メディアグランプリ

僕たちは不要不急で生きている


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記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「え、aikoライブ配信すんの!?」
今年3月6日。思いがけないメールを受け取り、僕のテンションは爆上がりした。
そこには「「Love Like Rock vol.9~別枠ちゃん~」 を3月8日(日)夜、YouTubeで配信いたします。」と書かれてあった。
aikoファンクラブ会員宛てのメルマガだった。
 
その1週間ほど前の2月26日、政府は全国的なスポーツ、文化イベントを「今後2週間は中止、延期、または規模を縮小する」対応を要請していた。
西川貴教がライブ開催について、やっても怒られ、やめても怒られる……とつぶやいていたり、東京事変がライブ開催して大バッシングを受けていたりしていた。
「不要不急」を避けろ。
そんなフレーズとともに、世間が自粛ムードに染まっていた。
先の見通しが全く立たないまま、どんよりと深く。
一人の音楽ファンとして、楽しみにしていたイベントが急遽吹っ飛ぶ衝撃とやるせなさはあまりに大きかった。
「不要不急」
そのフレーズに、何だか受け入れがたいものを感じつつも、無理やり飲み込んで過ごしていた。
 
そんなとき、真っ暗いトンネルに光が差した。
冒頭のメールが届き、公式twitterを確認すると、「しっかり歌います! やるからね」とメッセージがあった。
どうやら前日深夜のニッポン放送「岡村隆史のオールナイトニッポン」に出演して、無観客ライブの決行を電撃発表したらしい。延期決定後も、会場であるZEPP TOKYO自体は貸し切ったままであったため、YouTubeを使って無観客ライブを実行、配信することにしたという。
 
「観れるやん!」
まったくの予想外の展開だった。コロナ禍で外出も自粛する中でのイベントだ。
ライブが観れるのだ。しかも、今回の視聴は無料で。
ああ、ありがとうaiko!
僕は突如降ってきたライブ告知に強く励まされた。
 
当日の夜、1時間ほど遅れて、ライブ本番が始まった。
美しい照明の中、CDとは異なるアレンジも加えつつ、丁寧に構成された音楽をaikoとバンドメンバーが奏でていく。時に元気全開に、時に切なさ全開に、時に幸せ全開に。
 
当然、僕の視覚に映るのはライブ映像だけではない。
日常の僕の部屋が、ライブ映像を映すタブレットの周りに広がっている。
会場に行けば、周りの観客、会場の様子などその場の一体感と非日常に来た感覚があるのだが、それはない。
会場に行けば、肌ですら音圧を体感し、会場にエネルギーが満ちている臨場感が味わえるのだが、それもない。
それでも、だ。
全力で演奏するバンドメンバーが真剣勝負していることが画面から疑いようなく伝わってくる。
 
本ライブ配信は、急な告知であったにもかかわらず、約13万人が視聴した。
ライブ中、aikoはひとりひとりに向けて歌いたいです、と語った。
その言葉に偽りなく、ステージをいつもどおり、いや、いつもにも増して駆け回り歌うaikoを観て、鳥肌が立った。
彼女の全力は、13万人に届いたに違いない。
素晴らしかった。
しばらく忘れていた興奮のありかを、取り戻した気分だった。
 
続いて、サザンオールスターズが大きな話題をさらった。
彼らは6月25日、横浜アリーナを貸し切って無観客ライブを決行、様々なプラットフォームを用いて配信し、約18万人が視聴した。
この無観客ライブの最大のポイントは、有料であったことだ。
 
わざわざ17000人を収容できる横浜アリーナを選ぶ必要なんてなかった。無観客なのだから。
それなのに「敢えて」横浜アリーナを貸し切ったのは、スタッフやキャストへの雇用を生み出すためだ。おそらく、広い会場でメンバーやキャストが十二分にパフォーマンスすることで、より臨場感を高める狙いもあっただろう。
会場が広い分、無観客の中行うライブは戸惑いだらけだったはずだが、彼らは素晴らしいパフォーマンスを見せた。
18万人がしばらく生きる元気と勇気を得ただろう。
エンタメ業界全体に利する、本当に素晴らしい試みだと思う。
 
本稿を書いている今日は、10月12日。
いま、改めて「不要不急」について考えたい。
 
強力な自粛ムードの中、「不要不急」とされることは、僕らの生活にとても大きな彩りを与えてくれていたことを、ほとんどの人が痛感しただろう。
それらがないと、心はかさかさになり、ささくれだってくることに。
僕らは、その「不要不急」なことに力をもらって生きている、という事実に。
 
であれば、「不要」ではなく「必要」。
「不急」はもはや長らくの自粛で「早急」に変わっている。
「不要」でも「不急」でもない。「必要早急」の事項だ。
 
生きるからには、素晴らしいものに触れて生き生きとしていたい。当然だ。
その躍動感を得る素晴らしい機会の1つとして、ライブがある。ライブ、つまり生(なま)だ。
通常のライブは「いま」「ここで」体感できるが、残念ながら現状「ここで」が難しい。
それでも「いま」は残されている。
 
気になるバンドや舞台がライブ配信をすることを知ったら、まずは無料からでもぜひ試してみてほしい。
気に入ったら、後日有料ライブ配信が告知されたときにも、ぜひ視聴してほしい。
あなたの制限された日常を、開放する力を秘めている。
そしてそれが、ミュージシャンやパフォーマー、スタッフの力になる。
 
aikoのライブのお決まりのフレーズで締めさせてほしい。
「それがぁ~ ラ~イブ!」
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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