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コロナはバラナシのように


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題:コロナはバラナシのように
記事:高橋拓希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「チャイしばきに行かへん?」
 
くりっとした大きな目と、太く濃いたくましい眉のインド人青年が意気揚々と、ガンジス川をのんびり眺め、黄昏ていた風の私に話しかけてきました。
 
呆気に取られましたが、私も関西人なので、かろうじて意味は分かります。
 
関西には「茶をしばく」という独特の言い回しがあります。ちょっとカフェでお茶しない? 休憩しない? という意味で、それとチャイ(インドの紅茶)をかけてそのインド人青年は、言ったのだと思います。
 
しかし、今どきこの言葉を使う人はあまりいません。どうやらその青年の彼女が、大阪南部の出身(関西弁が強い地域)らしく覚えたようです。
 
せっかくインドっぽい雰囲気を楽しんでいたのに、ぶち壊しじゃないか。日本から遥々インドへやってきたのになぜ、バリバリの関西弁を聞かなきゃならんのだ。と思いつつも、奇妙な地元住民と会話できる面白い機会だと思い、チャイをしばきについて行きます。
 
ミルクティーのような甘い味わいのチャイをすすりながら、
 
「ガートへは行ったん?」と関西インド人。
「まだ行ってへん」
「ほな一緒に見に行こう、案内してあげる」
 
ぼったくりの聖地インドで、「あぁ、いつお金を請求されるんだろう」と、ぼったくりのネタ探しをしつつも、ガートへ到着します。
 
ガートとは火葬場です。
 
タンクトップを着て、ガリガリに痩せ細った5、6人の男たちが、白い布に包まれた遺体が乗せられている担架をガートへ運んでいく。ゆらゆらと燃え続ける炎の中で、白い煙を上げながら遺体が燃えている。真っ黒に焼け焦げた部分と、まだ皮膚の色が分かる部分が残っている。パチパチと音を立てながら、2時間もすれば、完全に燃え尽きて、出てきた遺灰や骨が、ガンジス川へと流されてゆく。
 
目の前に広がる衝撃的な光景に、息を呑む私。
 
人間が燃やされているところなんて、これまで見たことがないぞ。でも、人間が燃やされているというグロテスクな場面を見ているはずなのに、遺体の近くで祈りを捧げている人もいるのに、なぜ、こんなにも緊張感がないのだろう。
 
ふと遺灰が流されているガンジス川に目をやると、そこで川遊びをしている子どもたちや、遺灰や生活汚水で成り立ってりるガンジスの水で洗濯をする女性たちがいます。
 
他にも、目を瞑っている人、笑っている人、悟りを開いている仙人、カメラを向けている人、ぼったくりを吹っかけている人、いろんな表情を持った人が同じ場所に存在していました。
 
「死」とは目に触れぬものではなかったか。もっと「生」とは隔離されているような、「死」は目に見えない恐怖の象徴のような立ち位置ではなかったのか。それが完全に覆えされた瞬間でした。
 
このバラナシという地は「生」と「死」が混在しているようです。「死」がその日常生活の中に違和感なく溶け込んでいます。
 
遺灰をガンジス川に流すことで「輪廻からの解脱」、つまり、永遠のいのちを手にすることができるのだとか。
 
目を見開いて、釘付けになっている私に、
 
「どう?すごいでしょ、ボートに乗ったらもっと違う角度で見れるから行ってみたらええやん」
 
と関西インド人がオススメしてくれました。
 
結局お金をせびられることなく、ただ単に、いいやつでした。
 
実際にボートに乗ってガートを見ていると、ガート近くのガンジス川で素潜りをしている男性が。
 
何をしているのかと凝視していると、水から顔を出し、手には金色の腕時計をしっかりと握っています。
 
たった今燃やされた遺体が身につけてた金品を漁っているのです。
 
「こっちみんなよ!」
 
と言わんばかりの険しい表情で睨まれましたが、自分が「生きる」ための行動、「生」への執着が垣間見えました。
 
ヒンドゥー教の聖地であるバラナシで燃やされ、ガンジスに流されることが、インド人としての一つのステータスになります。しかも、燃やすための薪は自費で購入するので、生きていても、死んでいても、その薪の量、火の大きさで、貧富の差も明らかになります。
 
こんな「生」と「死」が色濃く見える体験によって、私のこれまで持っていた「当たり前」が「当たり前ではない」ことが証明されました。
 
親族など、特定の人だけが、火葬場へいき、燃やされる場面を見ることなく、待機し、ようやくツボに入った遺灰をもらうという、日本人としての私の考え方が壊されました。
 
「当たり前」が壊された瞬間。今、全世界の人も体感しているのではないでしょうか。
 
現在、世界中に猛威を振るうコロナウイルスも私たちの「当たり前」を壊しています。
 
自由に旅行に行く、飲み会をする、友達とおしゃべりをする。これまで私たちが「当たり前」だと思っていたことが、全くそうではなく、制限されています。
 
できて当然、と思っていたことが実はそうではなかった。関わるいろんな人のおかげで成り立っていたとうことが身にしみてよく分かります。
 
コロナはバラナシのように「当たり前」を壊しています。
 
しかし、バラナシで、「当たり前」を壊された経験は、決して、不幸ではありませんでした。一つの成長だと思います。コロナも、コロナをどう捉えるかによって、姿、形は変わって行くのではないでしょうか。
 
「コロナがあったから人生が終わった」と捉えたらそうなるし、逆に、「コロナがあったから、こんな人と出会えた、新しいチャレンジができた」とポジティブに捉えることもできます。
 
そんな今だからこそ、これまで以上に、私たちが「当たり前だと思っていたことは当たり前ではないんだよ」と、身の周りの出来事に感謝しつつも、この状況の中で、何ができるのかをポジティブに模索していかなければなりません。
 
今、何気なく生活できていることに感謝を忘れず、前向きに生きていきたいと思います。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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