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好きなものは好き!~人生の相棒は意外なアイテム~


好きなものは好き!~人生の相棒は意外なアイテム~
 
記事:イマムラカナコ(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「ママ、また触ってる!」
娘が、苦笑いと共に指摘してくる。
分かっているのだ。
でも、どうしようもないのだ。
気がつくと触ってしまう。
手が勝手に求めてしまう。
磁石のように、私はその手触りの魔力に引きつけられ逆らえないのだ。
 
私が愛して止まないもの。
空気のように、必要不可欠なもの。
 
それは、タオル地のもの。
タオル、タオルハンカチ、タオルケットなどである。
 
よく幼い子供が、眠るときに母親の耳たぶを触るという話を聞く。
まるで睡眠導入剤の如く、耳たぶを触りながら眠りに落ちる。
毎晩の穏やかな癒しのルーティン。
安心して眠るための儀式のようなものだ。
 
うちの娘の就寝前のルーティンは、何故か私の親指の先や爪を触ることだった。
どこがそんなにお気に召したかわからないのだが、娘は幼い頃、決まって眠くなると私の親指を求めた。
大人から見れば、眠たいなら何もせずにスッと眠ってしまえばいいのにと思うのだが、眠りに入るためには外せないことのようで、私がふざけて親指を隠すと途端に癇癪を起こしていた。
おかげで娘がぐっすりと眠るまで、私はこそばゆさとの戦いになった。
娘は、私の親指をぎゅっと握るのでもなく、触れるか触れないかの微妙な圧でサワサワと指先を動かすのだ。
お願いだ。早く寝てくれ。
本人は心地良いのだろうが、こちらは妙な感覚でこそばゆくて仕方ない。
毎晩のちょっとした苦行だったが、娘がそれで安心して眠れるのなら、それもまた必要不可欠なことだと娘の寝顔を見ながら微笑ましく思った。
 
私の幼い頃からの睡眠導入剤は、タオルケットだった。
実は今でも保管している。
元々薄ピンクで可愛らしいクマちゃんの刺繍が施してあった子供用のタオルケットは、幼い頃から私の必需品だった。
タオルケットの少し硬くなってけば立った感触が大のお気に入りだった。
指先で触れていると安心した。
何故それが私の感覚にフィットしたのかは分からない。
言葉では表現できないが、誰しも「これでなければ」というものがあるのではないだろうか。
 
長年私の相棒として活躍してくれたタオルケットは、クマちゃんの刺繍ははがれ、色も変わってしまった。
クタクタになり、端っこがほつれても、私はなかなかそのタオルケットを手放せずにいた。
何故なら、その手触りを超えるものが現れなかったからだ。
あまりにも古くなり、逆に相棒として留めておくことが忍びなくなってきた私は、2代目の相棒を探そうと思い立った。
 
いくつかタオルケット売り場で手触りを確かめたが、もちろんどれも新品である故、私の好きな手触りには到達していない。
使っていくうちに出てくるあの風合いには、熟成具合が達していないのだ。
こうなると、どのタオルケットを購入するかは賭けになってくる。
しかもいくつもタオルケットを買うわけにもいかない。
悩ましい問題だった。
 
その問題を解決できそうなものに、ある時私は出逢った。
タオルハンカチである。
普通の綿のハンカチ売り場の横に、タオルハンカチが台頭してきていた。
タオル地フェチの私は、すぐに食いついた。
これならば、値段もお手頃で熟成具合を気軽に楽しめるではないか。
デザインを確かめるふりをしつつ、タオルハンカチの裏地に触れてみた。
どれが、私好みの風合いになるだろうか?
気分は、お宝探偵団で目利きをする専門家のようだ。
ウキウキしながら、何枚か購入した。
 
早速職場にも帯同した。
ある日、お手洗いで手を洗った後、私はタオルハンカチの使い心地に満足していた。
購入して何度も使用したタオルハンカチは、いい具合にけば立ちを育てていた。
この感じ。ああ、ほっこりするなぁ。
仕事に戻り、パソコンを打ち始めると何とも手が落ち着かない。
そうだ、膝の上に乗せておけばいつでも触れることができる。
こっそりと人には見えない位置に、タオルハンカチをセットした。
ふと気がつくと、何故か左手はタオルハンカチに触れるために膝の上にばかり置いていた。
右手のみでパソコンを打つのは難しい。
私は断腸の思いで、タオルハンカチをバッグにしまった。
だめだ。この子を職場に連れてくると仕事に支障が出てしまう。
手触りがお気に入りのタオルハンカチは、出禁となってしまった。
 
そうこうしている内に、私には新たな出会いがあった。
娘が長年保育園で使用していたお昼寝用のバスタオルである。
しかも図柄がクマちゃんの。
大きさは、タオルケットよりも小さいが、けば立ち方と言い、洗濯のしやすさと言い、再び私の睡眠導入剤としては持ってこいだった。
 
冒頭に私が触っていたものが、このバスタオルだ。
もう私の相棒となって数年が経つ。
夏でも冬でも、タオルケットや布団を被ったあとに必ずこのタオルを首元に持ってくる。
そしてその手触りを確認しながら眠りにつくのだ。
気分は、そう、昔、城達也さんがパーソナリティーを務めていた「JET STREAM」というラジオ番組を聞いているような気分だ。
私は10代から20代の頃、深夜にラジオで放送されていた「JET STREAM」を聞くのが日課だった。
「JET STREAM」は、夜間飛行をテーマに旅愁をかきたてられるような番組構成だった。
城達也さんは、機長という位置づけで、まるで静かな夜の飛行機に乗っているかのような私たちにリラクゼーションを与えてくれる語り口調で曲や世界の街を紹介してくれた。
それに身を任せていると、アルファ波が出てくるのか、とても癒されるような不思議な感覚に襲われたものだ。
 
私のタオル愛は、ちょっと異常かもしれない。
家族は苦笑いで私の行動を見ているが、他人から見れば何をやっているのかと不思議がられることだろう。
でも、好きなものは好きなのだ。
 
触れることは、五感の中で言えば触覚だ。
五感でも、鼻が利く人、動体視力が優れている人、舌が肥えている人、絶対音感がある人、ちょっとした質感に敏感な人など、その人独自の感覚があると思う。
感覚と心は繋がっている。
心地良いと思える感覚を増やせば、心も潤っていく。
心が不安なときや落ち着かないとき、感覚を使ってリラックスさせるのも必要なことだと思う。
香りが好きな人はアロマ。
美しいものを見るのが好きな人はアート。
美味しいものが好きな人はグルメ。
音楽好きな人は楽器や歌。
私たちを豊かにしてくれるものは、様々だ。
 
私の場合は、安心する手触りのようだ。
今の相棒もだいぶくたびれてきた。
捨てることはできないだろうが、その内世代交代となる日も近いだろう。
福岡のどこかのタオル売り場で、長時間ウロウロしているアラフィフ女性を見かけたら、それは私である可能性が高いので、その時は温かい目で見てください。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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