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「あと15回」とその人は言った


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記事:sato(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
2年前の夏。
大きな窓のあるお店で私たちは食事をしていた。 強い日差しと照り返しのせいか、店内は明るかった。
 
「1年ぶり位かな、会うの」
 
フォークを持つ手を休めてその人は言った。
 
「この前にお会いしたのはいつでしたっけ……。 ああ、そう言えばそうですね。 もう1年以上経ちますね。 早い! 」
 
前回会った時に、帰りがけに外で写真を撮ったのを覚えている。 コート姿だったから冬だったろう、一昨年の。
2、3年ぶりに会ってたくさん話したけれどまだまだ話し足りず、近いうちにまた会いましょうと言って別れたのだった。 そのままあっという間に1年以上経過していた。
 
全く時の流れの速さと言ったら!
 
向かいに座っている人は私が新卒で入社した会社の先輩である。
当時、まだまだ経験の浅い私にとって、仕事面はもちろん、既に結婚して子どもが二人いる母でもあるその先輩は、まさに人生の大先輩。 折々に気にかけてくれ、気さくな人柄からとても話しやすく頼りにしていたが、こうして二人だけで会うにはちょっと遠い存在の人だった。
 
その後、同じ会社にいるものの所属が別になって会う機会が減り、やがて私は退職し、転職してからはほぼ仕事しかしていないような時期もあり、年賀状とメールのやり取りだけの何年間もあった。
結婚して子どもが生まれ、更に忙しい日々となったが、相変わらず先輩はタイムリーにメッセージをくれ、気遣ってくれ、励ましてくれていた。
 
そんな記憶が蘇り、20代の頃からの私を知っていてくれる、人生の半分以上を知っていてくれる安心感に浸っていた。
 
先輩は再び口を開いた。
 
「あのね、私、『カンレキ』なのよ」
 
「え? 何ですか?」
 
「カンレキ。60歳になったの」
 
目の前の先輩は、当時と変わらず美人で、スリムだった。 ゆるやかな巻き髪がエレガントだった。
まるで時間が止まっているような感覚に陥っていたので、突然出てきた『カンレキ』という言葉が『還暦』の事だと理解するまで少し時間がかかった。
 
驚きつつも、こんな素敵な60歳なら、還暦を迎えるのも悪くないと思っていると、先輩は続けてこう言った。
 
「私ね、こうして一人で気軽に出かけられるのって75歳ぐらいまでだと思うのよ」
 
「ええっ? 75歳ですか……。 今どきのご年配の方々はお若いから、80、90になってもシャキシャキしている人もたくさん居ますよね。 もちろん個人差はあるでしょうけど」
 
「まあ、そうなんだけど。 周りを見ていると、大体その位かなって思うのよ、気軽にフラリと出歩けるのって。 後は足元がおぼつかなくなったり、体は丈夫でも認知症になったり、あるいは街中に出かけること自体が億劫になったり」
 
「うーん、そうなんですか」
 
今ひとつ納得していない私に先輩は続けた。
 
「私60になったでしょ。 そうするとあと15年なのね、こうして好きな時に好きな所に出歩けるのって。 あなたとこの前会ったのが1年以上前でしょ。 まあ1年前ということにして。 仮にこれからも1年に1回会うとしたら、この人生で会えるのってあと15回なのよ」
 
「えっ、15回ですか?」
 
具体的な回数を耳にして私は衝撃を受けた。 これまで人生であと何回会えるかなんて考えてもみたことも無かった。 あくまでも『仮に』だが、たったの15回とは!
 
私が絶句していると、先輩はおどけるようにこう言った。
 
「だからね、もっと会おう!」
 
「はい! そうして下さい!」
 
私は食い気味に答えた。
 
15回会うなんて、同じクラスの学生同士や職場の同僚であれば、ものの3週間で終わってしまうような回数だ。
でも、環境が変われば会う機会が無くなることも多い。 その後も『会いたい』と思うのなら、『会おう』と意思表示して行動に移すしかない。
 
皆さんには、年賀状やメール、SNSなどで、「今度会おうよ」と何年も言い合っている相手はいないだろうか。
 
もし、それが社交辞令では無く、本当に会いたい人であれば、『今度』という日は来そうですか。 いつ来そうですか。
人生であと何回会いたいですか。
 
私には会いたい人がまだ何人も居るが、この2年ほどの間に20年ぶり、30年ぶりに再会が叶った人も何人か居る。 会えば必ず再会できた喜びを噛みしめている。
 
人は生まれたらからには、いつか死ぬ。 縁起でも無いと思われるかも知れないが、早いか遅いかの違いだけで死亡率は100パーセントだ。 つまり人生は期間限定なのだ。 夏季限定の桃のパフェのようなものなのだ。 食べたいのなら、期間中に食べなければ味わうことは出来ない。 気に入ったのなら、限定期間のうちにお店に通うのだ。
 
先月も私はその先輩と会った。 3月頃に会う予定が延期になっていたのだが、それでも以前より頻度は上がっている。 限定期間はいつまでだか分からないし、なるべく長く続くことを願っているが、15回よりもっとたくさん会いたいからだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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