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眠りにつくまでの一つの方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤朱子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もう寝たの?」
友人は私を覗き込む。覗き込まれた私は、当然、眠ってしまったわけだから、そんなことには気がつかない。
 
私はすこぶる寝つきがいい。旅行に行っても、誰よりも一番先に寝ついてしまっている。
「寝よう」と思い、目を閉じたら、ほとんど、次の瞬間記憶がなくなる。
スッと眠りに落ちる。
 
世の中では、こんなに寝つきがいい人ばかりではないようだ。ベッドに入って目を閉じてから眠りに落ちるまで、時間がかかると話す人も多い。
 
ある友人は「寝る時間になったら、首を温めたり、ホットアイマスクをしたりして、そして横になっても寝付くまでに30分くらいかかる」と言った。そして、ベッドに入る時間が遅くなっても、同じことをしなければならない、というのだ。
また、別の友人は、「とりあえず横になっても眠れないので、まずは眠くなるゲームをする」とのこと。ゲームのリズムが眠気を誘うらしい。
 
みんなそれぞれのやり方で眠りにつく。
 
私も以前は、こんなにも寝つきがいいわけではなかった。
眠るには一つの儀式が必要だ。
 
まず、ベッドに横になって本を開く。小さな文字を追いかけることで眠気を誘う。
そして、眠気がやってきたな、と感じたら、つかさず照明を消して目を閉じるのである。
 
この儀式で眠れる日は平和な日だ。
なかなか眠気がやってこないで、あれやこれやと気になりだす。考えなくてもいいことを考えだす。
 
では、いつから寝つきが良くなったのだろう……。
 
眠れない時にするオーソドックスなことといえば、羊を数えることだ。
私も子供の頃、眠れない夜は本気で羊を数えたことがあった。皆さんも一度くらいはしたことがあるだろう。
 
しかし、私はこれで眠れたためしがない。
羊を数えて眠れる人って、いるのだろうか……。いるなら是非、数え方を教えてもらいたい。
 
なかなか寝付けなくてしかたがなかった学生の頃、雑誌で羊を数える代わりの方法を見つけた。この方法は驚くほど効果があった。
 
まず、軽く目を閉じて、自分の眼の前に階段をイメージする。それを思い浮かべたら、一段ずつ数えながら丁寧に下りていく、というものだ。
思い浮かべるのはどんな階段でもいい。
私は、より眠りに落ちそうな階段をイメージすることにした。
 
お城の隅、地下に降りる筒状の空間にある螺旋階段だ。そう、ここを降りていけば、暗い地下の秘密の部屋がある……。
それは狭くて、下りて行く先は真っ暗である。
 
階段を下りる前、じっと下る先を見つめるのも大切だ。階段の終わりは見えていない。階段の暗闇に吸い込まれそうだ。
そんな気分になったら、ゆっくりと降りていく。
 
眉間のあたりに意識を集中して、なんとか、小さな明かりで足元を見ながら、そろりそろりと下りていく。
降りてくたびに、体が下がっていくようなイメージを持つ。
 
この方法を習得すると、早ければ3段、多くても10段も降りないうちに、スッと眠りに落ちるようになった。
 
朝、起きた時に、
「あれ? 昨日は何段下りたかな」と思うほどだ。
以来、眠れない時はいつも階段を下りていた。
 
しかし、今はこんな階段をイメージする間もない。
初めに書いたように、私はもう20年くらい、「寝付けない」ということがほとんどないからだ。
 
寝つきがすこぶる良くなった一つのきっかけは父のアドバイスだった。
 
独立して仕事を始めようとした時、父は言った。
「これから色々な心配な事や困った事が起きるかもしれない。でも、夜、ベッドの中からは何もできないのだから、ベッドに入ったら、寝なさい」
 
父は、ベッドの中であれやこれや考えても、心配事や問題が解決できるわけではないのだから、考えるのも無駄だと言うのだ。
父も商売をしていたから、きっと、自分の経験から私に言ってくれたのだろう。
 
「無駄なことはするな。もし、やれることがあるのであれば、ベッドに入る前にやってしまいなさい。」
 
そう言われてから、私は、その時にどうにもならないことをベッドの中でくよくよと考えるのを止めてしまった。
そう、私はさっさと「あきらめる」ことにしたのだ。
 
「あー、もう考えてもしかたがないから、寝よ、寝よ」
という感じで、ベッドに入ると、不思議とスッと眠りについてしまう。
 
この、父のアドバイスに似た話を、プロ野球、巨人軍の原監督がしているのを聞いたことがある。
「監督になると、選手とは違う悩み事、考え事があるけど、布団に入ったら寝ろ。どうしても考えたいときには電気をつけなさい。椅子に座りなさい」
 
原監督は大学の野球部の監督だったお父様から、こう言われたというのだ。枕に頭をつけてする考え事が、非建設的なものであることを、原監督のお父様もわかっていたのだろう。そのアドバイス通り、原監督は布団に入りながら考え事はしないという。
 
私にも悩み事がないわけではない。
いや、ないのかもしれない……。
悩み事が、「悩み事」にならないのだ。
だって、「悩み事」になる前に、考え、あきらめてしまうから。
 
私の「あきらめる」までの道のりは、決してあっさりしたものではない。
「あきらめる」までにできる事はひたすらする。
起きている間、トコトン考えて、そしてこれ以上は解決も考えるのも無理、と「あきらめて」ベッドに入る。
 
本当の「あきらめ」は、とことんやったからこそ、あると思う。
やりきったから、あきらめられる。
 
「今日はこれであきらめて、はい、また明日」、という感じだ。
 
そして、寝つき良く、ぐっすりと眠ることができたら、元気になる。
元気になれば、解決できることも増えるだろう。きっと。
 
しかし、こんな風にあきらめたりはできない、と思った人もいるかもしれない。
そうしたら、くよくよ考えずに、暗い、ずっと先まで続くような階段をイメージして、一つ一つ下りていくことをお勧めする。
 
そう、眠りにつくには羊を数えるよりもいい方法があるというものだ。
 
ちなみに、父もすこぶる寝つきがいい。母はその寝つきの良さに驚いているようだが、家族で旅行に行った時、私と父が先を争うように、あっという間に寝ているのを見て、親子だなと思ったそうだ。
親子して、「あきらめのいい性格」なのかもしれない。
 
だから、私は今夜もあきらめて、そして、眠りにつく。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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