ウィンブルドンに行って感じた「聖地巡礼」
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:樋野敬太(ライティング・ゼミ日曜コース)
みなさん、「聖地」というとどんなことを思い出しますか? 昔は「聖地」というとメッカとかエルサレムとか、宗教的なイメージを持っていました。
最近は「聖地」がいたるところに出てきています。ネット上にはアニメの聖地が100カ所近く紹介され、天狼院書店 店主の三浦さんも「君の名は」とか「天気の子」の聖地に行ってみようと一度は思ったことがあるはずです。
「聖地」に行ったことのないみなさん、「聖地なんて……」と思っているでしょ。今回は「聖地」のいいところをお届けします。
以前、仕事の関係でロンドンに住んでいた。海外赴任はどこでも大変だが、ヨーロッパも例にもれず大変だ。夜遅くまで仕事をしても、朝8時から日本とのテレビ会議に呼び出される。
それでもテニス好きとして、何としても参加したいイベントがある。テニス発祥の国・イギリスで行われる4大大会のひとつ、ウィンブルドン選手権だ。
ウィンブルドンは最も格式高い大会とされているが、会場はあまねく人に開かれている。4大大会では唯一、当日券で見に行くことができるのだ。ただし、開催は1年でも一番暑い7月上旬。当日券での観戦は気合と体力が必要になる。
その日は午後に休みを取り、会場に向かった。まさに長蛇の列。だだっ広い芝のグラウンドに蛇のように人がずーっとうねっている。蛇の頭は会場の入り口にあるんだろうが、大きなメインスタジアムは影も形も見えない。結局その日は人が多すぎて会場入りすることができなかった。
「もうどうにでもなれ!」
大事なものを投げ出す覚悟で休暇を取り、朝から列に並んで昨日見れなかった蛇の頭を目指し、数時間、まだ見ぬ会場に思いをはせていた。
ついに蛇の頭を超え、憧れの場所へ。さすが四大大会。クラブ内にはたくさんのコートがあり、トッププロを文字通り目の前で見ることができる。
不思議な空間だった。
スポーツをやっていると、ある時、うまい選手との間に越えられない壁ができる。大人になると「プロ」という世界が自分の世界から切り離されてしまい、自分は近くても観客席、いつもはテレビの前の視聴者という立場に切り離されてしまう。
学生の頃はうまい選手のプレーをコート内で見て、すごいな、どうやったらこんな上手になれるかな、と考えていた。試合が終わった後には、声をかけさせてもらって話をすることもできた。
「聖地」には学生の頃のその空間があった。
世界のトッププロと同じ地面に立ってテニスを見ることができたし、試合が終わったら出待ちをして声をかけることができる。私も日本人選手に声をかけて握手をして、応援と感謝の言葉を伝えた。
「もしかすると私もこの人たちぐらい、うまくなれるのかもしれない」
空間を共有するだけでそんな錯覚に落ちることができる。ちょっとだけなりたい自分に近づくことができた。
ここまで来ると、もはや聖地巡礼スイッチがオンになっていた。
聖地ではみんな喜んで寄進する。普段だったらちょっと高いな、と思うオフィシャルグッツも喜んで買ってしまう。私は嬉しくなって家族分だけでなく、日本にいる親の分まで買ってしまった。
別段おいしくもないと評判の名物「ストロベリー&クリーム」ももちろん食べた。普通のいちごに質の悪い練乳をかけたような味だが、記念写真まで撮ってしまった。
初めのうちは私の中でもウィンブルドンはテニスの観光地だった。でも会場に入ってテニスを見て「なりたい自分に近づけるんじゃないか」と感じた瞬間、急にそこが「聖地」になった。高いオフィシャルグッツもつらかった炎天下さえも一瞬でありがたいものに変わった。
メッカへの巡礼も、江戸時代の伊勢神宮へのお参りも、参加者は遥かなる場所から思い切って出発し、大変な思いをして向かったんだと思う。目的地の「聖地」につくと自分の信じる神様に近づいた気がする、夢に近づけたような気がする。そんな幸せな気持ちになったことだろう。
そのハイテンションのまま、神様に尽くしたい気持ちを表現しようと、ありがたい気持ちで寄進したんだと思う。
尊敬する人物とか憧れの姿って誰しも持っているけれど、もしかするとその姿は手の届かないところに行ってしまったかもしれません。「聖地」ってそんな「なりたい自分に近づける場所」です。お金を使うことにも幸せを感じられるし、そこで買ったお土産を持っているだけで、ちょっと力が湧いてきます。
そこの疲れたあなた、ぜひ苦労してでも「聖地」に行ってパワーを補充してみてください!
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