自分らしさの募金をしよう
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森本 雄大(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「はっはっは!!! めっちゃ面白いっすね!!」
「さすが上手だねぇ! 昼飯でも行っちゃう?」
「すげぇな~。ここまでお前を中心に話が回ってるよ」
まだ新鮮味のある事務所。たくさんの大人たち。
新卒の僕は、1つ上の先輩に連れられて会社の喫煙所にいた。
テンポよく会話が飛び交う中、僕は一言も発することができない。
長縄に入れない子供のように、その場に居続けるしかなかった。
「森本君、緊張してるっしょ。でもせっかくこういう場なんだから、話さないとな!」
緊張して話せない僕をわき目に、先輩は軽快なトークを繰り広げる。
僕を連れてきてくれた先輩は、要領がよく仕事ができる人だ。
その場に合わせて対応を変えるのがうまく、社内でも一目置かれていた。
僕は友人といるときは明るくなれるのだが、仕事場ではどうも縮こまってしまう。
おまけに仕事も遅いときたら目も当てられない。
僕は、先輩みたいになりたかった。
「先輩って本当すごいですよね。どんな場所でも対応できるし、成績もいいし、羨ましいですよ。」
本音を漏らすと、先輩は不思議そうな顔をしながら言った。
「まぁ社会人なんて本音と建前でしょ。その場で誰を敵に回しちゃいけないか、相手が何考えてるとか、考えて話すよ。仕事も効率よくやりたいしね」
「そんなもんですか……社会人って難しいですね……」
「森本君は素直すぎるからな~。まぁそれがいいところなんだけどね」
そんな先輩から言われても、自分のいいところだなんて全くピンとこない。
僕にとって先輩は、別の人種のように思えた。
先輩みたいに、計算して立ち回った方が良いのだろうか。
そうしたらすぐに職場に溶け込んだり、結果を出したりできるのだろうか。
そんなことを無い脳みそで考えながら、社会に向いていないのかと思う。
考える力も未熟だった僕は、本を読み、何かヒントになりそうなことを探してみた。
募金をするとか、靴を磨くとか、成功の秘訣のようなものはたくさん載っていたが、
悩みを解決する都合のいいものはなかった。
大人になるって、思いのほか難しい。
そんな葛藤を胸に抱えたまま、月日は流れていく。
気付くと僕は社会人3年目になっていた。ある程度仕事は慣れたが、葛藤は消えない。
「もっと要領よくやれたらな。うまく振舞えたらな」
次々振ってくる仕事を息絶え絶えに処理し、外回りに出かける。
まだ慣れない客先では、いまいちトークも続かない。
帰ってくる頃には、もう定時を回っていた。
机に戻るとたっぷりたまった書類。
19時、19時半……時間が過ぎていく。
「あ~帰りてぇ~!」
そう心の中で叫びかけたころ、携帯が鳴った。
ピリリリリ……
画面を見ると、いつも良くしてくれるお客様からの電話だ。
勘弁してくれと思った。
正直この時間だ。電話に出なくても何も言われない。
でも、どこか胸がざわつき、僕は電話に出ることにした。
出たほうが良いと思った。
「ありがとうございます! 森本です!」
空元気で電話に出ると、聞きなれた声が返ってきた。
「あぁ、遅くに悪いね。急に材料が必要になっちゃってさ。明日欲しいんだ。
何とか頼めないかな」
安堵に近い声色で、お客様は話し出した。
もうこんな時間だ、無理ではないか……
いやもしかしたらと思い、キーボードをたたいて在庫を確認した。
「あった! 明日一緒にもっていきます!」
「おぉ! 助かった。恩にきるよ。いつもありがとうな」
温かい声が電話口から聞こえ、通話は安らかに切れた。
正直普段は、怒られないか。ということを気にしてしまう時も多い。
でもこのときは、お客様の力になれたという嬉しさがあった。
電話に出てよかった。心からそう思った。
あの場で電話に出るのは、行動としては要領が悪いのかもしれない。
でも、その結果として困っているお客様を助けられた。
上っ面の良い言葉は無くても、人の力になれた。
相手のことを考えて、本心で行動すれば、きっといい結果がついてくる。
「要領よくやりたい」
形を追うばかりで、今まで大切なことに気づけていなかった。
自分の本心に従いながら、人のためを思って行動する。
そうすれば自分の正直さは、社会でも立派な長所になるのではないかと思えた。
自分の本心に思いやりを足してみる。
それはある意味、募金のようなものなのかもしれない。
自分に対して見える結果は出ないけど、回りまわって人の為になる。
そんな行為だったら、いくらでもしたっていいじゃないか。
要領が良くて、賢い社会人にはまだなれないかもしれない。
それでも一歩づつ、自分らしさの募金を続けていこう。
それがきっと実を結ぶ時が来る。
心の募金箱も、不思議と満たされた気がした。
***
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