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「みーんないい子だよ!」

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

「みーんないい子だよ!」
 
記事:きさらぎ(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「もっといい子にしてなさい!」
カフェの店内に30代前半くらいの母親の声が響いた。
ハワイアンパンケーキが人気のカフェの店内。
平日の午後ということもあって、店内は半分も座席が埋まっていない。
母親の声に店内がシンとする。
叱ることに必死な母親はその空気に気がつかない。
 
その母親は、小学生低学年と思われる男の子を筆頭に、二歳くらいずつ離れた子供を三人連れてパンケーキを食べていた。
多少騒いだりするものの、その年頃の子供としては許容範囲だと思うし、賑やかな長男くんは、一番小さい妹の面倒を良く見ているな、なんて思いながら観察していた。
母親の声が一番うるさかったりする。
でも私はその母親をまったく責める気になれない。
 
それは20年近く前の私を見ているようだから。
 
昔の私を見ているようでいたたまれなくなった私は、その母親に声をかけた。
「みんないい子ですね!」
怪訝な顔を向ける母親。
「お兄ちゃん、妹さんの面倒良く見て優しいですね。きっとお母さんが優しいからですね」
「お嬢さん達もニコニコして、お母さんがいつも笑顔で話しているのでしょうね」
しばらくぽかんとした後、とてもいい笑顔を返してくれた。
「ありがとうございます。そうなのですね、そうなんだ」
ちょっと気持ちがほぐれたように見えた。
「お母さん、頑張って子育てしていますね。みんないい子だもの」
更に母親の表情が和らいだような気がした。
 
私は嘘を1つも言ってない。
お兄ちゃんが妹を気遣っていたのも本当だし、妹達も良く笑っていた。
母親は、今日はたまたまイライラしていたのか、疲れていたのか、トゲトゲした雰囲気があったが、いつもそうではないのだと思う。
 
小さい子供三人連れてカフェで過ごすのはなかなか大変だと思う。
でもパンケーキが食べたい時だってある!
誰か子供を預かってくれる人がいたら一人で来たかも。
いや、子供達に生クリームとフルーツがたっぷり乗ったパンケーキを食べさせてあげたかったのかも。
 
先に食べ終えた私は、お先に失礼します、と声をかけた。
最後に、一緒にいた娘を指して、
「この人ね、小さい時は本当に大変だったのですよ。こんなお店連れて来たら、走り回るから、いつも追いかけていました」
いまではすっかり落ち着いている20歳の娘を見て笑顔で返してくれる。
「全然そんな風に見えませんね」
「でしょう。あんなにウロチョロしていた子もいつかは落ち着くのよ。あっという間」
そんな会話をして店を出た。
 
端から見ていると、必要以上に子供を叱っているように見えたり、注意をする母親や父親の声の方がうるさい時もある。
みんな一生懸命に子育てしている。
周りに迷惑をかけないように。
静かにしなければならない場所があることを教えるために。
 
あと、私の経験からすると、
ちゃんと叱ってはいます。でも、なかなか言うことを聞いてくれないのです。
なんて周りにアピールしている所もあったと思う。
 
先ほど話した通り、我が家の長女は、とにかくじっとしていなかった。
公園でもスーパーでも飲食店でも。
スーパーで買い物をしている時は、食材を選んでいるのか、娘を追いかけているのか、何しにきている? という状態だった。
外食するときは、必ず、おもちゃを数種類用意していたし、大人が交代で外に連れて行ったりした。
 
悩みまではしなかったが、なかなか大変だった。
 
幼稚園に入っても、みんなが教室にいるなか、一人で園庭を走り回ったりしていた。
 
同じ頃、美術教室に通いだした。
 
そこの先生がとにかく褒めてくれる。
娘のことも、親の私も。
 
「みにくいアヒルの子」の読み聞かせをしたときに、
「アヒルの子はお母さんに会えたの?」と娘が泣いたそうだ。
先生は、
「なんて優しい子なの。感受性も豊かに育っていますね」と言って下さった。
さらに私のことも褒めて下さる。
「お母さんの子育てが良いのよ。すごくいいから、そのままで良いからね」
 
涙がこぼれそうになるほど嬉しかった。
 
幼稚園でのことも相談したら、
そんなこと最初だけだから気にしなくていい。
だってまだ三歳よ。
幼稚園のルールなんてわからなくて当然よ、と心が軽くなる言葉を頂いた。
 
小学生になって通った、習字教室の先生の言葉にも幾度も救われた。
反抗期で大変だった時も
「本当に良い子。心配しなくて大丈夫だから」
「お母さん、しっかり子育てしていると思っていつも感心しているのよ。いろんなこと話してくれるけど良く考えているわよ」
私に話さないこともお習字の先生には話していたようだ。
 
先生方の「いい子。お母さんも素晴らしい」という言葉で、救われて、報われて、子育てをやってこられたのだと思う。
 
毎月届いていた幼児教育のビデオの冒頭「みんないい子だよ」の言葉が流れる。
「いい子だね」という言葉は、大人の言うことを聞き分ける子でもなければ、頭のよい子や行儀のよい子ではない。
「いい子だね」のその一言には、
愛しているよ、好きだよ、かわいいね、そのままでいいよ、元気に育ってね、等々。
溢れる愛が詰まっているのだと思う。
たくさんの表現しきれない愛情を「いい子だね」という言葉に込めるのだ。
すべての子供は無条件に愛しい存在なのだ。
 
そして、「みんないい子だよ!」の言葉には、親へのエールも含まれているのだと思う。
頑張って子育てしているね、大丈夫だよ、間違っていないよ、などなど。
 
その短い言葉は、子供と親へのあたたかい愛の言葉なのだ。
 
だから私は、我が子も、よその子も、機会があればいつでも
「いい子だね!」と伝えたいと思う。
そして私がしてもらったように、お母さん、お父さんにも伝える。
「お母さんがよいから、こんなにいい子なのよ」
その言葉にエビデンスは必要ない。
理由も理屈も必要ない。
たったその一言で救われる母親や父親もいるのだと思う。
 
子供が0歳なら親も0歳、3歳なら3歳。
親も子供と一緒に育っていく。
だから、子供だけでなく、親達のこともあたたかい目で見守ってほしいと思う。
みんな日々、必死で、頑張って、子育てしているから。
 
子育て最中のすべてのお母さん、お父さんに伝えたい。
「みーんないい子だよ!」
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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