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回復した?回復してない?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木かおる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「え、私の身体、どうなっちゃってるの?」
 
ここはとある西東京のダンススタジオ。
いや、ちょっと待て、全然身体が動かない。
 
前に立つインストラクターの先生からは、
右手を曲げて、左足を伸ばして、と指示する声。
その通りに出してるはずなのに、思った通りのことができない。
 
私のほかに7人参加者がいる中で、
大声で叫ぶわけもいかず、頭の中は大混乱していた。
どうする!どうする!?
 
……。
 
遡ること5か月前、私は実家近くの病院で男児を出産した。
 
いわゆる高齢出産と呼ばれる年での初産はそれなりに不安も多く、
妊娠が発覚してからは、どうやったら無事に生まれるかに想いを馳せ、
生まれたら、どうやって赤ちゃんをお世話すればいいか、
ということに、頭を悩ませていた。
 
お世話グッズでマストバイはコレ!みたいな雑誌を買っては購入物品を検討し、
名付け本を買っては、この字は嫌だ、字画がああだこうだと、夫と喧々諤々。
 
幸いにして少し貧血が出る程度で経過は順調、
有給休暇を使って、里帰り出産のために早々に実家に帰り、
のんびりと散歩や編み物をしながらすごした。
 
予定日を過ぎても陣痛は来ず、医師の指示で管理入院することに。
促進剤を打ち、激しくなる陣痛。
なんとかかんとか無事出産し、産後の経過は、順調だった。
 
順調だった、はずだった。
 
寒い寒い、2月。
出産の痛みの回復もままならない中、
3時間おきに授乳かミルクを、という病院の指示のもと、
夜中もきっかり3時間で目覚ましをかけ、授乳。
 
いや、そもそも、こんなに全身痛くなるとか聞いてないんですけど……。
傷口、子宮が元に戻ろうとする収縮の痛み、力んだ身体の前身筋肉痛。
 
そんな身体で、授乳しても泣き止まずに困惑しまくり、
抱っこしたまま気づけば自分が寝落ちていた。
 
名前を決めるときに2つ最終候補が残り、
判断がつけられず両親に訊いたら票が割れてどうしたらいいのかわからなくなり、
自分には人が一生背負っていく名前をつける資格なんてないと、
プレッシャーに押し負けて泣いた。
今思うとかなりホルモンバランスが崩れてメンタルがやられていたのだと思う。
 
桜の咲く4月、自分の家に帰ってきた。
 
そこからは日中子どもと自分だけの日々が始まった。
引っ越してきたばかりで知り合いもいなかった私は、
自治体の子育て支援情報を頼りに、
今日はこちらへ、明日はあちらへと、色んな赤ちゃんイベントに足を運んだ。
 
子育て広場で初対面の母たちと会話するのはすごく緊張したが、
当たり障りなく、おむつや発達の話をしたりしてやり過ごした。
ああ、しばらくは、〇〇ちゃんママと呼ばれる、こういう世界で生きていくのだなと、
少しの違和感を持ちながらぼんやりとしていた。
 
その違和感が何なのか、深く考えないまま、
頭の中にモヤを抱えたまま、日々は過ぎていった。
 
友人を家に呼んで餃子パーティーしたり、
夫に子どもを預けてお芝居を観に行ったり、
社会活動が少しずつ増えてきて、もう私は回復したな、と思っていた。
 
思っていたのだが。
 
産後3か月頃のある日、LINEで友達と何気なく会話していた時、
とある産後ケア教室を教えてもらった。
 
「絶対合うと思うから行ってみて!」
 
と友人に言われ、半信半疑でサイトをみると、
週1回の1か月コース、少々値が張る感じ。でも、隣駅でやっている。
 
赤ちゃんと一緒にがっつり運動出来そうだし、
運動だけじゃなく、
何やら参加者の方々と対話するプログラムがあるということが少し気になり、
エイヤ!と、申し込んだ。
 
そして、くだんの、西東京のダンススタジオである。
 
およそ3~5か月くらいの赤ちゃんを抱っこした母たちが集まり、
インストラクターの指示に従って、赤いバランスボールに乗る。
 
そもそもバランスボールが初めてだった私は、
上に乗ってボンボン弾むだけで一苦労。
 
「え、私の身体、どうなっちゃってるの?」
 
どうする?って思ったけど、
みんなで変な動きになって、みんなでガハハと笑って、
汗をかいたのが、ものすごく久しぶりに感じた。
 
いや、ふだんも汗はかいているのだけど、
主に、赤子の命を守る者としての、冷や汗である。
 
久しぶりだったのは、自分のための、汗。
そうやって気持ちいい汗を流したあとに、
気になっていた対話のプログラムが始まった。
 
車座になって自己紹介して、「呼ばれたい名前」を言う。
テーマに沿った話を、1人で考え、2人組で聴き合い、
感じたことを全体でシェアする。
 
そこで驚いたのは、身体だけじゃなく、
言葉も全然出てこなくなっていた、ということだった。
テーマをもって話そうとすると、頭が追い付いてこない。
回復していたと思っていた自分は、出産前とは程遠い状態だった。
 
そんな中、印象的だったのは、
その場で大切にされていた、「自分を主語にすること」
 
頭の中にかかっていたモヤが、晴れたような気がした。
 
あ、私、自分のことを考えていいんだ、と思った。
すっかりすっかり、本当にすっかり、忘れていた。
 
〇〇ちゃんのママと呼ばれることへの違和感は、これだったんだ。
何より先に子どものことが優先される思考、
その違和感が何だったのか考えることを、放棄していたことに気づいた。
 
そこから、私の思考は大きく変化した。
 
さまざまな選択肢の前提条件に、「私がやりたいと思うこと」を取り戻した。
 
赤ちゃんは、大切。親として、守るべき命。
でも、私の人生は、私のものだ。最後まで向き合い、付き合うのは、自分自身だ。
 
自分を主語にして、生きていいんだ。
 
今、自分はどんな気持ち?
何にどう感じている?そこにふたをしなくていいんだ。
 
そう思い出せた産後ケア教室に、そこを紹介してくれた友人に、
心から感謝している。
 
あれから5年、私は今、あの時大切だと気づいた「対話」を、
世界に広げるための活動を続けている。
自分を主語にして、お互いの気持ちを受け取りあえれば、世界はもっと豊かになると信じて。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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