情報は鮮度だけでは伝わらない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:野崎芳裕(ライティング・ゼミ特講)
初めて訪れる寿司屋に行くと、私は必ずコハダを頼む。
なぜコハダを頼むのかと言うと、コハダは他の魚と違って酢締めをするため、塩や酢の加減が経験による勘をたよりに行われるため、その職人の腕がわかるためである。
ただし、これは自ら得た経験ではなく、昔愛読していた漫画「美味しんぼ」の中でのエピーソドの1つの受け売りである。
話の中で、海原雄山は寿司屋の実力を確認するためにコハダを注文して食べ、一口で怒って帰るという、美味しんぼでよくあるパターンでストーリーは進んでいく。
海原雄山が怒ったのは、コハダを締めるときに使っていた塩が精製塩だったことだった。それに気づいた職人は、精製塩を天然塩に変えて再度コハダを海原雄山に食べてもらい、最後は認めてもらう話だったと記憶している。
このエピソードでポイントだったのは、コハダが足が早く、時間が経ってから美味しく食べるのが難しいということ。このため、いかに美味しくコハダを食べられるように調理するかが、職人の善し悪しを分けていたのだ。
実際にコハダ、イワシ、サンマなどといった青魚は足が早く、鮮度が落ちるのが早いため、捕ってから提供まで時間がかかる場合は熱を入れたり酢や塩を使ってしめる。漁港に近い食堂など、提供まで時間がかからない場合は「鮮度抜群!」と、提供までの時間が早いこと自体がアピールポイントになり、新鮮な青魚を求めてお店が賑わうこともある。
そんな青魚が、情報に似ているように感じた。
21世紀になってから、「情報」という言葉の持つ価値が高まった。
今では特別なものではなく、あらゆる業界、あらゆる場面で登場するIT。このITを直訳すれば「情報技術」だし、SNSやブログなどを使ってインフルエンサーがやってることは「情報発信」だし、Googleで検索して得られるものは全て「情報」である。
さらに言えば、情報は新鮮であればあるほど価値が高い。
新聞社は価値が高い情報を号外として街中で配り、テレビ局はニュース速報で放送している内容とは関係なく画面に流す。NHKなどに至っては、ニュース番組で速報をアナウンサーが伝えている上でもニュース速報が流れることもある。
ただし、情報と青魚が似てると私が感じているのは、こうした鮮度の価値だけではない。
「人の手が加わる」というところも似ているように感じたのだ。
青魚は確かに鮮度が早い方が美味しい。けれども、捕ってすぐかぶりつくワイルドな人は、現代の日本においてはほとんどいない。
最低でもさばいてはらわたを取り去り、刺身にしてから食べる。
さらに時間が経った場合には、寿司屋と同じように酢締めするなど、何らかの調理をする。
切り方1つ、塩加減1つで美味しい食材が美味しくなさそうに見えたり、実際に美味しくなくなることもある。
だからこそ、上手に調理できる人は一流の料理人や鉄人と評価され、その人が提供する料理には、食材そのものが持つ以上の価値が生まれる。
情報でも同じように、情報を伝える人やメディアが必ず介在して、誰かに伝わる。
伝え方で、1つの情報がいい情報にも悪い情報にも変化する。場合によっては、伝えたいことが伝わらなくなることもある。
その逆に、一流の情報発信者が伝えると、何でもないようなことが価値のあるコンテンツに生まれ変わることもある。
いい例が、「人志松本のすべらない話」というテレビ番組の中でのエピソードトークだ。参加者たちが話しているネタがすべらないのは話し手たちの話術が長けているのであって、事実そのものは大したことではないことも多い。あの番組の参加者たちは、いわば情報を調理する「一流の料理人」たちなのだ。
一流の料理人も、すべらない話の芸人もすごい技の持ち主で、とても自分たちには真似ができないと感じてしまう。
けれども、少し視点を変えてみると、同じ人間であることに代わりはなく、技術なのだから、まったく自分たちが使えないものでもない。
料理の場合、一流の料理人の技は、何年も修行しないと身につかない技がたくさんあるが、使う調味料や分量、焼き加減などはレシピを見れば、真似できる。
同じように、情報を発信する場合に、すべらない話の人たちが使ってる話し方、盛り上げ方、オチの入れ方など、真似できるポイントはある。
料理の場合は料理教室がたくさんあるが、情報の伝え方を教えてくれる教室は世の中になかなか存在しない。今回参加した天狼院書店のライティング・ゼミは、数少ない情報の伝える技を教えてくれる場所ではないかと思う。
鮮度だけでは味わえない新鮮な情報を寿司のように美味しく伝えられるよう、今回学んだテクニックを磨いていきたい。
***
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