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心地良さの正体


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:堀紗章子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
衣食住にもう一つ加えるならば、何を入れるだろうか。
ある映画を見てふとそんな事を思った。
 
「日日是好日」
私はこの言葉の意味どころか読み方さえも知らなかったのだが、数日前にこの言葉がそのままタイトルになった映画を見た。
女子大生が茶道を通して10年以上に渡り、日々の生活や人生で大切なものを感じ、受け取っていく成長物語だ。
茶道というものは奥が深く、何の為なのかわからないような不思議な決まり事が多い。
映画の中でも、畳一帖を六歩で歩いたり、お茶を飲み干す時に「ずっ」と音を立てたり、一瞬戸惑うようなルールを頭で考えるよりも体に慣れさせていく様子が描かれていた。
 
映画を見ていてなんだか懐かしい気持ちになった。
 
私は母親が茶道の講師で実家にも畳の部屋があった事から、幼い頃から幾度となくこの不思議なルールに則って所作を教えられた。
 
まだ子供という事もあり、何もかも意味がわからないまま形だけ真似ていたのを覚えている。
襖を開けるときは片手で一度に開けるのではなく、引き手に近い方の手で少しだけ開けたら別の手に変えるだとか、畳は十六目下がった所に座るだとか。
正直、襖なんて一度にさっと開けても変わらないし、畳の上で何目下がって座っているかなど誰も気にしないだろうと思う。
 
そんな細かいことをあれこれと注意された私は見事に茶道から興味を無くしてしまったのだが、その細やかな指摘は茶道だけではなく生活の中でも母親から受けていた事を思い出した。
 
例えば、裏表もわからないような真っ白なタオルがあったとして、それを畳む時に縫い目を見るように言われたことがある。
適当に畳むのではなく、ちゃんと縫い目が裏にくるように畳めと言うのだ。
沢山の洗濯物を畳むのなら、いちいちそんな事を気にしたくもないし、ましてや洗濯以外にも山ほど家事をこなさなければならないのに、何故そんな小さな事まで気にしているのかと驚いた。
仕事や、他人のために行う事なら必要だと思う。しかし自分だけの為だったり、気を遣わなくてもいい家族間のことならばどっちでも良いじゃないかと、面倒くさがりな私は当時考えていた。
 
今になってこそ、そういう細やかな気遣いが美しいという事に気づけてきたが、昔は茶道をやっている人は細かい事を気にしたがる性質なのだなと他人事のようにしか思えなかった。
 
それでも、自分が大人になるにつれ様々な人と関わり世の中を知り、嫌な思いをしたり他人からの気遣いに心を打たれたりすることがあってその細やかな気遣いの大切さを理解した。
 
気遣いのある空間にいる事は本当に心地良いのだ。
 
茶道で「ずっ」と音をたてて飲みきるのは振る舞ってくれた相手に対して分かりやすく飲み終わったという事を伝え相手が次の所作に移りやすくする為の気遣いであり、十六目分下がって座るのは相手との程よい距離を保つ為である。
 
一見不思議に思えるルールはその空間を心地良いものにする為の気遣いであり、私は今まで茶道と同じように生活の中に溢れている小さな気遣いによって守られ成長してきたのだと気づいた。
 
気遣いというのは衣食住と同じと言っても良いのではないか。
 
少し欠けていても生きてはいけるが快適ではないし、ある程度欲してしまうものだ。
きっと誰しもが無意識のうちにそのバランスを保って生活をしているのではないだろうか。
 
自分が気遣う分相手にもそうであって欲しいと思ったり、期待以上に居心地の良さを提供してくれるような場所や人間関係は無くならないで欲しいと願ったり、「ホスピタリティ」と言ってしまうと途端にサービス精神と結びついてしまう気がするが、素晴らしいホテルの快適さも根本的には同じで普段の些細な気遣いを心地良いと思う事が分かり易い形になったものだと思う。
 
もしも全く気遣いが無い世の中になってしまったら、肉体的には生きていられるけれど、精神的には何も満たされないだろう。
 
茶道の不思議なルールもタオルの縫い目を気にする事も、ホテルのような分かり易い快適さは得られないが、衣食住と同じように生活を支える一部だ。
そんな気遣いが当たり前のようにあるからこそ、私たちは毎日を快適に過ごし、心地良い空間、心地良い人間関係を作っていける。
 
「日日是好日」とは過ぎてしまった事や失ったものにとらわれず、日々をありのままに生きていこうという禅語らしい。
ありのままに生きるというのは身勝手に生きることでは無いと思う。
映画の中の女子大生のように、所作の意味は分からずともとにかく身につけ、自然と周りへの気遣いができるような人間になった上で、ありのままに生きていくことが美徳だと思った。
そして衣食住と同じように「気遣う心」を満たすことで、自分も周りの人も心地良く過ごせるようになれたら良いと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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