「さよなら」は、温かかった
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記事:藤井佑香(ライティング・ゼミ 通信限定コース)
「さよなら」と誰かに別れを告げること。誰にでも経験があるはずだ。その時のことを思い出してみて欲しい。どんな気分になるだろうか。切なくなる人、寂しくなる人。様々な感情が入り混じると思うが、悲しい気分になることが多いと思う。私も、今まで色々な別れを経験してきたが、その中でも特に寂しかった「さよなら」は、大学進学で上京するために、地元を離れた時だった。
私は、広島で生まれ育った。しかし、小学校高学年くらいの頃から、将来は地元を出て色々なところに行きたいと思うようになった。思春期になるとその想いは一層強くなり、何で自分はこんな田舎に住んでいるのだろう、と嫌気が差すことが多くなった。とにかく早く外に出てみたい。そう思っていた私は、迷いなく大学の進学先に東京を選んだ。
無事東京の大学に合格し、着々と上京の準備を進めた。しかし、どこか寂しい。自分の荷物を整理しながら、もう暫く私はこの家に住むことが出来ないのだという事実が段々リアルに感じられて、心が重くなった。そして迎えた上京の朝。あと数時間で新幹線の時刻。別れの時が近づいているというのに、それを意識したくなくて、普段通り振舞っていた。しかし、母が何も言わずに私の大好物の出汁巻き卵を朝ごはんに出してくれた。その瞬間、我慢していた寂しいという想いが溢れて、号泣してしまった。誰かに「さよなら」を言うことは、こんなに心が引きちぎられる程の気持ちになるものだったのか。泣きながら、卵をほおばった。
この思い出の印象が強いからか、私にとって「さよなら」は、どこか心が痛む感じがするものだった。しかし、最近になって、誰かと別れるということは、温かい側面もあるのではないかと思うようになった。
きっかけは、10年ぶりの「さよなら」だ。
上京してから早10年。大学卒業後そのまま東京で就職した私は、東京での暮らしが日常になっていた。そんな時、久しぶりに、馴染みの場所を離れる別れがあった。
留学である。
幼い頃から憧れていた留学。コロナ禍ではあるが、行ける機会を得た。つかんだチャンスは離したくないと、会社を休職して、今年の秋から行くことにした。しかし、決めた後、地元を出た時の痛みが段々と思い出された。そうだ、馴染みの場所を離れて別れを告げることは、とても心が痛いものだった。またあの気持ちを経験しないといけないのだろうか。そう思うと、気持ちが暗くなった。
出発1ヶ月前。着々と準備を進めながらも、色々な人に「さよなら」を言い始めることにした。実際に会える人には出来るだけ会って、直接別れを告げた。出発1週間前からは、怒涛の「さよなら」祭りとなり、毎日誰かと別れを惜しんだ。その度に、暫く会えないんだという現実が押し寄せてきて、心がキュっと辛くなった。しかし、10年前の別れとはどこか違う。別れの寂しさは同じなのに、何故だろうか。そして分かった。家族や友人たちが別れを惜しんでくれる気持ちは、とっても温かいものだと気づけたからだ。
彼らは、様々な形で別れを告げてくれた。個別にメッセージをくれる人や、プレゼントをくれる人。一緒にご飯に行けば、サプライズでケーキを用意してくれる人たちも居た。どんな形であっても、皆が口を揃えて、頑張って来てねと別れの挨拶に応援を添えてくれた。別れを告げると、より一層悲しくもなったが、それ以上に温かい気持ちにもなった。私もその都度感謝を伝えた。「さよなら」は、想いを渡したり、受け取ったりするきっかけになったように思った。
誰かと別れるのは、寂しい。しかし、暫く会えないと思うからこそ、別れを告げる人に対する想いが湧き上がるきっかけにもなるのかもしれない。だからこそ、ただ別れるのではなく、私たちは、その人への想いを乗せて「さよなら」を言うんじゃないだろうか。私たちは、別れを悲しいものと思いがちだ。しかし、お互いの気持ちを伝え合う機会にもなり得ると思うと、過去の別れも、これから訪れるかもしれない「さよなら」にも、少し柔らかい気持ちで向き合えるのではないだろうか。
そして迎えた留学への出発の朝。やっぱり悲しくなって、号泣してしまった。現地に到着して少し時間が経った今でも、ふとした瞬間に不安になる。コロナ禍で海外に行くなんて、本当に大丈夫だったんだろうか。異国の地で1人でやっていけるのだろうか。しかし、その時思い出すのは、色々な人から受け取った温かい「さよなら」だ。これからの留学生活、別れの言葉に添えられたエールに、ずっと支えられていくのだと思う。
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