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おいしいかき氷はあたたかい。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大倉 曉(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
長く寒かった梅雨が随分昔のことに感じられるほど、振り返ると8月は毎日暑かった記憶しかない。
加えて、今年は遠出ができずに、特にどこに行った、という思い出もない。
そんな夏の一番の思い出になったのが、数年来の友達が、今年から会社を辞めて始めた喫茶店で食べたかき氷の味だった。
 
自分の家から、自転車で15分くらいの場所で喫茶店を始めた、と連絡をもらったのは今年の春だった。
外出のタイミングが合わず、すっかりご無沙汰していたが、ちょうどお店の方向に用事ができたので、思い出してFacebookのページを観ると、「かき氷を始めました」というお手製の小さなのぼりが店頭に飾られている風情のある写真が気になり、訪ねてみることにした。
 
グーグルマップに導かれて太刀取り着いたそのお店は、鎌倉の、交通量の多い大きな通りから一本脇に入っていく、神社の参道の中ほどにあった。
席数は10席くらい。そのうちのカウンターは、少し荷物が置かれていたので、一度に入れるお客さんは片手の数ほどのお店を、彼女は一人で切り盛りしていた。
クラシックなソファーや木製のテーブル、食器をはじめ、キッチンに無造作にかかるてぬぐいや、様々な種類のお皿など、色使いはレトロだけども、質がよく、古さを感じさせない、センスのいい空間と、広い窓からは青空と鎌倉の森の緑が眺められる、とても穏やかな雰囲気だった。
会社員時代の、アクティブかつアグレッシブな様子からは想像もできない、のんびりとした、肩の力が抜けた様子だった。
食品関係の仕事が長かったので、、日本中の特に地方の様々な生産者さんたちと繋がりがあったために、喫茶店では、全国から珍しい、こだわりのある産品を扱うことになり、知る人ぞ知るお店になっているらしい。
そんなお店の夏のイチオシはなんといってもかき氷だという。
天然水を冬の間池に張って凍らせて、氷室で保存をした氷を使っているらしい。
いわゆるかき氷の名店などでは食べられるが、こんな小さな喫茶店で出しているところはまずないという、(昨年は暖冬だったので、卸している量も例年の半分だという)
これまで、あまりかき氷という食べ物にモチベーションがなかったので、そもそも天然のかき氷を食べること自体が初めてだ。
 
いつ出てくるのか、キッチンを眺める。
氷の削り方にコツがあり、とても気を使うのために、他のメニューを出し終えてから、精神を集中させて準備に取り掛かるという。
待っている間に頼んだ水出しコーヒーを飲みながら待つ。
これも他では飲んだことのない、爽やかかつまろやかなコーヒーだった。聞けば、1秒に1滴しか落とさない、じっくり時間をかけたコーヒーだそうだ。
 
「おまたせ! 準備するよー」
という言葉を掛けてくれたと思ったら、早速カウンター横にあるかき氷機が回り始めていた。
少し積み上がると、削る歯の出し方を変え、削り、器を起用にくねらせながら、時に優しく手で形をつくりながら、氷が盛られていく。
無農薬でつくられた果物のシロップが掛けられて、いよいよかき氷が運ばれてきた。
多分、生まれてはじめての天然氷のかき氷を食べる。
一口食べただけで、これまで食べていたそれとは全く違う食べ物であることに気付かされた。
口当たりは、確かに冷たい。
けど、味わいが、冷たいだけで終わらずに、そこから水の味やシロップの味がドンドン感じられてくる。
冷たさでごまかされない、文字通り自然な優しさを感じることができた。
見てみると、かき氷の器には全く結露がなかった。
聞くと、冬の自然の寒さでゆっくりと固まったものなので、溶けるのもゆっくりだという。
そのおかげで、器も結露せずに自然に冷えるのだという。
なるほど、確かに、食べたあとも、急に冷たいものを身体に入れた時の違和感が全くなく、満たされたようなどこかあたたかい気持ちになった。
 
かき氷は、身体を冷やすために、食べる氷、程度にしか思っていなかったので、こんなに豊かな気持ちになるとは思ったことがなく、初めての体験だった。
この氷は、日本でも有数の老舗らしく、いわゆる個人の喫茶店はほぼ扱えないものだそうだ。
長年仕事の付き合いがあったので、お店を始める時に無理を言ってなんとか入れられることができたという。
お店の並んでいる、扱っている食品や商材は、どれもそんな、縁や思い入れがあってつながっている方々のものがほとんど、とのこと。
会社員時代には、まさか自分がこうしたお店をやると思ってなかったけど、人のつながりにこんなに助けられるとは思っていなかった、と彼女は笑って話していた。
 
食べるものが、美味しい、楽しい、とその場で生まれる感情は、そこに至るまでの背景や歴史を知ると、よりその感動が増す。
このかき氷は、この夏食べたかき氷の中で、どれよりも美味しくて、冷たくて、だけどあたたかかった。
きっと、関わる人の思い、自然の中で積み重なった時間、そして彼女の大きな熱量が、そう
感じさせるのだろう。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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