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美容師とは電動自転車である


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:くろだ しゅんすけ (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
美容師をはじめて今年で18年目になる。
実は、志した動機は髪とはあまり関係なく
「人見知りの自分を変えて、誰とでも話せるようになってもっと広い世界で生きたい」
ただそれだけだった。
 
とても臆病な僕は、人からどう思われたら嫌だとか、どう言われたくないとか
もしかしたら理解し難いかもしれないが
物心ついてから実際そんな事ばかりずっと考えて生きてきた。
その原因こそ、今では自身の発達障害が関わるとわかったのだが
幼い頃は、本当に一人で何もできず
バスに乗る事すら恐怖だった。
「もし、違うバスに乗ってしまったらどうしよう」
「バス賃が足りなかったらどうしよう」
「降りるところを間違えたらどうしよう」
「聞いてもわからなかったらどうしよう」
人に聞くという事がどうしてもできずに
それを考えるだけで涙が溢れてきて吐き気がするほど苦手だった。
 
心も成長とともに思春期には、さらに大人としての浅いプライドが高まってきて
国語の授業でほんの数行の本文を読む事すら汗が吹き出し、目の前が真っ白になって
声はうわずって、おまけに教科書を持つ手もわずかではなくガタガタと震える。
まわりからヒソヒソと声が聴こえる、笑い声も聴こえる。
先生から「どうした?」と言われた一言に「具合が悪くて」と声にならない声で嘘をつき、一度自分を偽った事でその後も長くこの問題とは付き合っていく事になる。
酷い日には、発表の順番が近づくにつれて緊張のあまり過呼吸になったこともある。
そんな経験も重なり、発表のある授業を仮病で保健室に逃げる事も増えたが
本当の理由など、保健の先生にすら打ち明ける事はできなかった。
そして、学力は徐々に低下していった。
同時に、授業の進行に置いて行かれる焦りと、ひどい点数のテスト結果、学校の掲示板に貼り出される成績の学年順位はみるみる下位へ落ちていき
隠せない浅いプライドはグサグサとクワでえぐられるように傷ついていった。
 
それらの反動は大きく、家では荒れ狂いはじめ
手に負えないフタをした感情は、テレビや家具を破壊し
挙げ句の果てには、母の嫁入りダンスに膝蹴りで穴をあけてしまう始末
もはや反抗期のイライラで片づくレベルを通り越していた。
伝えるということが苦手を通り越し
なかなかできずに、もう限界だと意を決して伝えても伝わらないジレンマ。
伝えきれなければ、今度は全てを自分の中に閉じ込める方法にきりかえる。
周りの友達を見ていても、みんなもこうなのかと疑問を抱きながら
これが一生続くのか、何とか乗り越える方法はないものだろうか
日々将来への不安に押し潰されそうになりながら生きてきた。
 
高校は地元の進学校に奇跡的にギリギリ入ることができたが
成績は中学時代よりさらに下位から数えた方が簡単な位置をキープし続けた。
そうして進路相談の時期がやってきた頃には
本来目指したかった建築士に繋がる
道は、ほぼ断たれてしまっていた……。
 
当時は美容師全盛期、あのカリスマ美容師ブームの真っ只中だった。
そんな中、他校の友人たちが美容室でバイトを始めており
誘われて友人の働く美容室へと足を運んだのだ。
担当は、友人イチ押しの、ナオミさんという地元で人気の女性スタイリストさんで
パンク系ファッションで鼻にピアス、スラッとしてクールな印象とは真逆で
「くろちゃん! どうなりたい?」
と、気さくでやわらかな雰囲気のギャップに驚いたのは今でも忘れない。
だが僕は、それでも自分の要望すら緊張して言えなかった。
気がついたら、僕はツイストパーマというパーマをかける事になっていた。
もう流れに身を任せようと思い、仕上がりを待った。
そして
人生初のパーマというものをかけた僕は、まんまと感動してしまう。
容姿が変わるだけで、新しく生まれ変われた感覚を体感した僕は
見事にナオミさんのファンになってしまう。
部活で日焼けした風に、わずかに髪も明るくしてみたり
気づけば耳と口にピアスもあいていた。
 
僕は意を決した。
 
「美容師になる」
接客業は、嫌でも話さないわけにはいかない職業。
どうなるかわからないけれど、もう退路を断とう。
本来、何かを作る表現は好きだった。
絵を描く事も、工作も、言葉を介さず何かを伝える事ができたからだ。
そうして僕は、美容学校に入り新しい自分とともに自分を変える旅に出た。
 
いろんな経験をさせてもらえた美容学生生活の後半には
クラスリーダーに選んでもらう事もできた。
依然として、あがり症は克服できていなかったがクラスのために
自分で考えを持って自発的に行動することは、何より自分の自信となった。
これから本番が待っているんだ、僕はプロになるんだ!
だから逃げない、今だから笑われたっていい。
 
そうして無事、二年間の過程を経て東京で美容師デビューを果たした。
とても厳しい美容室で一切の甘えは許されなかった
毎日たくさん叱られたし、怒鳴られる事も多かった。
その環境は僕には吉と生じた、もうこれしかなかったのだ。
逃げたら終わり、そう思って働き今に至る。
いまだに緊張はするが、しかしもうそんな事すらどうでもよくなってきたのだ。
 
美容師という仕事を通じて、聴くことの大切さ
相手の立場や、感情、またはタイプによって伝え方を変える事も
技術だと星の数ほど経験した。
まだまだ満足していない僕は、今こうして文章の勉強を始めている。
 
自分を変えるきっかけとなった美容師は
最初はペダルの重い自転車だと思っていたが
今では、電動自転車のように意欲に向かって背中を押して
素晴らしく軽快なスタートをきれる最高の職業となっている!
 
 
 
 
***

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2020-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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