「余命宣告」は「新しい希望」
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記事:中村文紀(ライティング特講)
「アンタ、あと2年以内に死ぬよ」
そう自分に余命宣告を下したのは、医者ではなく、黒いローブを身に纏った小汚い婆さんだった。
失礼、訂正させて頂きたい。
彼女は銀座の一角で占い師を営むとても素敵な小汚いマダムである。
粉骨砕身会社に身を捧げていらっしゃる勤勉なる皆々様の中には、一度は思ったことがあるのではないだろうか。
代り映えのしない日常、帰宅して寝るだけの毎日、まるで判で押したような日々の繰り返し。
幼い頃に夢見た未来がいま目の前に広がり、その世界がかつて夢想した世界とは余りにもかけ離れている現実、失望。
かつて大人になった自分に抱いていた夢や希望は、日に日に風化し、摩耗し、もはや自分がなりたかったものすらも分からない。
それでも今ある自分を変えたい、充実した生活を送りたいと思ってはいたものの、しかし何か変えようと、一歩を踏み出す勇気もない。
変化を恐れて行動に移す決断もできない優柔不断さから、「いつかやる」と便利な言葉で自分に言い訳し、ただ結論を先延ばしにする日々。
当時、都内のIT企業に勤めていた私もその例に漏れず、空虚な毎日を過ごしていた。
そんな私がせめてもの悪あがきとして、占いという現実逃避にも近い手段を選択したのは、
たまたまテレビでやっていた「銀座の占い師」特集に感化されたからであった。
占ってもらった程度で改善する人生なら苦労はしないだろうが、それでも購入しただけで満足してしまう自己啓発本よりは役に立つと思った。
それとも本当は心の中では、とっくに解決策も方法も分かっていたにも関わらずに「占い」という第三者から意見してもらうことで、いつまでも優柔不断で後回していた自分の決断を後押しして欲しいという淡い期待があったのだろう。
さて、冒頭の余命宣告に戻ろう。
仕事運と恋愛相談をお願いしたはずの私に、間髪入れずに掛けられた言葉は「2年以内に死ぬ」という、大変有難いお言葉だった。
確かに私は気持ちの後押しを期待したが、まさか崖の上から突き落とされるとは思わなかった。
「あの、2年後に死ぬってどういうことですか?」
「知らないよ。けどアンタこのままだと数年以内に死ぬよ。良く生きなさい」
最初に「2年」って言ったのに「数年」にブレてるじゃねーか! と心の中でツッコミを入れた。
結局その後、二言三言交わし、占いタイムは終了。
混雑時の立ち食い蕎麦屋でも、もう少し滞在させてくれそうだが、これから死ぬ人間に助言などないということだろうか。
せめて「アンタからは料金はいらないよ」など気の利いた対応でもされていたら、ちょっとした美談になったかもしれないが、しっかりと相談料5千円を徴収された。
もはや占い師ではなく詐欺師か魔女の類ではないだろうか。
人生初の占いで、人生初の余命宣告を受けるというダブルスコアを獲得した私には相当ショッキングな事件で、しばらくは本気で悩んだりもした。
それでも、忙殺される日々の中、次第に記憶の彼方へと葬り去られていった……。
結論から言うと、それから本当に半分死にかけた。
酷な話だが、あの占い師の言葉は、半分当たっていた。
当時、超弩級ブラック企業に勤めていた私は、従事していたプロジェクトがデスマーチに陥り、帰って寝るだけの生活から「帰る」というプロセスすらも剝奪された。
仕事の忙しさのせいで付き合っていた恋人とも会えぬ日々が続き、その後破局。
心身ともに疲弊した末、過労で倒れ生死の境をさ迷った。
気が付いたら病院のベッドの上という、よく映画や小説なんかで見かけるあのドラマティックなシーンを体験することになる。どうせ体験するなら、もっとロマンスのあるシーンが良かったのだが。
入院中のベッドの上で、最初に脳裏に浮かんだのはあの銀座の占い師の言葉である。
皮肉なことに、これまで真摯に向き合わなかった己の人生に、あの予言が半分的中したことで、本当に向き合うきっかけになったのだ。
静養中に幾度となく思考したことがある。
もし、あの占いの予言が、半分ではなく100%的中していたら、悔いは残らないだろか? そんなことは考えるまでもない。自明、絶対に後悔する!
当たり前のことなのに、分かりきっていることなのに、いざ自分がその当事者に片足を突っ込んだことを思うと涙が止まらなかった。
そしてもう一つ、これも幾度となく思考したことがある。
もし、自分の命が本当にあと2年で終わりを迎えるとしたら、どうするだろうか? どこまでできるだろうか?
すると、今までいつかやろうと棚上げしていた事が、濁流の如く頭を駆け巡った。
手帳によくある、「やりたいことリスト」に書き出したものの、そのまま手付かずで放置されてしまったものから、ずっと昔に置いてきてしまった子供の頃の夢もあった。
まるで幼い頃に失くしてしまった、何が入っていたかも忘れてしまった大切な宝箱を再び見つけたような気分だったが。そしてそれは、今なお色褪せずピカピカの輝きを保っていたのだ。
私はある仮説を思い立った。
これは神様のくれた猶予期間で、あと2年だけお情けで延命させてくれたのではないかと。
それから私は「2年後に死ぬかもれない」ことを前提に考えるようになった。
気持ち次第というが、人間そう簡単には変われるものではないが、少なくとも私の決断力と行動力にはそれなりの影響を与えた。
なにせ2年は、730日、17,520時間、たったの1,051,200分しかないのである。
長い人生からしたらロスタイムにも満たない時間かもしれない、それでも時間はいくらあっても足りないのだ。せめてあと2年の命なら、なにか夢の一つでも叶えてみようじゃないか。
私は人生の負け組かもしれないが、ならばせめてここから引き分けくらいには持っていきたい。
夢だからと恥ずかしがっている場合ではないのだ。
こうして、私が銀座の占い師から授かったあの余命宣告は、神様のくれた夢を叶えるための失効猶予になった。
ちなみに、私が過労で倒れたあの日から4年経過している。
一番叶えたい夢ベスト3は未だ達成できていない。
納期の遅れはこの業界にとって不文律なのだ。
***
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