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その言の葉は、棘となり、教訓となり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺真由(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
皆さんは、忘れられない言葉はあるだろうか。
私は、ある。
その言葉は棘として心に残り、時に大きくなったり小さくなったりしながらいまだに私の心にある。
 
 
 
あれは高校二年生の学祭前だったか。
忘れもしない、昼休みになりにぎやかになった教室。
いつも通り、クラス内の部活の同期3人(私、Yちゃん、Hちゃん)で机を並べる。私は、3つ上の兄に合わせて作られた肉多めの茶色いお弁当を広げながら、白ご飯にフリカケをかけ始めた。
その日の話題は、学祭に向けた部活の練習について。
練習に来ない同期がいることに頭を悩ませていた私とYちゃんは、ぽろぽろと愚痴をこぼしていた。
 
いつも通りかにみられた昼休みの中に、その言葉は突然降ってきた。
 
 
「向上心ないね」
 
Hちゃんである。
 
「……え?」
「だって、本人のいないところでそういう愚痴言うなんて、向上心ないよね」
 
 
直前の国語の授業では夏目漱石の『こころ』が取り上げられていた。
文中で出てきた“精神的に向上心のない者はばかだ”いうセリフ。
「一昔前にはそんなに厳しい言葉を言う人もいたんだなあ、こわいこわい」
なんて思いながら話を聞いていた私は、その数分後に同じ言葉が自分に向けられるとは思ってもいなかった。
(今思えば、Hちゃんの性格を鑑みるに、これに影響されすぎてしまったんだろうと思う余裕があるが、当時はそうはいかない。)
 
 
“耳を疑う”という言葉以外見当たらなかった。
友達から言われた言葉にしてはあまりにも鋭く、怒りに頭が真っ白になった。
当時の私の自尊心をずたずたにするには十分だった。
 
 
 
そのころ私は学生生活を勉強と部活に捧げていた。
私は、中高一貫校のオーケストラ部の副部長だった。
中高合同の部活だったため、部員は1学年約20人ずつの総勢100人強。
当時人の前に立つのが究極に嫌いで、出来れば目立たずに学校生活を過ごしたかった私にとって、多数決で選ばれてしまった副部長という肩書は相当な重荷だった。
せめて、失敗しないように、代表として恥じないように、自分の周りのことは自分で解決するように、と精いっぱいやっていた。
 
私が担当していた楽器はホルン。
金管楽器でもありながら、木管楽器ともアンサンブルができる楽器だ。
そのころは、学祭前でアンサンブルの練習を進めなくてはいけない時期だった。
その、木管アンサンブルの練習が、思うように進んでいなかった。
 
アンサンブルの人数は5人(私とYちゃんを含む)。うち一人は後輩。
一人でも欠ければ練習は思うように進まない、のだが。
同期が一人、練習に来ないのだ。
別に不登校とかでもなく、学校に来ても部活に出ずに帰宅部当然のように帰っていた。
その子に練習を休まれるたびにアンサンブルのメンバーの雰囲気は悪くなった。
後輩もいるのに険悪なムードにはできないから、何とか話題を変える。
「他のとこ完ぺきにできるようにやっとこ!」
「まだ時間はあるし、軽く合わせて自主練にしよっか!」
こうやって部員間の雰囲気を良くするのも副部長の仕事でもあるのかな、なんて思いながら、でも自分も内心ずっともやもやしながら、それでも上手くやっていた。
 
そんな日が続き、少し嫌になってきた頃だった。
同じ状況にいるYちゃんになら、言ってもいいかな。
もやもやを共有できれば、二人で協力して何とかやっていけるかな。
そんな風に思い、ついこぼした愚痴だった。
 
 
そんなさなかの、「向上心ないね」
なんで状況を知らない人に言われなきゃいけないのか。
当事者でもないHちゃんに言われたことに余計に腹が立った。
それだけではなく、自分の部活に対する態度全てを否定されたように感じた。
自分の頑張りが、普段近くにいる友達に認められていなかったのだと思うと、悲しくなった。
私の自尊心が、ガラガラと崩れていった。
帰宅後もひとしきり泣くほど、ダメージは大きかった。
 
当時Hちゃんとは毎日ご飯を一緒に食べていたが、一週間以上口を利かずにさけ続けた。言葉を交わすようになっても、何となく冷ややかな目でHちゃんを見るようになった。その気持ちは部活を引退するまで変わらなかった。一度壊れた信頼関係は、うわべでは治ったように見えても、私の中で決定的な亀裂となった。
一言でそんなになるの、と思われるかもしれないが、私にとってはそれくらい大きな衝撃だったのだ。
 
 
 
あれから6年以上経った今になっていくつか思うことがある。
あの言葉に、考えさせられることがある。
 
当時不慣れな立場を自分なりに頑張っていると自負していた私にとって、「向上心ないね」はあまりにも強い言葉だった。「どんなに頑張っていても向上心がないように見えてしまうのか」と思うと自信がなくなった。
 
でも、もしかしたら。
 
あの時あれほどまでに怒りが湧いたのは、その言葉が図星だったからではないのか。
もともと、日々のやるべきことをこなすことは得意だが、現状維持ばっかりでより良くしようと思うタイプではなかった。決して“向上心”がある訳ではなかった。
それを見透かされたように言い当てられて、こみ上げた恥ずかしさだったのではないか。
 
それに、Hちゃんは普段から、正義というやりを振りかざすタイプだった。
それでも直後にはケロッと何もなかったように、ふざけたりするのだ。
彼女の性格を考えれば、「またまた、そんなこと言わないでよ~」と冷静に流せればよかったのではないか。
 
そんな風に、色んな事を考えた。
やっぱり棘は抜けなかったけど。
 
 
それでも。
あの時の悔しさを思い出すと、「もう『向上心ないね』なんて言われないようにしよう」と思える。何かを頑張る原動力になる。
今同じことを言われたら、甘んじて受け止めようとも思える。
 
 
そして何より、この棘は教訓となって私に刺さっている。
 
今発した言葉は相手を傷つけるんじゃないか?
相手が落ち込んでる時にどういう言葉をかければいいのか?
以前にもまして考えてから発言するようにもなった。
 
人に何かを伝える時は、たとえ友達だとしても、相手を思いやる言葉をかけなければいけない。
棘ではなく相手に思いやりのある温かさを届けられるように、自分が発する言葉には責任をもたなくてはいけない。
 
 
言葉の暴力が横行するこの世界でも、棘ではなく優しい言霊が溢れることを願うばかりである。
 
 
 
 
***

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2020-10-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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