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メディアグランプリ

アルメニア国境で遭遇した、忘れられないドッキリ


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記事:中村 翔(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
2020年9月末から、多くの日本人にとって聞き慣れない名前が毎日のように国際ニュースに登場するようになった。
ナゴルノ・カラバフ共和国での軍事衝突。
この地域の領有権をめぐって周辺国が長年対立してきた複雑な歴史などが、各種メディアで連日報じられている。
あいにく、国際政治や国際紛争について詳しく語れるだけの知識は持ち合わせていない。でも、この話題に対して僕はふつうの日本人よりはイメージが湧く。少なくとも、自分に全く関係のない話だとは思えない。
 
3年半ほど前、ひとりでアゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアのいわゆる「南コーカサス三国」を旅したことがある。アルメニアの首都エレバンでは、発車を待つナゴルノ・カラバフ共和国行きの乗り合いバスを実際に見た。
このナゴルノ・カラバフなどが原因で、アゼルバイジャンとアルメニアは対立している。
だからお互いに仲が悪い。知ってるか?
そんなことを面と向かって言われたなぁ。
毎日のように紛争のニュースに触れているうちに、そんな記憶が自然と蘇ってきた。
 
アゼルバイジャンからジョージアに移動して数日を過ごしたあと、最後の目的地、アルメニアへ夜行列車で向かったときのことである。
いかにも旧ソ連という感じのオンボロ列車は、乗客の姿もまばらで薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
それでも何事もなく列車は走り続け、真夜中にアルメニアとの国境に到着して止まった。
やがて車掌が寝ている客を一人ずつ叩き起こし、パスポートと財布を持ってイミグレーションへ行けと指示する。
列車が止まってから1時間ぐらい延々と待たされて不安になってきた頃、ようやく自分の番が来た。
 
アルメニアの国境を無事に越えられるかはこの旅最大の難関、大げさに言えば一種の賭けだった。
アルメニアの入国手続きの際にアゼルバイジャンのビザが見つかり、言い掛かりをつけられて入国を拒否される個人旅行者が近年続出しているという噂を聞いていたからだ。よほど運が悪くなければ大丈夫とも言われたが、万が一こんなところで真夜中に着の身着のまま放り出されたら堪ったものではない。
 
長い駅のホームを端から端まで延々と歩かされた先に、小さな入国管理事務所はあった。
中へ入ると、迷彩柄の軍服に身を包んだ大柄な男性が4人もいる。身長は全員190cm以上といったところか。文字通り見下ろされている感覚だ。
「パスポートを見せろ」
早速そう切り出した男に、海外旅行では命の次に重要だと言われる身分証明書を預けると、いつの間にか周りを取り囲まれていた。
逃げられないように、ということなのか……?
男は、時折こちらにも視線を向けながら、鋭い眼光でパスポートをゆっくり1枚ずつめくっていく。
そしてやはりと言うべきか、アゼルバイジャンを出国した際にスタンプが押されたページで手が止まった。
不満げな表情を隠そうともせず、低く太い声でその男は矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。
「お前、アゼルバイジャンに行ったのか?」
見ての通りです。
「アルメニアはアゼルバイジャンと仲が悪いって知ってるか?」
知ってます。
「なんでアゼルバイジャンなんか行ったんだ?」
観光で、ちょっとだけ。
 
余計なことを口に出して気分を害しないよう短く答えたが、表情はどんどん険しくなっているように見える。ひょっとして、質問の受け答えに関係なく、アゼルバイジャンのビザが見つかった時点で既にアウトなのではないか。最悪のケースが頭をよぎった。
 
しかし、その直後に待っていたのは、全く予想外の展開だった。
「Welcome to Armenia!」
え?
「どうだ、ビックリしたか? アルメニア人は日本人が大好きだ。ぜひ楽しんでくれよ!」
こちらが驚いて仰け反りそうになるほど大きな声を張り上げ、丸々パスポートの1ページを使う大きなビザを丁寧に貼ると、満面の笑みでそれを返してきた。
他の男たちは、直属のボスからの命令だろうか、事前に申し合わせていたかのように両手で大きな拍手をする。
「アルメニアは良いところだ! よくぞ来てくれた。必ず気に入ってくれるはずだよ」
一瞬で、入国管理事務所はパーティー会場のように盛り上がった。
 
彼らがなぜこんなドッキリを企てたのかは永遠にわからない。
でも、想像することはできる。
入国審査官の責務として、反アルメニアの危険人物を見逃すことは絶対に避けねばならない。
一方で、本当は彼らも隣国を敵対視したくはないのかもしれない。
アゼルバイジャンがどうのこうのというより、遠い日本からはるばるアルメニアまで来た旅行者の存在が、ひとりのアルメニア人として純粋に嬉しかったのだと思う。
 
僕にドッキリを仕掛けたあの入国審査官たちは、突如始まってしまったナゴルノ・カラバフの紛争を見て、いま何を考えているだろう。
ナゴルノ・カラバフ共和国をめぐる問題は、知れば知るほど複雑だ。どうすれば解決できるのかは全くわからない。何もしてあげることができない。
アルメニアの人々の優しさを多少なりとも知っているだけに、歯痒い気持ちになる。
 
ナゴルノ・カラバフの紛争が終わり、人々に平穏な日々が一日も早く戻ってくるのを心から祈っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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