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娘よ、大志を抱け!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小池友妃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「新体操やめたい」
忘れもしない。
ちょうど1年前、小2の娘が涙を溜めながら訴えたこの言葉を……。
 
「ママ、クラス代表のリレーの選手になったよ! それもアンカーだよ」
児童クラブに迎えに行き、車に乗った途端、娘は満面の笑みで私に伝えた。
娘は、1年生の時もリレーの選手だったが、アンカーになれたのが相当嬉しかったようだ。
 
「すごいじゃん! 頑張って!」
「うん!」
娘は、学校での練習もとても楽しいようで、どんどん性格も前向きに明るくなっていった。
私は、そんな娘の姿を見ているのが嬉しかったが、どんどん自信が出てくる彼女にちょっとした不安も感じていた。
 
運動会前日、いつものように私は娘と一緒にお風呂に入った。
「ママ! リレーの練習でね、ずっと私のチーム1番なの。 明日の運動会だけど、徒競走もリレーも1番だったらステーキ食べに行こうね」
「いいよ。本番何が起こっても最後まで諦めずに全力尽くしてね」
「うん! 大丈夫だって。総合優勝したらね、私が代表でトロフィーをもらいに行くの。楽しみだなあ」
「すごいじゃん! 優勝したらママも嬉しいなあ」
私は、これまでこんなに積極的でポジティブで幸せそうな娘を見たことがない。
とても嬉しいことではあるが、明日の運動会が無事に終わり、娘が1番になれるようにお仏壇に手を合わせようと湯船につかりながら考えていた。
 
晴れやかに澄み切った秋晴れの中、運動会は開会された。
まずは徒競走。
娘は1番でゴールした。
ちょっと一安心。
 
そしていよいよプログラム最後のクラス対抗リレーが始まった。
娘のチームは、彼女が言うとおり、最初からトップを走り続けてはいたが、2位との差はギリギリ。
アンカーの娘にバトンが渡った。
ゴールまであと10mを切ったところで、娘は油断をしたのか後ろを振り向いた。
その直後、身長120㎝の娘は一瞬にして、頭一つ分大きい同級生の子にゴール直前で抜かされてしまった。
 
娘は2番でゴールした。
 
声が出なかった。
悪夢だと思った。
親の私でも耐えることができず、悔しくて泣きそうになった。
 
娘は、呆然とし黙っていた。
ずっと黙っていた……。
 
数日経ったある日、
「ママ、来年は絶対にリレーで優勝したいから陸上クラブに入りたい。陸上一本で頑張りたいから、新体操やめたい。他の習い事も全てやめる。ママ、いい?」
と娘が真剣な顔で相談に来た。
娘はまだ7歳。
7歳でこんなにはっきり自分のやりたいことに覚悟を持てるものなのかとびっくりした。
私は、3歳から頑張っている新体操までやめちゃうの? と内心思ったが、娘の意志を尊重してみたいと思った。
 
市内の陸上クラブには年齢的にまだは入れないと聞き、まずは陸上教室に入った。
知っている子がいない中での初めての挑戦。
一人で大丈夫かなあと少々心配ではあったが、娘はコーチの言うことを真剣に聞き、積極的に練習に取り組んでいった。
娘の姿勢は、まるで私に覚悟を決めて取り組むとはこういうこと何だよと教えてくれているかのようにも見えた。
子は親の背中を見て育つと言うが、私は子の背中を見て気づかされていた。
 
年初に入ると、娘は陸上クラブで練習しないかとコーチからお誘いを受けた。
娘は念願の陸上クラブに入ることはできたが、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、すぐに長いお休みになった。
 
とはいえ、念願の陸上クラブに入れたのにじっとなんかしてられない。
毎日、ホッピングしたり、縄跳びしたり、家の周りを走ったり、彼女らしく楽しんでクラブ再開を待ち望んでいた。
 
6月に入り、やっと練習が再開。
娘は喜んで積極的に練習に参加した。
同じ学校の子がいないから大丈夫かなあとか、同学年が2人しかいないけど大丈夫かなあなんていう私の心配はいらなかった。
娘は、いつも自分から誰にでも積極的に話をしていた。
 
9月に入り、初の記録会に参加した。
娘にとっては、人生初の他のクラブチームの皆さんと一緒に行われる記録会。
そんな大切な記録会なのに、私は前日まで、スパイク、大会用洋服など用意していないことに気づかなかった。
慌てたが、時既に遅し。
間に合わなかった。
娘は練習着、練習靴で記録会に出場した。
娘にとっては、クラブの仲間と違っていても、そんなことでどうでも良く、記録会に出られることが嬉しくて仕方なかった。
 
まずは、走高跳から。
125㎝の身長の彼女ではあるが、得意と娘自身も言っていただけあって、小学校3年生で唯一85㎝のバーを跳んだ。
娘にとっては幸先の良いスタート。
 
そして、50m走。
走高跳で90㎝にチャレンジした時、バーに足が引っかかり、地面に頭から落ちてしまい、痛くて暫く泣いていたのが気になったが、私は遠くから唯々見守ることしかできなかった。
 
さらに、クラウチングスタートだと思っていた娘は、スタンディングスタートのやり方に戸惑い、またスターターが鳴らすピストルの合図にびっくりして、出遅れてしまった。
最下位でのスタート。
ところが娘は次々と抜き去り、残り10m位のところでトップに立った。
まるで小学校の長廊下の嫌な汚れを一気にきれいなぞうきんで消し去るような勢いで走りきった。
その姿が、私には自分の心の中の蟠りを自分自身できれいに消しているようにも見えた。
 
タイム8.81秒。
調べたところ、2019年小学校3年生女子の全国平均は10.39秒。
上位2.5%にもうちょっとで入るほどのタイムらしい。
 
娘が、運動会のリレーで絶対に優勝したいという強い志が、この結果を産んだのだ。
 
さて、今年の運動会。
徒競走では、圧勝で1位獲得!
クラス対抗リレーはというと、残念ながらコロナの影響で取りやめとなってしまった。
 
「絶対、クラス対抗リレーで1位になる!」
娘が決めた志が、来年こそ達成できるのを楽しみにしている。
 
娘よ、大志を抱け!
 
 
 
 
***
 
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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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