メディアグランプリ

心の紙風船

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記事:Tomomi Katagiri(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「こころの紙風船がぺこぺこになると、モノでうめようとするんだよ、それじゃあこころはふくらまないんだけどね……」
 
娘の部屋がモノであふれかえり始めてからしばらく、私は見てみないふりをしていた。今まで何度となく衝突してきた娘と向き合う気力も熱量もなくなってしまっていたからだ。
ある日部屋で見つけたレシートをきっかけに、娘が私達のお財布からお金を抜いて買い物を繰り返していたことが発覚し、それからの数か月は今もまだ思い出すと心に影が落ちるほど、私の心の一部を暗くしたままだ。
 
私は娘の事が大好きだ。おなかにいる時はまさに一心同体で、出産の恐怖は痛みではなく、分離してしまう不安からきていたのだと知った時の驚きは今も忘れられない。
その大好きな娘が分離したとたん私を責める(攻めていると感じる)存在に変わるのにそう時間はかからなかった。
母乳を与えるたび、寝かしつけで抱っこしている時、彼女が泣く度に
「私はわかってるわよ、言えないだけで全部知ってるのよ」
と言われているように思わずには入れれず、でもそれを誰にも打ち明けることもできず勝手に追い詰められていた。我が子をかわいがるのは当たり前という世間一般的な考え方の前に、自分の苦しい気持ちや痛みを誰にも話せずに、そんなふうに思う自分を欠陥があるのでは、なんでほかのママ達のように子供といることに幸せを感じられないのかと悩み続けていた。
娘をかわいがることが出来ないという思いを誰にも言えないまま心に抱えながらの子育てをしていく中で、娘がお友達と喧嘩をしたり、先生に理解されない出来事があった時、必要以上に反応してしまう私は、娘の痛みを自分の痛みとして感じていたんだと思う。だから本人よりも傷つき、落ち込み、憤るという自分の感情の行き場がなくて、その辛さを幼い娘にぶつけて、彼女を傷つけるという悪循環をずっと続けてきた。
そんなある日、中学受験の終わった娘に
「私の12年を返してよ」
と言われた時、自分がしてきた子育ての判決が出たような気分になり、心も体もまさにフリーズした。そうしてそれから娘と向き合うことが怖くなり、表面だけの付き合いを自分の娘なのに続けてきた数年。
娘の部屋に入り、何度も疑いながら、それでも信じたかった自分が事実を知った時、これから先どうやって娘を信じていけばいいのか絶望した感覚をいまでもありありと思い出すことが出来る。
私は、自分が子供の頃、母を怒らせることが何より怖かったし、母に許してもらえず、扉を閉められた記憶が今でも恐怖とともにおもいだされる。だから、娘がまさか私の怒りを買うような、そうでなくとも、人のものを盗むというような大それたことを、しれっと半年以上やっていた、その心境が全く理解できず、その後も本当の和解はできぬまま、日々忙しさに追われ、その時の楽しいことにだけ目を向けて家族として過ごしてきた。
 
きっかけは一緒に通学しているお友達との不調和だった。
「その時どんな気持ちだった?」
「怖い、悲しい、がっかり、落ち込む」
「じゃあその時一番大切だったニーズはなんだろう?」
「つながり、楽しみ、スペース、平和」
「一番大切だったのはなんだろう?」
「平和」
 
じゃあお友達がその時どんな気持ちだったのかも寄り添ってみる?
「うん」
「その時彼女はどんな気持ちだったかな?」
「いっぱいいっぱい、さびしい、不安、緊張している」
「その時彼女が大切だったのはなんだっただろう?」
「つながり、愛、受け入れてもらうこと、聴いてもらえること、」
「一番大切だったのはなんだと思う?」
「愛かなぁ」
「あーそうだったんだぁ、結局そうなんだなぁ」
 
そのあと続いたのが冒頭の言葉だ。
そして続けて彼女が話してくれたのは、
「ペコペコの風船を膨らませられるのは、お友達の存在や、言葉、つながりだけなんだよね。ママとうまくいっても、風船は膨らませられないんだよ。そうしているうちに紙風船だから穴が開いちゃったりボロボロになっちゃったんだけど、お友達が千代紙貼ってくれるから、今私の心の紙風船はすっごく綺麗なんだ」
 
お金盗んで、ものであふれかえる部屋にいた娘の心の中に紙風船があって、それがペコペコで苦しんでいるなんて思いもしなかったし、そんな風に自分の心を私に話してくれる日が来るとは、あの時の自分には想像できない変化だ。
共感したら、自分で自分に共感できるようになった娘は、心から安堵した表情で、15年の中で一番愛おしいと思った瞬間だった。
私自身が、その時傷ついた自分の事もちゃんと抱きしめてあげたら、娘も自分を抱きしめられるようになったんだなぁと、深く一つ息をついた。
いつか心の紙風船が自分で膨らませられるようになった娘に会う日が楽しみだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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