メディアグランプリ

保護犬 幸助の主張


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:椎名真嗣(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
僕は人間に言いたい事がある。
 
僕は暗い倉庫で生まれ育った。そこで僕は、僕の兄弟たち30頭と一緒に暮らしていた。僕らの飼い主さんはとても僕らの事が好きだった。けれど去勢をしないで飼っていたため、どんどん僕らは増えてしまった。僕らは皆、鎖でつながれていて、食事は飼い主さんが残した残飯だった。掃除がされない僕らが住む倉庫は、僕らがした、うんちやおしっこであふれかえり、異臭を放っていた。しばらくするとその異臭は周辺にも広がり、近所からも頻繁に苦情をいわれるようになった。ある日僕らが住む倉庫に人がきて、僕らを連れ出した。僕はその時生まれてはじめて住み慣れた倉庫からでた。外は眩しかった。
 
僕らは動物保護団体に引き渡された。保護団体では僕らを譲渡会に連れていったり、里親募集サイトに僕らの画像をのせたりして、僕らの家族になってくれる人を探してくれる。また、家族が見つかるまでの間、保護団体に登録されているボランティアの人が僕らを預かり、世話までしてくれるのだ。僕らにとっては、とてもありがたい事だ。しかし当然僕らのように保護団体に巡りつかない仲間たちが多いのも事実。そんな仲間たちは殺処分されてしまう。殺処分は年間1万頭以上にものぼるのだ。僕は殺処分の話を聞いた時、人を簡単に信じちゃいけないと思った。
 
僕は僕のお兄ちゃん1頭と奥多摩に住むボランティアのご夫婦のところに預けられた。預けられたお家はお寺だった。そのお家には僕以外にも既に先輩保護犬が3頭いた。奥多摩では僕はピッチャー、お兄ちゃんはキャッチャーと名付けられた。僕らはご夫婦をそれぞれ、パパさん、ママさんと呼んでいた。最初奥多摩に引き取られた時、僕はとても緊張した。この人達は僕らをまた暗い倉庫に閉じ込める気じゃないか、と。しかしパパさんとママさんは朝夕、先輩保護犬と一緒に僕らを緑豊かな森の中や澄んだ小川へと散歩に連れていってくれた。そして散歩が終わると美味しくて栄養満点のドッグフードを毎回準備してくれたのだ。パパさんは家で仕事をしている事がほとんどなので、仕事の合間によく僕たちと遊んでもくれた。僕は先輩保護犬と、たまにもめる事はあったけれど、とても穏やかな毎日を奥多摩で過ごした。僕は一生この奥多摩でパパさんとママさんと暮らしていければどんなに良いだろうと思ったものだ。
 
しかし、奥多摩のパパさんとママさんはあくまで仮の家族。僕みたいな保護犬は世の中にいっぱいいるし、逆にボランティアの数は限られている。人側の事情としては、なるだけ早く僕は正式な家族を見つけなくてはならない。ママさんは土日になると近県の譲渡会に僕らを連れていった。譲渡会には犬好きの人たちがいっぱい集まる。僕はママさんの近くで身を小さくして、なるだけ人と目をあわせないようにしていた。譲渡会での僕はそんな感じだったので、僕の家族になってくれる人は1人も現れなかった。しかし里親募集サイトの方は何度かママさんに問い合わせがきた。問い合わせがくるとママさんは僕を問い合わせがあった家族の所に車で連れていく。そして僕は2週間、トライアルと称しそのお宅で過ごすのだ。トライアル中、僕はとても不安なので、そのお宅の隅っこでじっと縮こまって丸まっている。食事もほとんど食べない。見知らぬ土地での散歩も、とても恐ろしく、すぐに帰ろうとする。そんな感じで4回ほどトライアルはしたが、どこの家族も僕を引き取ろうとはしなかった。
 
半年も過ぎると、僕の先輩保護犬も僕のお兄ちゃんも家族が見つかり、奥多摩をでていった。あとから来た後輩保護犬達もどんどん新しい家族を見つけて巣立っていく。僕だけ置いてきぼりだ。しかし奥多摩での生活が続けられて僕は幸せだった。
 
5回目のトライアルの話がきた。いつものように車に乗って、トライアルのお宅に向かう。車の窓から見る景色は、人と建物だらけ。奥多摩のような緑は一切ない。到着したお宅も奥多摩の家の1/5程度。
「今回の人達も早く諦めれば良いのに」
と僕は内心そう思ったのだ。
 
到着した最初の夜。僕はいつものように不安だったので部屋の隅っこでじっとしていた。すると、そこのお宅のお姉ちゃんが
「不安なのね」と言って、僕と一緒に床で寝てくれた。
そして次の日もまたその次の日も僕が安心して寝られるように一緒に床で寝てくれた。
朝の散歩もお姉ちゃんが一緒にいってくれた。散歩中、人を見るとリードを引っ張って逃げようとする僕を、お姉ちゃんは落ち着くまで静かに見守ってくれた。日々不安に苛まれる僕をお姉ちゃんは受け入れ、決して僕に無理をさせずにじっと見守ってくれた。1週間が経ち、僕はこのお姉ちゃんの事を奥多摩のパパさんとママさん以外で初めて信じることにした。
2週間のトライアル終了後、僕はお姉ちゃんの家族になった。そして、お姉ちゃんは僕に『幸福を助ける』という意味で幸助という名前を付けてくれた。
 
あれから4年。僕は大人になった。僕はこれから保護される仲間たちのために人間に対して2つ主張をしたい。
 
1つ目は、全ての犬が人を好きだと思わないでほしいという事。特に僕のような事情をもつ保護犬は人を信用できないのは当然だ。僕らのように人に不信感をもっている犬に対して、冷たい目でみる人は結構いる。自分達のもっている「犬は人が好き」というイメージに合わないのが理由なのかもしれないけれど、そもそも人への不信感をもたせたのは正に君たち人なのだ。是非人嫌いの犬もいる事をわかってほしい。
 
2つ目はお姉ちゃんが僕にやってくれたように僕らをありのままに受け入れてほしいという事だ。僕みたいに人に不信感がもつ犬は人と友好的な関係を築くのが苦手だ。そんな僕らをまずはあるがままに受け入れてほしい。そうすれば僕らの人に対する不信感は徐々に薄れ、僕とお姉ちゃんのような関係になれると思うのだ。
 
この2点を君たち人間には是非お願いしたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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