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私たちは試されているのかもしれない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:キムラアヤ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
今朝のことだった。目が覚めると、すでに寝室に夫はいなかった。私は、モゾモゾっと起きてリビングへと向かった。そこには、ソファで寝ている夫がいた。
 
「どうしよう、昨日の夜中から熱が出て、37.8度もある。咳もでる」
 
夫は咳をしながら、ガラガラの小さな声でそう言った。
 
私は、ここ数日の忙しさのせいもあって、昨晩は22時を過ぎる頃にはベッドに入っていた。
それからどれくらい時間が経っていたのであろう。そういえば、夫の咳き込む様子が、はるか遠くに聞こえたような、聞こえないような、そんなおぼろげな記憶があった。
 
「とにかく、発熱外来を探して、診察してもらおう」
 
そう話しかけたが、返事もそこそこで、よほど辛いらしい。
すぐに私は、近所の発熱外来を検索し始めた。
 
検索しながら、ふと、私のスケジュールが浮かんできた。
「今週は、人と会う大事な約束がいくつかある。私も検査しないと……」
 
そう思いながら、比較的近場の発熱外来を探し、それらのリンクを夫に送った。
 
「ちゃんと病院に電話してね」
 
そう言って受診するように促した。
どんなに体調が悪くても、辛くても、こればかりは診察してもらわないと家族だけではなく、職場にも迷惑をかける。
 
最近は、感染者の大半は、家庭内感染だという。
きっと、こんなやり取りを家庭内でしているうちに、リスクはどんどんと高まってしまっているのかもしれないと、段々と焦ってきた。
 
「PCR検査か、抗原検査。当日か翌日の検査結果がいい」
 
先ずは、今日の私の予定をチャンセルした。
大事なミーティングだったけれど、仕方がない。もし、私が感染していないとなれば、明後日の大事なミーティングには参加できる。だから、どうしても明日までに「陰性」であることを確認したかった。
 
3件の病院を見つけ、1件ずつ電話をした。
1件目は、PCR検査の他に、感染していることが分かる「抗原検査」もやっている病院。
診察開始まもなくに電話をかけてみたが、お話し中の「プー、プー」という音のみが聞こえてきた。
少し時間をおいてかけ直す。それでも返事は「プー、プー」のみ。思った以上の人が電話をしているのだろうか。なかなか繋がらなかった。
 
何度目かでやっとつながり、「抗原検査」を受けたいと伝えた。
 
「抗原検査は精度があまり高くないため、当院ではPCR検査をオススメしております」
 
「そうですか、わかりました。ではPCR検査費用と、結果が出るまでの日数を教えてください」
 
そう私が尋ねると、PCR検査の結果は2日後で、費用は36,000円とのことだった。
 
結果は明日までに欲しい。だから次の病院に電話することにした。
 
2件目の病院は、PCR検査しかなかった。
検査費用は30,000円で抗原検査に比べて高額だが、ここは背に腹は代えられない。
今日昼間に検査をすれば、明日のお昼過ぎには結果が分かるという。ラッキーなことに今日の検査枠に空きがあったので、即予約した。
 
自費検査である旨と、本人確認のため保険証を持参すること、来院後に指定のアプリをダウンロードする必要があることを伝えられた。
 
病院に到着すると、最初にQRコードで問診票を読み取り、記入するように言われた。完全に非接触だった。
一般的な問診票と内容は変わらなかった。記入し終わって、「送信」ボタンを押す。すると受付にデータが飛ぶようになっているらしい。
 
入力している間、続けて何人かがやってきた。PCR検査をするようだ。想像するよりも多くの人が、検査を必要としていることがうかがえた。
 
「次に、こちらをお願いいたします」
 
そう言われ、受付に行くと、次のシートが置いてあった。
 
「こちらのアプリをダウンロードしていただき、手順に沿って必要事項をご入力ください。 こちらのシートをお持ちになって、待合室で入力をお願いいたします」
 
説明はそこまで。なんとも無味乾燥なやり取りだ。身体的距離と精神的距離の両方を感じた。
 
アプリに必要事項を入力し、病院の診察券ナンバーを登録すると、病院と連携するシステムになっているようで、PCR検査の結果は、このアプリで通知されるようだ。
 
程なくして私の番号が呼ばれ、診察室に通された。
 
「本日は、自費でのPCR検査でよろしいですね。ご家族や周りでどなたか感染なさったのですか?」
 
一般的な確認事項と、体調などの軽い問診が終わり、別の部屋へと移動した。
そこは、カフェの一人掛けカウンター席くらいのスペースで、カーテンで仕切られていた。小さなテーブルが置いてあり、唾液の採取の方法と検査容器、消毒がポツンと置かれていた。
 
「お名前の確認をお願いいたします。お間違えなければ、唾液の採取をお願いいたします」
 
看護師さんはそう私に言って、そこを後にした。
 
必要量の唾液を採取し、終了。
診察室に呼ばれてから、清算終了まで、およそ10分。
問診票とアプリの入力のほうが、検査よりよっぽど長くかかった。
 
病院を後にすると、別の病院で診察を受けていた夫からメッセージが入った。
 
「ただの風邪で、のどの炎症による発熱でした。コロナではないとの診断でした」
 
そう書かれているのを見て、安堵した。そして、緊張がほぐれていくのを感じ、自分が「せっかち」であることを再認識した。
 
私の結果は、明日の午後まではわからない。
もしかしたら、夫の受診結果を待ってから、私が検査しても良かったのかもしれない。
でも、COVID-19は、人に移さないように配慮する必要がある感染症だ。
大切な人たちに移さないために、自分ができることはやろうと思う。そのためのせっかちなら、それもいいだろう。
 
世界の国々では、色々な文化や、考え方がある。
このコロナにおいては、各国対応も様々で、感染の拡大状況も違う。
何が正解かは、まだ誰にもわからない。
しかし、みんなが大切な人に思いやりを持つように、世の中に対しても思いやりを持てるようになれば、少しずつ感染は抑えられるのではないだろうか。
 
ニューノーマルの下、私たちの思いやりが試されているのかもしれない。
 
どうか明日、「陰性」の結果が届きますように。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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