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武装解除!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:sato(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ドーン!
 
腹に響く重低音。
 
パンパーン!
 
軽く乾いた音。
 
四方八方で銃声が飛び交う中、地面にうつぶせになって私は銃を構えていた。前方、左右、後方、上空、あらゆる方角に注意を向けなくてはならない。敵はどこに潜んでいるのか分からないのだ。一瞬の油断が命取りになる。気を抜くことは許されない。
巻き上がる土埃にむせそうになりながら隣を見る。良かった、無事だ。その仲間は自分自身の身の回りのことすら出来ない状態でこうして私と共に前線にいる。私が守らなくてはならない。日々戦闘を続けながら、前へ前へと進み、仲間の命も守らなくてはならないのだ。
ものすごい重責に押しつぶしそうになりながら、私は頭を締め付けるような痛みとも戦っていた。こんな戦闘の最前線でそれどころでは無い、と痛みを振り払おうとしても、孫悟空の頭にはまった輪っかのように私の頭を締め上げてくる。
 
連日続く激しい痛みについに衛生班のもとを訪れた。薬は効かないと思うと言いつつも筋弛緩剤と鎮痛剤が渡された。予告通り効かなかった。頭痛に聞くと教えてもらった体操もやってみた。1週間、1か月……効かなかった。
その時に勧められた鍼治療、一体いつ行けと言うのかと思いながらも、しばし戦線を離脱し、紹介状を持って言われた所を訪ねてみた。
 
「うーん。脳がいつも戦闘モード」
 
問診と触診を終えると鍼灸師は一言そう言った。
 
「戦闘モード……ですか?」
 
そう言われるまで私は戦闘している自覚が無かった。私は一社会人であり、一主婦であり、一母親なのだ。戦闘などしていない。この人何言ってるんだろう。
 
「リラックスしていないでしょう」
 
言い方を変え再度言われて、ようやく思い当たった。
 
「あぁ、そう言われればそうですね。いつも何か考えてるかやっているかしています。 ボーっとしているのは電車に乗ってる時くらいでしょうかね。 あ、でも行きはその日の仕事の段取りを考えてますし、帰りは夕食何にしようとか、それには何を買って帰ればいいかなとか、家に着いたらどういう順序で家事をやるかとか……考えてますね、やっぱり」
 
「うんうん。やはりいつも戦闘モードですね。頭が休む暇がない」
 
「なるほど。そう言うことなら私ずっと戦っています」
 
ようやく私は納得した。迷彩服に身を包み、土埃の立つ戦場に転がって銃を構えている自分の姿が目に浮かんだ。そうなのだ、仕事や家事、幼い子どものあれこれ。四方八方から引っ切り無しに銃弾が飛んでくるのだ。
 
「交感神経と副交感神経って聞いたことありますか」
 
鍼灸師さんは話を続けた。
 
「はい、あまり詳しくないですが、聞いたことはあります」
 
「活動している時は交感神経が優位。リラックスしている時は副交感神経が優位。どちらが良くてどちらが悪いというのでは無いけれど、一日のうちに交感神経が優位になったり、今度は副交感神経が優位になったり、波のように入れ替わるのが普通の状態です」
 
「はい」
 
「副交感神経優位、つまりリラックスしている状態になるのは、例えば食事している時やお風呂に入っている時、眠っている時なんですけど、どうですか?」
 
「えっと、家で食事している時は子どもの面倒を見ながらなので、落ち着いて食べられないですね。一緒に食べられず後でキッチンで立ったまま大急ぎでかき込むこともしょっちゅうです。お風呂も子どもを入れて洗ってあげるために一緒に入っている感じなのでリラックスとは程遠いです。眠るのは、子どもを寝かしつけたらその隙に片づけておきたい家事や、仕事の調べ物をしたり資料を作ったりがあるので、遅くまで起きていますし、眠ったら眠ったで子どもが起きて泣いたりするのでまとまった時間眠れることは無いです」
 
答えながら、自分の日常があまりに戦闘モードだったことに気づいた。応援部隊不在で幼い子どもを育てている家庭の多くはこんな感じだろうが、このままでは本来リラックスの場である家庭が戦場のままだ。
 
そこで鍼治療に通いつつ、食事、お風呂、睡眠の中で、どれか一つでもリラックスタイムにしようと思った。唯一何とかなりそうなのはお風呂だった。
 
平日は夫の帰宅が遅いため難しかったが、休日は子どもを夫に託し、自分一人でお風呂に入るようにした。
一人で入るのなんていつ以来だろう? 浮きたつ気分で浴槽に足を入れる。ちょうどいい湯加減だ。そろりそろりとしゃがんでいき肩まで浸かる。
 
「はぁーーーーーっ」
 
気持ち良さに思わず声が出る。この温かな心地良さの中で今後の戦闘のことをあれこれ考えるのは難しい。久しぶりに頭の中が空っぽになった。武装解除だ。リラックスってこういう感覚なんだ、すっかり忘れていた。
 
それまで日頃の慌ただしさに押され、お風呂とは体を清潔に洗う場所、何ならシャワーだけでもいいやという存在になっていたが、入浴の効能はまだまだある。
主なものは3つだ。
 
1. 温熱の効果
体が温まることにより、血流が良くなる。体内の老廃物や疲労物質が取れる。
細胞が活性化し、免疫力がアップ。
 
2. 水圧の効果
入浴中はウエストが数センチ細くなる程の水圧がかかっているそうだ。この圧力で、足にたまった血液が押し戻され血液の循環を良くする。
 
3.浮力の効果
入浴中は体重は約9分の1になるそうだ。いつも体重を支えている筋肉や関節の負担が軽減される。
 
この3つの働きが同時進行することで、心身ともにリラックスしリフレッシュするのだ。
 
そのお陰で3か月以上続いた私の頭痛も一度二度の入浴でという訳では無かったものの少しずつ軽くなり、ある時ふと気づくと全く無くなっていた。どうやら戦闘モードが解けたようだ。
 
お風呂はシャワーで体を洗うだけというあなた、今日もお疲れ様です。
もしかしたら気づかないうちに戦闘モードになっていませんか。今夜は浴槽にお湯をため、頭を空っぽにして浸かってみませんか。 武装解除です!
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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