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ひとつのいのちを受け止めた。忘れられない一生の宝物。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:白銀肇(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
次女が生まれたのは1999年夏、ちょっと曇り空の蒸し暑い日だった。
この日のことは今でもよく覚えている。
なぜなら、この日は自分の人生のなかでも一生忘れられない出来事が起こった。
 
次女の出産は「立ち会い出産」だった。
立ち会い出産は、家内の希望でもあった。
できれば、長女も含めて家族で立ち会ってほしい、と。
 
気持ちはわからないではないが、出産に立ち会うことについては正直怖いイメージがあった。
だから、素直に彼女の希望に答えられず躊躇していた。
 
しかし、よく考えれば、立ち合いとっても直接出産するシーンを目の当たりにするわけではない。
家内に寄り添い、介助するだけだ。
そう思い、家内の希望に応えることを決意した。
 
ところが、実際はそんな想像とは違った立ち会い出産だった。
 
この3年前に長女が生まれているのだが、このときは立ち会い出産ではなかった。
初産ということもあって、家内は実家に戻って出産した。
離ればなれでもあったし、予定よりも少し早く生まれたこともあって長女のときは生まれてから駆けつけた形となった。
だから、立ち会い出産はこのときが初めてとなる。
 
次女の出産は助産院だった。
二人目の出産を病院ではなく、助産院としたのは家内の意思だった。
 
実は、次女の妊娠がわかる前に、長女がアトピー性皮膚炎にかかった。
この経験から、家内は二人目を身ごもったときは、食生活や習慣をしっかりと見直そうと決意していた。
そうしたとき、知人から助産院での出産も勧められ、実際に助産院の紹介も受けた。
 
紹介された助産院の院長先生は、助産婦経験の豊富な方だった。
助産院の建屋もふつうの家みたいで、スタッフの方も含めてとてもアットホームな雰囲気。
自宅からそこまでに1時間ほどかかったが、いろんな相談も受けられ居心地もよかったこともあり、ほぼ毎週通った。
そんな調子で、予定日までは順調だった。
 
ところが予定日間近になってトラブルが起こった。
 
自宅で突然破水してしまったのだ。
幸にしてそのときは夜で、私も会社から帰宅していた。
慌てて助産院に連絡し、家内を車に乗せて助産院へ向かった。
破水はしたが、陣痛の気配はなかった。
 
「しばらく様子をみましょう。でも、48時間後に陣痛が起こらなかったら、病院へ搬送します」
院長先生はそう言った。
 
助産院はあくまで「助産」であり、治療するところではない。
だから、治療が必要になったり、緊急を要する事態となったときは提携している病院での対応となる。
 
いずれにしても様子をみることになったので、助産院に入院することになった。
いつ陣痛が来てもおかしくない状況でもあることから、私も一緒に付き添うことになる。
 
入院といっても、部屋は畳が敷かれたふつうの部屋で、ここお産することもあるとのことだった。
そうなると、もう自宅出産と変わらない。
 
48時間近くたってようやく陣痛が始まりだす。
病院に搬送されることは避けられた。
しかし、生まれそうな気配はない。
ちょっとこれは時間がかかるかも、ということで分娩室へ移った。
 
移ってからしばらくして、ようやく本格的に陣痛が始まる。
出産が近いということで、義母も来てくれていた。
長女も連れてきてくれていた。
家族の立ち合いもOKということで、家内が望んだ通り家族全員での立ち会い出産となった。
 
どれぐらい時間がたったであろうか、詳しい時間は覚えていないが、かなり長かったと思う。
そのあいだ院長先生は、絶え間なく家内の体をマッサージしてくれていた。
少しでも楽に出産できるように全身に汗を流しながら介抱してくれている。
 
「あともう少しだよ、赤ちゃんも頑張っているからお母さんも頑張って!」
院長先生、スタッフのみなさんが励ましの声が響く。
家内もそれに応えるように一緒懸命いきんでいる。
私は、そんな彼女を見つめつつ、できることは彼女の手を時々握るぐらいだった。
 
「さぁ、頭が見えてきたよ! あと一息!!」院長先生の声が響く。
 
しばらくして突然、院長先生が叫ぶ。
 
「さぁ、生まれるよ! お父さん来て!!」
 
「え!?」
 
「来て」ってどういうこと??
一瞬、戸惑う。
 
しかし、そんな戸惑いを吹き飛ばすようにまた叫び声が聞こえる。
 
「受け止めてあげて、赤ちゃんを!!」
「早く!!!」
 
この瞬間がもう頭の中なんて何も考えていない。
身体が勝手に動いた。
本能的と言ってもいい。
気がついたら家内に向き合って、腰をかがめ赤ん坊を受け止められるように両腕を差し出していた。
 
その瞬間、私の両腕に小さな命がするりと飛び込んできた。
もう必死だ。
落としてはならない、断じてはならない。
しっかりと抱き抱えた。
 
しかし、赤ん坊は泣かない。
よく見るとへその緒が首に巻きついていた。
 
院長先生が落ちつて対処し、へその緒を外す。
その瞬間、「オギャー!!」と泣き声。
 
あっという間のような、時間が止まったような感覚。
言葉にならない感情が一気にこみ上げてくる。
もう大号泣だ。
着ていた Tシャツは、羊水でびっしょり濡れている。
なんとも甘い香りが、また涙を誘う。
涙が止まらない。
 
この後もへその緒も切らせてもらい、赤ん坊も母親のもとで抱っこされ、分娩室の空気は少しずつ落ち着きをとり戻していった。
 
だけど、私の感動はとまらなかった。
 
次女の立ち会い出産。
まさか、自分の手で生まれてくる我が子をキャッチすることになろうとは夢にも思っていなかった。
立ち会い出産が怖い、なんて思っていた自分はなんだったろう。
こんな感動に溢れたことを怖がっていたなんて。
 
我が子の生命の誕生を自らの手で受け止めた。
これ以上の宝物は他にはないだろう。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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