「!」ひとつで救われる
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:工藤大輔 (ライティング・ゼミ日曜コース)
世の中で“テレワーク”という働き方が認知されてしばらく経った。
良し悪しいろいろあるけれど、一番難しいのはコミュニケーションではないだろうか? やっぱり協業する者同士が物理的に同じ空間にいないのは、少々不便だ。すれ違い様のちょっとした立ち話だとか、聞こえてくる会話から状況を察するとか、そういう事が出来ない。結果的に、チャットやメールの量が明らかに増えた。それに電話も長くなって、みな残業が急増した。少なくとも、僕のチームはそうだった。
やはり、知らぬ間にフラストレーションが溜まっていったのだと思う。テレワークが始まって2カ月が過ぎた頃、普段は明るい「みんなのお姉さん」的メンバーから、愚痴だか報告だか分からないメールが来るようになった。
「今日はこれにて終業します。オーダー捌けませんがもう終わりにします」
「おはようございます、いまから始業します。すべきことは多数、出来る事は僅かです」
「また無茶なオーダーが来ました。何も改善されません。期待もしません」
これは報告なのか? 僕に対しての嫌味なのか? SOSなのか? 判断に困るメールが増えていった。
確かに長期間のテレワークは、メンタル的にネガティヴになりがちだ。しかも怖いのは、自分でも気付かないうちにそういう心理状態になっていること。他のメンバーに話を聞くと、案の定、彼女は頻繁にチャットしてはネガティヴなことを言ってるらしく、みな相手をするのに疲弊しているということだった。
そして僕もだんだん彼女からのメールを開くのが憂鬱になっていった。ぶっきらぼうになった文面が、時に僕を攻撃しているように感じたからだ。結果として、僕自身も彼女への返信や言葉遣いが堅くなっていった。怖くて心を開けないのだ。そしてついに、一部のメンバーも「彼女とは話したくない」とまで言い出した。本来、僕のチームは和気藹々とみな仲が良かったけれど、そんな数カ月前の状態が想像できないほど「ギクシャク」した関係になってしまった。
そんな最中、追い打ちをかけるように僕は自分の職務で大きなミスをした。副社長が主導するプロジェクトの山場で、僕は顧客へ渡した資料の数字を思いっきり間違ってしまったのだ。しかも計算ロジックそのものに穴があって、どうやっても正しい数字が出せない状態だと分かった。
顧客は「数字の根拠が疑わしい」と副社長あてに連絡し、それが僕に転送されてきた。副社長は非常にロジカルで厳しい人だ。数字のエラーやロジックの甘さが大嫌いだし、浪花節など通じない。コニケーションも無駄なくジョークも口にしない。会議中もキレッキレの突っ込みをしてくる。職場で人間くささをまるで見せないタイプの人なのだ。
僕は覚悟を決めて、そんな副社長に説明と謝罪の返信を書いた。とても恥ずかしく、恐ろしかった。やってはいけないレベルのミスだからだ。すると程なくして返信が来た。
「本件、起こったことをとやかく言う気はないです。まずは修正して再度議論しましょう、引き続きよろしくお願いします!」
僕は一瞬目を疑った。それは言葉が優しかったからではない、副社長のコメントに「!」が付いていたからだ。僕の知ってる副社長は、この流れでメールの語尾に「!」を付けるような人ではないのだ。ビックリしたのと同時に、一瞬にして心が救われた。
そしてハッと我に返った。
僕自身のコミュニケーションがどんどん堅くなっていたこと、そして彼女のネガティヴに「攻撃されている」と感じてしまったこと。それによって僕の言葉は無機質になり、きっと彼女もまた、僕に「攻撃されている」と感じてるんじゃないか、と。
それから僕は、メンバーへの返信に出来る限り「!」を付けるようにした。
「おはようございます!」
「なるほど、ありがとうございます!」
「お疲れさまでした、ゆっくり休んでください!」
違和感がない範囲で、努めてカジュアルなコミュニケーションに切り替えた。すると、これまで畏まった文面しか書かなかったようなメンバーからの返信が、十日もしないうちにカジュアルなトーンに変わっていった。
「返信ありがとうございます!」
「頑張ります!」
「了解しました!」
メンバーのほとんどが、語尾に「!」を付け始めたのだ。そして気付けば、あれほど無機質だった彼女からの返信にも「!」が付いていた。
「今日はこれにて終了します。今週もお疲れさまでした!」
あぁ、なんという安心感だろうか。文末に「!」が付いているだけで、僕はものすごく癒され、元気をもらい、そしてメンバーとの心の繋がりを感じられる。何か、悪い夢から覚めたような気持ちになった。
気が付けばあれから2カ月、ビジネスの状況は相変わらず厳しいが、僕のチームはすっかり本来の元気を取り戻している。彼女もまた、時折疲れは見せるものの、あれ程ぶっきらぼうなメールをしてくることもなくなった。副社長からはその後「!」のメールは来ないけど、あれ以来、僕は何だか副社長をとても近くに感じるようになった。
「!」ひとつで僕もメンバーも救われた。そしてチームが元に戻ったのだ。
「今日もお大変疲れさまでした!」
***
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