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「十年一昔」 この世のどこかで 幸せでいて欲しいと願う人


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「十年一昔」 この世のどこかで 幸せでいて欲しいと願う人
 
記事:さくらしおり   (ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「十年一昔」
 
世の中は移り変わりが激しく、10年も経つと、もう昔のことだという意味だ。
そして、10年を歳月の流れの一区切りとする意味もある。
 
私にとっても、10年は、まさに、一区切りだった。
離婚した後、当時のことを、冷静に考えることが出来るまで、10年かかった。
 
元旦那との出会いは、私が25歳の時。
 
仕事でこれ以上ないというピンチの時に、助けてくれたのが彼だった。
2つ年上だった彼は、年齢以上に思慮深く、社交的で、話も面白い、そして、頼りがいがあった。
 
私は、一気に興味を持った。
 
お互いがそうであったようで、あっという間に、2人の距離は縮まった。
出会いから3ヶ月が経つ頃には、すでに、結婚を決めていた。
 
結婚してしばらくは、とても楽しい毎日だった。
 
しかし、3年が経つ頃、彼は、仕事上のストレスから、体調に異変をきたしてしまった。
そして、診療内科に通院し、しばらく療養することになった。
 
頑張っている人に、「頑張れ」と言うのが一番良くないと聞いていたので、彼には、無理をせず、仕事のことは考えずに、今は、だたゆっくり休んで欲しいと伝えた。
その時の私は、心のどこかで、少し休めば、良くなってくれるだろうと思っていた。
 
彼も、少し休んで復帰しようとしたが、結局、実現せず、休職することになった。
 
当時の私は、仕事、家事、町内やお寺の役割や行事など、平日も週末も、慌しい日々だった。
しかし、時間を見つけては、書籍やインターネットで、彼の病気に関連しそうな記事を読み漁った。
伝手を頼って、色々な医師や、カウンセラーの先生にも相談しに行った。
 
考え付く良いと思われることを、全てをやろうとしていた。
しかし、彼の病状は、どんどん悪くなっていく。
 
浪費や、大量の飲酒、暴力的な言動・・・・・・。
次第に、私1人の手には負えない状態になっていった。
 
どうすれば良いのか?
はっきりした答えがないまま、時だけが流れた。
 
彼の通院に付き添ったある日。
彼の主治医は、「私は、奥さんの方が心配です」と言った。
促されるがまま、診察室にあった体重計にのると、私の体重は驚くほど軽かった。
「こんな状態で、働くのは無理です!」と言われ、書かれた診断書は、「自立神経失調症」だった。
 
その後2週間。
私まで、仕事を休むことになった。
最初の1週間は、僅かな食事をとり、トイレに行く以外は、朝か夜かも分からないほど、眠り続けた。
2週間目になって、ようやく、少し起き上がれるようになった。
彼は、その間、献身的に、私の看病をしてくれた。
その様子を見た私は、これをきっかけに、彼が良くなるのではと期待した。
けれども、私の看病でストレスが溜まったのだと、彼は、また、以前の状態に戻ってしまった。
いや、以前よりも、ひどくなってしまった。
 
回復した私は、また、無理をし続けた。
 
自分さえ頑張れば、彼が良くなってくれるのだと、信じていた。
けれども、私が頑張れば頑張るほど、彼の病状が悪くなっていく・・・・・・。
 
そして、ある時、私が一緒にいることが、彼の症状を悪くしてしまっているのでは? と思った。
 
その後、彼と離れることを決意する「決定的な出来事」があり、私は彼と離れた。
 
彼と離れた時。
私は、彼を今の状況から解放して自由にしてあげなければならないと感じていた。
そうすれば、彼は良くなるだろうと。
地面に括り付けられている風船が空高く昇っていくように。
彼は、自力で浮上できるだろうと。
 
私が予想したとおり、しばらくして、彼は、社会復帰した。
 
復帰の連絡をしてきた彼は、私にこう言った。
「色々と頑張ってくれてありがとう。 幸せに出来なくてすまなかった」と。
 
彼は、心のどこかで私に甘えていたのだろうか。
私がいなくなって、1人でやらなければと思う気持ちを奮い立たせて、頑張ったのだろうか。
 
いずれにしても、復帰までの道のりは、簡単ではなかったと思う。
そして、復帰後も、元通りとはいかなかったかもしれない。
 
心の病気には、色々なケースがあり、対応もケースバイケースだと思う。
私の対応が、医学的に正しかったのかは、今も分からない。
 
しかし、10年経った今、新たに思うこと。
 
当時の私は、目の前の出来事に対応するのに精一杯で、本当の意味で、彼の心に、真正面から向き合い、寄り添えていなかったのだと思う。
 
彼の中の虚しさ、寂しさ、悲しみ、怒りなど、心にすっぽり出来た穴に触れることを、恐れていたのかもしれない。
 
そして、自分さえ我慢すれば、自分さえ頑張れば、という方向に走ってしまった私は、意図せず、彼にプレッシャーをかけていたのかもしれない。
 
そこまで思い至った時。
 
彼という風船を縛り付けていたもの。
それは、私だったのではないかと思った。
 
私は、あんなに1人で頑張らなくても、良かったのだ。
もっと自分にゆとりを持って、真正面から、彼の心に向き合い、寄り添えば良かったのだろう。
 
誰かを大切にしたければ、自分を犠牲にするのではなく、まずは自分を大切にする。
自分が良い状態であってこそ、相手も大切に出来るのだと、今は思う。
 
十年一昔。
 
今、彼が、どうしているのかは分からない。
けれども、この世のどこかで、幸せでいて欲しいと願う。
同じ時を共に過ごした仲間として。
 
この後の人生、私は、どんな時も、まず自分を大切にしよう。
人を大切にするためにも、まず自分を大切にしよう。
 
十年一昔。
 
私は、少しは、成長できたのだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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