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痴漢されました、男なのに

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:福田大輔(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
痴漢された。
それは22歳の10月頃だった。
とにかくショックだった、なんか色々な意味で。
 
僕、オトコなんですけどね。
 
朝の中央線の通勤ラッシュの時間帯だった。
 
詳細は忘れてしまったがその日は朝の9時ぐらいには新宿駅に着いていたかった。
いつもは乗らない朝の通勤時間。
栃木県の片田舎で暮らしていた僕には満員電車はいつまで経っても慣れなくてしんどい、てか怖い。人間がぎゅうぎゅうに押し込められて皆が常にイライラしているようにも見えていた。
 
当時の僕は中央線の西国分寺駅に住んでいた。新宿駅までは快速電車で30分強の乗車時間だ。
 
異変が起きたのは荻窪駅を過ぎた頃だった。新宿駅に近づくにつれて電車内の混雑具合はどんどん上昇していく。
新宿まであと10分ぐらい、携帯電話を見る余裕もないぐらい密着して混みあっている。
 
ん?!
 
太ももの辺りに何か感触がある。あぁ、後ろにいる人のバッグが当たっているのだろう。最初はそう思ったがどうも違う。
 
それは五本の指と平がある人間の手だ。明確な意志を持って僕の太ももを触り続けている。
しかもソフトに、卵を扱うかのように優しく触ってきている。
 
優しく触っている手は指も太く、おそらく僕の手より一回りは確実にでかい。
そのでかい手で僕の太ももの形状を確かめながら、僕の反応を確かめているようだった。
 
ん? おかしいだろ??
いやいやいやいや、おかしいだろ?!
 
僕の脳内メモリーはショートしてしまいそうだった。
オレ、男だぞ。なのに男から痴漢されている?!
 
足元に視線を落として背後の人の靴を確認する。どう見ても男物の靴だ。背もおそらく僕より10センチ以上は高い。背後に感じ取れるガタイの良さ、絶対に自分より腕力が強いのが分かる。
ホテルでバイトをしていた時に従業員のおばちゃんにケツを掴まれたことはあったが、今オレを触っているのは男だ。
 
あなたは男が男から痴漢されるかもなんて想像を一度でもしたことがあるか?
シュミレーションしたことがあるか?
想像の斜めの斜めの斜め上すぎる出来事が自分に起こっている。
 
太ももを触っていた手はどんどん上がってきている。
あれ? 僕、ケツ、狙われてませんか??
 
そう思った瞬間、その手は僕のケツに到達していた。
 
まずいぞ。落ち着くんだ、オレ。
このままされるがままでいいのか。
何か対処法を考えなければ。
色々よく分かんねえ。
 
病人のふりしてその場に倒れこんでやろうか。
いやいやいや、下手したら電車が止まって時間に間に合わなくなっちゃうし。
てか、倒れこめるほどのすき間がないぐらいにぎゅうぎゅうだし。
 
それならば
「この人、痴漢です!!」
そう叫びながら背後の人の手を掴んでやろうか。
いやいやいや、構図がおかしい。男が男の痴漢を訴えて助けを求めて信じてもらえるのか。
 
それならば
「助けて下さい! 助けて下さい!!」
世界の中心で、愛を叫ぶの映画のワンシーン張りに叫んでみようか。
いやいやいや、やっぱり構図がおかしい。何なら冤罪で逆に訴えられたりしないか。
 
まずい、本当にどうしていいか分からない。
まだ新宿駅に着かないのか?!
 
上手い対処法が見つからないまま、されるがままケツを触られている僕。
ソフトだった手触りが心なしか徐々にハードタッチへと移行している。
オレのケツで楽しんでんじゃねえ! そう思ったときだった。
 
掴まれた!!!
 
つま先から頭の先までゾワーってした。
僕のケツが背後の男に掴まれてるよ。
 
やっと僕はささやかな抵抗を思いついた。
為されるがままのこの状況に少しでも変えなければ。
柔らかいケツが好きなのは万国共通の価値観のはずだ。
 
だから僕はケツに力を入れてギュッとして固くしてみた。
固いケツは好きじゃないだろう?
 
すると相手もケツを掴む力を強くしてきた。
僕と痴漢でケツの攻防が繰り広げられている。
 
新宿駅はまだなのか?
ケツの筋肉がもう攣りそうなんだけど。
 
そして新宿駅に着いた。
ぎゅうぎゅうに押し込まれた人々が作り出す電車から降りようとする流れのままホームへとたどり着いた。
 
僕を痴漢していた男の姿を確認することは出来なかった。
あぁ、こうやって誰に痴漢されたのか分からなくなるんだな。
 
後日、この話を色々な人にしてみた。
もちろん、深刻に話してもしょうがないので面白いネタのつもりで。
 
大半の人は笑ってくれていたが、一部の女性は笑わないで真面目に耳を傾けてくれていた。
そうか、きっととても怖いと感じたことがあったのかなと想像ができる。
男性である僕なんかとは比べものにならないほどに危険を感じながら電車に乗っているのだなとその時に思い知らされた。
 
面白いネタが出来たと思いつつもそれなりに怖かったのは間違いない。
なんなら奥歯がガタガタ言いそうなほどだった。
 
一度も想像したことがない状況になると頭が真っ白になって思考停止しちゃうこともよく分かった。
そして自分よりも力が強いって感じる相手からされるがままの恐怖感とか気持ち悪さの理不尽を身に染みて感じることが出来た。
 
そして僕だから言えることがある。
電車に乗るとき男性だからって安心しちゃいけない。
あなたのケツも極上のターゲットかもしれない。
 
最近だと痴漢の冤罪なんかも怖いが、男だって痴漢に遭う可能性もあるのだ。
そんな時に僕のように頭が真っ白にならないように一度シュミレーションしてみてほしい。
 
あなただったら痴漢に遭ったらどんな対処法が考えられますか?
 
***
 
 
 
 
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2020-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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