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一見さんお断りの店の店主は、ブラックジャックだった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:わきやま(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「すみません。うちはそういうのやってません」
 
自分の名前を明かし、お店の予約をとりたいと電話で伝えたところ、70歳ぐらいのおばさんからいぶかし気に言われた。
 
「あ、すみません。
Aさんからの紹介です」
 
Aさんからの紹介であることを伝えるように母から釘を刺されていた、ことを思い出して、あわてて伝えた。
 
「ああ、A様からのご紹介の山脇様ですね。
承知いたしました。
何名様でしょうか。」
 
さっきの態度から一変、急に料亭の女将さんのような口調になった。
 
そして、父、母、妻、私の4人であることを伝えて、無事に予約することができた。
 
この店のことを知ったのは、2020年2月のことである。
父から面白いお店があるから一緒に行こうと誘われたのだ。
その店は「一見さんお断り」の完全紹介制の店で、紹介がないと行けない店ということだった。
父の知り合いから私たち家族をその店に紹介してもらうことになったのだ。
 
完全紹介制ということを聞いて、いったいどんな店なのだろうと思った。
ものすごい高級料理の店なのだろうか。
いや、でも私たちのような庶民的な家族がそんなところに紹介してもらえるはずがない。
 
しかも、予約した時に、住所を聞いて驚いた。
住宅街のど真ん中で、高級料亭があるようなところではなかったのである。
当日、行ってみるとごく普通の一軒家だった。
料亭のような和を感じる家でもない。
むしろ、瓦屋根もない、洋風な家だった。
 
迎え入れてくれたのは、70歳ぐらいの夫婦であった。
旦那さんの方は割烹着を着ており、奥さんの方は着物を着て、エプロンをしていた。
どこからどう見ても大将と女将さんである。
 
中に入り、食事する部屋へと案内された。
その部屋だけ他の部屋とは異なり、高級料亭のような雰囲気が演出されていた。
明治時代の雰囲気を彷彿とさせる深茶色のダイニングテーブルに加えて、時計や陶器などの骨董品で部屋が飾られていた。
 
旦那さんが料理を準備している間に女将さんと談笑していると、女将さんから信じられないことを言われた。
 
「もうお気づきかもしれないですが、うち営業許可をとっていないんです」
 
一瞬、場が沈黙した。
なんとなく予感はしていたが、本当にそうであることを知って、驚いた。
そして、不安な気持ちにもなった。
大丈夫なのだろうか。
そもそも本当に美味しいのだろうか。
料亭料理を食べられることを期待していたので、わくわくしていた気持ちが沈み始めていた。
 
しかし、料理が運ばれてくると、その期待は良い意味で裏切られた。
料理は私の期待値をはるかに凌駕していた。
 
まずゴマ豆腐の上にウニが乗ったお通しが出てきた。
それからイカの佃煮、卵焼きを細身魚で巻いた料理、しらすの沖漬け、カニの団子が入った煮汁、タイの煮物、タケノコの刺身などの料理が出た。
その後、刺身の盛り合わせ、てんぷら、ステーキ、タケノコご飯が出てきた。
最後にデザートでメロンである。
全部で16品である。
どれも美しく盛り付け、飾り付けがされており、味も高級旅館などで食べる料理に匹敵するか、それ以上のものだった。
 
おまけに客を楽しませる気づかいもあった。
松坂牛のステーキと野菜の盛り合わせが出た時に、一緒に石の板のような物が出てきた。
それを下から火であぶり、その上で肉と野菜を焼くのである。
石で焼く焼肉である。
楽しく、おいしく食べることができた。
 
大満足だった。
しかも、これで一人たったの5000円である。
 
十分にお店を出してもやっていけるレベルであると思った。
実際に、旦那さんは大変優秀なプロの料理人だった。
過去にいくつもの料理の大会で賞を受賞するほどの腕だ。
しかも、サービス精神もプロそのものだった。
そして、女将さんも間違いなく接客のプロであった。
 
なぜ無許可で、粛々と料理を提供しているのか。
私は気になってしかたがなかった。
 
談笑の中でふつうにお店をやらない理由を旦那さんが話してくれた。
 
旦那さんは、過去にお店を出して失敗していた。
過去に経営されていた店で食中毒を出してしまったのだ。
 
「美しくて、おいしい料理をお客さんに食べてもらって、喜んでもらうことがモットーだったのに。
経営してたら純粋にそういったところ以外のところに意識がいってしまって。
本当に情けないです」
 
終始、にこやかな笑顔だった旦那さんもこの時は少し顔をこわばらせていた。
食中毒の一件でお店を閉めた。
お店を経営して再起するつもりはもうなかった。
しかも、営業許可をとるためには設備投資が必要で、そこまでやる金銭的な余裕もなかったという。
しかし、美しく、おいしい料理でお客さんを喜ばせたいという熱い気持ちは燃え続けていた。
その結果、純粋に美しく、おいしい料理を突き詰めていくために、お店は出さずに今の形でやっているという。
 
確かに、旦那さんのそのサービス精神は料理から十分に伝わった。
出てきた料理はすべて美しく盛り付け、飾りつけがされていた。
おいしく食べられるように工夫もされ、味も最高だ。
食材を生かすことへの徹底的なこだわりをどの料理からも感じることができた。
 
おまけに私たちのような庶民でも手軽に食べられるような値段になっている。
文句なく、今までで最高のレストランだった。
 
実を言うと、この店以外にも、営業許可をとらず料理を提供する隠れ良店をたくさん見てきた。
AirBnBなどで宿泊すると、オーナー自慢の料理を提供されることがよくある。
もちろんお金もとられるが、材料費にちょっとマージンをのせられたぐらいしか要求されない。
しかも、自慢の料理だけあってすごくおいしいのだ。
食べログで3.5以上をあげられるほどクオリティーが高かったりする。
 
今回の一見さんお断りの料理屋だけでなく、表に出ない隠れた良店というのは、実はたくさんあったりする。
そういった店は今回のように営業許可をとっていないなどの諸々の事情があるために、ネットなどの情報ではたどり着けない場合が多い。
 
私は来週、長野県に行って囲炉裏の鍋で長野の新鮮な野菜と肉(鳥、牛、イノシシなど)を食べることになっている。
そこは行きつけのAirBnBの宿のひとつだ。
もう3年以上通っている。
訪問するたびにおいしい野菜と肉をオーナーさんが用意して待っていてくれる。
腹いっぱい食べてたったの2700円である。
 
リスティングされている宿の写真と一緒に囲炉裏で鍋を食べている様子が写っているのを見つけて、そこに泊まったのがはじまりだった。
 
隠れた良店も案外簡単に見つけられるものである。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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