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世界中の敵から愛する人を守る方法


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:たまっくす(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
皆さんは「松本サリン事件」のことをご存じだろうか?
 
事件の詳細については、ググってもらえばわかるしWikipediaもあるので参照してほしい。かなりかいつまんだ説明をすると、1994年6月27日に長野県松本市内の一角で、ある宗教団体の信徒数名が教団教祖の指示のもと、神経ガスのサリンを撒き、8人の死者を含む重軽傷者600人の被害者を出したテロ事件である。
 
この事件は、サリンという化学兵器とも呼べるレベルの毒物が一般市民に対して用いられたというおそろしさに加え、第一発見者の男性が無実であるにもかかわらず、約1年間、警察とマスコミに犯人扱いされた冤罪未遂・報道被害事件としても名高い。彼は、家族とともに理不尽な取り調べや取材を受け、家では毎日、おびただしいほどの誹謗中傷の電話やFAXを受け続けた。
 
その1年間のことは、河野義行さんという、その疑われたご本人が複数の著書で明らかにしている。河野さん自身もサリンの被害を受けて入院されたうえ、奥様は、言葉も話せないほどの重度のサリン中毒を患い、2008年に60歳でお亡くなりになるまで病院で寝たきりの生活を過ごされた。そんな人を警察もマスコミも、そして世の中全体が犯人扱いした。
 
1994年6月、私は、卒業するはずだった大学に単位不足の留年扱いで残っていた。就職先も決まらず、ぼんやりとした日々を過ごしていた。新聞も読まず、テレビのニュースにも注目しない不勉強者だったため、この事件のことは、正直、あまり記憶になかった。
 
コロナの影響で自宅待機が増えた今年の4月、たまたまつけたテレビのドキュメンタリー番組が50周年放送で、過去の事件の当事者に話を聞くという企画をおこなっていた。河野さんの肉声はそこで初めて聞いた。個人的に思い入れのない事件当事者のインタビューなど、普段なら、すぐにチャンネルを変えるか消すかしていたはずだが、結局私は最後までそのインタビューに釘付けになった。
 
それは、「事件が起きなければと考えることは?」という質問に「あまりないですね。起きてしまったことというのは、後から取り替えることというか変えることが出来ないわけだから」というこの人の回答に強く引き付けられたからだ。
河野さんはさらに、「真犯人だった宗教団体幹部を恨んでいないか?」と聞かれ、「恨んでどうなるの?」と言ったあと、「恨んで妻が元気になって戻るとかがあれば恨む意義もあるけど、不幸なことも人生の歴史の1コマということで切り替えていかないと、不幸の上に不幸を上塗りするような人生になってしまう」とサラリと答えた。
 
私は、この番組を見終わったその日のうちに、地元の図書館に行き、彼が書いた著書数冊を借りた。妻の命を奪った事件の真犯人を、間違った仮説で不当な取り調べをおこなった警察を、警察からの情報をうのみにして自分を犯人のように報じたマスコミを、誹謗中傷の電話やFAXを送り続けた世間を「恨んでいない」と即答できるこの人の強さの根源がどこにあるのか知りたかったからである。
 
著書を通じて、事件当時、河野さんは会社勤めをしながら、中3~高3の3人の子どもたちを学校に通わせていたことがわかった。中1~高2の3人の子どもをもつ私は、河野さんが、父親として家族を世間の攻撃から守り切ったことにも深い敬意を感じた。よくドラマや歌謡曲で、「世界中を敵に回しても、俺は君のことを守る」などの言葉を目にするが、それを本当に実行し、家族を世界中の敵から守った河野さんは、同じ父親として、私の英雄となった。
 
河野さんが複数の著書を通じて、一貫して主張している言葉に、彼の強さの根源が見えた。それは、「自分という人間を本当に100%信じてくれる。そういう人をたった1人でいいから作っておいてください。そうすれば辛くてもちゃんと戦える」というものである。
河野さんにとってそれは病床にいる妻であり、事件発生当初から弁護士手配などに動いてくれた友人であり、マスコミにどんな報じられ方をしても解雇せずにいてくれた勤務先の社長があたるようだった。もちろん、ともに警察の理不尽な取り調べを受けながら最後まで父親を信じてついていった子どもたちもそれにあたるのだろう。
 
「自分という人間を本当に100%信じてくれる人」の存在が、自分を強くする。たった一人でもよいから、そういう人を持つことが、世界中を敵に回しても自ら屈せず、家族を守り抜く力になる。私は求めていた答えにたどり着いた気がした。
 
と同時に、「仮に、世の中にそういう人が一人もいないと嘆く人がいたら?」とも考えた。そして不思議なことに、私はその質問への答えになりそうなエピソードを即座に思い出したのである。
 
私は高校2年生だった。学校が何かの記念行事で、「元総理大臣夫人」という肩書のご婦人を招き、講演会を開いた。そのご婦人は、いわゆるファーストレディとして、夫に帯同した外遊の際の裏話や、地元での選挙活動中に起きたハプニングなどを面白おかしく話してくれた。偉い人なのに非常に気さくな方だった。
 
講演が終わって、質疑の時間になった際、進行役の教頭先生が、生徒たちの質問の口火を切る形で、こう質問した。
 
「よく、総理大臣とは、あるいは一国のリーダーとは孤独なものであると言われます。奥様自身もそうお感じになられたことはございましたか?」
 
元ファーステレディは、
「私はクリスチャンなので、世の中から否定されたり、孤立したりすることをあまり怖れたことはありません。クリスチャンって、日曜は教会に行かなくちゃいけないとか、食事の前にはお祈りをしないといけないとか、いろいろ縛りがあって不自由なように思われがちですよね。でも、実は『神は私を見て下さっている』というゆるぎない信頼感があるために、それさえ忘れなければ、あとは何をしても自由、と考えるんです。かなり自由です。
言い換えれば、神様と私は信頼の糸でつながっている、と信じることが大事とも言えます。それを信じていられるので、マスコミや世間が夫や私のことをなんと言おうが、世の中から孤立した状況になろうが、あまり苦になりません」と、よどみなく答えた。
 
仮に「自分を100%信じてくれるヒトがいない」と感じたのなら、それはヒトでなくても良い。元ファーストレディにとってそれはヒトではなく「神様」だったが、もちろん神様である必要もない。天国に行ってしまった優しかった祖父母でも良いし、飼っていた愛犬でも良い、いつもの通学路の脇にたたずむお地蔵様でも良い。自分を100%信じてくれ、自分も相手を100%信じる、と思える相手ならば、それが今の世の中に実在する人であるかどうかはあまり関係がない。
 
自分の心のなかにある、誰かに対するゆるぎない信頼と誰かに信じてもらっている安心感。それがあれば、たとえ世界中を敵に回したとしても愛する人を守れるはずだ。何より、愛する自分自身を守れるはずだ。
 
≪終わり≫
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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