。
 
しかし、兄も姉も譲歩をする様子はない。母もどうしらよいか悩んでいる。
 
このような状況が3ヶ月ほど続いた後、父の古からの友人が父の死を知り駆けつけてくれた。早すぎる突然の死にその友人は涙を流してくれたが、私は家族が争っていることで頭がいっぱいで、その父の友人を快く迎えられる精神状態ではなかった。
 
しばらく父の生前の頃の話をしていた父の友人は私の表情から何かを察したのか、「そういえば遺言書があると思うけど見たか?」と尋ねてきた。
 
突然のことであるため遺書を用意する暇なんて父にはなかったはずと思っていた。しかし、父の友人はこう話した。
 
「生前に遺言書の話をしたことがあって、ほら、あいつ真面目だろ。だから、もしものことがあったらいけないから遺言書を残そうと思ってと相談されたんだよ」
 
「でも俺はさ、『まだ早いんじゃないか? 辛気臭いこというなよ』って言ったら、『何があるか分からないし、死んでも家族が争うところは見たくないから』ってさ」
 
その言葉を聞いて私は涙が止まらなかった。
 
無口で真面目だけがとりえのような父だった。父は無趣味で仕事終わりに寄り道することも少なかった。そんな父を見て「父の人生なにが面白いのだろう?」と本気で思ったこともあったが、この瞬間そう思ったことを後悔した。
 
父の遺品をもう一度よく見直した。すると父が使っていた手帳には弁護士事務所の電話番号が記されてあった。
 
もしや、と思い電話をすると、そこにあったのだ。父が残してくれた遺言書が……
 
内容は以下の通りである。
 
家族への感謝の気持ちと、資産は法定通り、妻に2分の1、子供たちに6分の1づつ分けること。
 
不動産は妻が引継ぎ、現金の不足分は母が受取人となった保険金から補填し子供たちは現金を均等に分けること。
 
妻の老後の面倒は必ず兄弟3人で均等に行い不公平がおこらないようにすること。争いはせず助け合い仲良くすること
 
などが書かれていた。
 
相続が争族(相続争い)とならない方法は「遺言書」を残すことが一番である。
 
しかし……
 
「私の家族は仲がいいから大丈夫」
「争うような資産はないから問題ない」
 
そう考え「遺言書」を用意しない人は案外と多い。
 
一方、「遺言書」がなかったため裁判所で争われた相続問題の8割は総資産額5000万円以下、その内の35%は総資産額1000万以下という調査結果もある。
 
つまり、「遺言書」がないと殆どの家族が「相続争い」をする可能性が高いと考えられるのである。
 
むしろ、資産家の方が争いは少ない。なぜなら、彼らは専門家から節税対策を通して「遺言書」の重要性を教えられているからである。
 
父が遺言書を残してくれたおかげで、私たち家族はなんとか分裂せずに済んだ。もとのような状態に戻るまでにはもう少し時間がかかるかもしれないが、でも大丈夫、きっと以前のような仲の良い家族に戻れるだろう。
 
なぜなら父の遺言書には「仲良くすること」と書かれていたのだから。
 
父への最後の孝行として、私はその父の願いを必ず叶えると誓ったのである。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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