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メディアグランプリ

豊かな器用貧乏


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ゆーすけ(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
僕の知り合いに生まれてから二十五歳までに七種類のスポーツに取り組んだ男がいる。それも体育の時間でやったとか遊びでやったわけではなく、「本格的に」やったと彼は主張している。
「どれも、ちゃんとやったんだよ。「とりあえずは泳げるようにしておかないと」って両親が考えて強制的に通わされたスイミングスクールから始まって、サッカー、野球を小学校で掛け持ちして、中学の部活はテニス、高校の部活はバスケ、それから大学で新しいことが始めたくて、アメフト部に入部して、社会人に入ってからはゴルフを始めたんだなぁ」
と言うのだ。
なんでそんなに「つまみ食い」のようにコロコロといろんなスポーツを経験したのかというと、彼いわく「どれも成功しなかったから」ということらしい。
「俺にとって、スポーツって“こってりしたとんこつラーメン”なんだよね。こんなこと言ったら本気でスポーツしている人に怒られるかもしれないけれど……」
「どういう意味だよ」と僕が尋ねると、
「いやあね、ああいうラーメンって、最初の一口、二口はうまいじゃん。「お、これは!」って思うけど、だんだん食べているうちにお腹に溜まってきて飽きてくるでしょ。俺もいろんなスポーツをやってみたけど、最初はいいのよ。すごく。自分で言うのもなんだけど、俺って飲み込みが上手いみたいで、コツをつかむのが得意なのよ。初心者でつまずきがちなところは大抵一発でうまくやれて「おおー。すごいね!」とか言われるんだよね。で、俺も自分で「才能あるな」って思っちゃうのよ。でもやっぱりそれだけじゃダメなんだよね。だんだん上手くいかなくなって、結局は成功しないのよ。それでその競技に飽きちゃうわけ。で、ちょうどその頃、次のものに挑戦してみたいって思うのよ。それで、また違うスポーツに挑戦しようとするんだな。だから、もし俺が何らかのスポーツで活躍できてたら、それをずっと続けてたと思うから、ここまでいろんなことには挑戦しなかったと思うね」と得意げに話していた。
事実、彼は七種類のスポーツに取り組んだが、どれも成功していない。少年野球はずっと補欠だったし、テニスも大会では大抵、二回戦か三回戦までで負けて帰ってくる。バスケも補欠で「もう少しでレギュラーになれるところだった」というくらいの実力らしい。アメフトも鳴かず飛ばずで、社会人から始めたゴルフはスクールにも通って三年間続けたものの、一回もスコア百を切れずにやめてしまったらしい。
こうした中途半端な僕の友人であるが、それでも全体を通したらとても豊かな人生に見える。なにせこれだけのスポーツをやってきたわけだから、経験と、それから話題には事欠かない。スポーツの話題になって何かをしゃべらせたら、彼の右に出るものはいないのである。JリーグもBリーグも、プロ野球も詳しいし、テニスの四大大会で誰がベストフォーに入っただとか、NFLで今季はどこのチームがプレーオフに進んでいるかとか、今年のゴルフの全米オープンは誰が調子いいとか大体把握していて、飲み会の席でスポーツの話が始まると水を得た魚のようにべらべらとしゃべりだす(そしてついでに、彼がやったことがないはずのスポーツもなぜか詳しい)。
彼の様子を見ていると「こういうスポーツへの関わり方も一つの方法なのかもしれない」と思ってしまう。たぶん正攻法としては、一つの競技にずっと携わり、その道を究めるというのが正解なのだろう。何かを究めるという行為自体は人生の土台ともなる。何かを究めるには、毎日コツコツと努力を積み重ね、日夜の研究が欠かせない。もちろん、それを続けていき最終的にプロになれる者は限られてくるが、たとえそうなれなかったとしても、その道を究めようとする過程での努力や研究心が習慣となっていれば、その後の人生を生きる上でも役立つし、仕事などをするにしても、良い仕事をする人間になるだろう。それこそが、おそらく日本の部活動が求めるところなのかもしれない。
彼のような人間はそういったタイプとは完全に真逆だ。まず、「何かをやり続ける」という根気が決定的に欠如している。何をやっても続かないし、(しかも聞いている話だと)本当に「勝とう」とか「うまくなろう」という強い気持ちを持って努力したのかは甚だ疑わしい。確かにそれだけではただの飽き性のダメ人間である。しかしながら、彼には何でも「手を出してみよう」という好奇心があった。そして、どんなにそれまでのスポーツで失敗しても、特に気にせずに次の競技に挑戦する、変な「後腐れの無さ」があった。このような要素が組み合わさって、最終的に「豊かな器用貧乏」として今を楽しそうに生きている。
つい先日彼と会う機会があったが、その際彼はこう言っていた「実は、登山始めたんだよな! 今は日帰りだけだけど、そのうち山小屋泊やテント泊もしてみたいね。それから、雪山にも挑戦したいな!」
新たな野望も結構だが、友人よ、気をつけろ。山で失敗したら死ぬからな。そう、忠告しようと考えたが、思い直してやめた。どうせ彼はそんなこと聞かないだろう。
 
 
 
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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