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悪いと思っているのに、やめられない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:シマザキ キミコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
自分の中で、これはやってはいけないことなのではないかと思い悩んでいたことがあった。
 
決して違法なことではない。
これに手を出したからと言って、通常であれば健康被害が起きるといったことはないし、精神異常をきたすようなこともない。
犯罪では無いけれど、それは社会のルールに逆らった行動であり、ものすごく糾弾されても仕方が無いことかもしれないと思い、可能な限りそれに手を出さないように心がけていた。
ただ、私は状況に負けて、数年前からそれに手を出してしまい、
今ではどっぷりとハマってしまい、やめられなくなっているというのが実情だ。
 
(こんなことを話したら軽蔑されるかもしれない)
と思っていたが、ある時ふと友人に
「自分はこんなことをしているのだ」
と、告白してみた。
 
すると、友人は「僕もやってるよ、仕方ないよね」と平然と答えた。
 
(否定されなかった、よかった)
と、思うと同時に
(あれ? もしかして、そんなに悪いことではないのか?)
という疑問も湧き上がった。
 
私がしている悪いこと、
それはテレビの早送り再生だ。
 
なんだ、そんなつまらないことかと思われる方も沢山いらっしゃるかもしれないが、私はかなり真剣にこのことについて葛藤していた。
しかも結構長いあいだ。
 
一人暮らしを始めてから7年ぐらいは、部屋にテレビを置いていなかった。
一生ここに住むわけではない部屋に、なんとなく家電を増やしたくないというざっくりした気持ちで購入しなかっただけだが、別に困る事はなかった。
 
そんな私がテレビを買うきっかけになったのは東日本大震災だ。
震災当日、帰宅難民になった私は豊島区の小学校に避難し、一泊させてもらうことになった。
その小学校の教室で見たテレビの中の光景があまりに衝撃的で、
(今世の中で何が起きているのか知らなくてはいけない)
と思い、それから数日のうちにテレビを購入した。
 
最初はとにかくニュースや報道特番など、非常事態になった日本を映し出す光景をただただ追いかける生活だったが、
日常を取り戻すにつれて、次第に沢山の普通の番組を見るようになっていった。
 
7年ぶりのテレビ生活、友人に今チェックしておくべきバラエティ番組を教えてもらい、自分でも毎朝必ず番組表を確認し、興味のある番組はドキュメント、バラエティ、ドラマ、映画と手当たり次第に録画しまくった。
結果、100時間あった録画用のハードディスクの残り容量が『あと3時間』と表示されるまでに時間はかからなかった。
 
こうなってくると、もう、如何に時間をかけずに録画した番組を消化していくかの勝負になる。
最初は、CMを早送りした。これも、最初は罪悪感があった。
(本来はテレビ番組を作るお金を出してくれている大事なスポンサー企業様の大事な広告。それを見ないで飛ばすなんて、何て悪い女なんだ……)
菜々緒さんあたりが演じていそうな悪女になったような気分で毎回早送り操作をしていたが、すぐにそれも慣れた。
 
しかし、テレビに正対してきちんと番組と向き合う時間はほぼ無い。
必ず家では何かしらの家事を行いながら、テレビを流し見するという状況になる。ドラマを再生しながら台所仕事をこなしていると、もはやラジオドラマを聞いているのとほぼ変わらないような状況になってくる。
これも、本当にどうかと思った。
画面を見ている時間が、ものすごく少ない。飛び飛びに画面を確認しては、耳だけでその展開を追う。
これは視聴と言っていいのか。
 
しかし、見ないで消去するよりはマシと自分に言い聞かせた。
 
だが、その程度の努力では録画可能容量の余裕は全く元に戻らなかった。
(このままではいけない)
私は、意を決して早送り再生の術を使うことにした。
最初はバラエティ番組だけにしようと思った。
それでも芸人さんたちの笑いの『間』というものが壊れてしまうので、最初はとても申し訳ないという気持ちが強かった。
 
その反面で、視聴時間を稼げたという妙な達成感も同時に芽生える。
本来1時間のかかる予定が40分で片付いた、というような喜びだ。
残りの時間で違う番組を見ることができる。
 
この喜びに私は負けて、ついにドラマも早送りするようになってしまった。
 
ああ、本当に申し訳ない。
 
監督も、脚本家も、演者の皆様も、技術スタッフの皆様も、制作の皆様もそんな速さで見られる前提で作ってはいないだろうに。
しかし、早送り再生に次第に慣れてきた私は、ついに更なる禁断の秘術にも手を出すようになった。
 
日本語字幕、である。
 
本来は、聴覚障がいのある方に向けた機能だったかと思うが、お茶碗を洗いながらドラマを見ていた時に、どうしても台詞が聞き取れず、字幕を表示してみた。
するとどうだろう、聞きにくかった台詞もパッと画面を見ただけでコンマ何秒で台詞を理解することが出来、格段にストレスが軽減されていく。
(テレビの音量も聞き取れる大きさまで大きくしなくても良くなった、こんな素敵な機能だったなんて……)
画面の真ん中に大きく表示される字幕に、かつては若干恨めしいような気持ちもあったが、まさかこんなに必要とする日がやってくるとは。
 
しかも、字幕には自分ではわからなかった情報が載ってくることがある。
単にBGMとして聞いていた歌の歌詞が書かれている時や、曲のタイトルが書かれていたり、自分では知っているつもりで聞いていた単語が、字幕で感じ表記された途端、
(あれ? そういえばこの単語を文字で見るの始めてかも。勉強になるな)
などと思うことも一度や二度ではない。
 
時にドラマでは字幕表示が微妙に早く、役者がセリフを言う前に字幕で数秒のネタバレタイムが発生してしまう。
最初はそれも若干イラっとしたが、今ではそのセリフを役者さんがどのように表現しているのだろう、とシナリオを眺めながらテレビを鑑賞しているような気分にもなり、逆にちょっと楽しくもなってきた。
 
また、『シン・ゴジラ』や『半沢直樹』のような、公的機関向けの言葉遣いや情報量が異常に多い台詞などは、逆に字幕付きで何度も見て、実際に自分でも役者さんと同じようなスピードで声に出せるのが試してみたくなったりもした。
字幕機能を用いることで、テレビ番組との付き合い方が少し能動的になり、自分でもその変化はとても面白かった。
 
こうして、私はどっぷりと早送り再生生活から足を洗うことができなくなり、今ではYouTubeでも、いろいろな動画や講義を早送りで視聴している。
 
そして、今朝気がついたのだが、ついにNetflixにも再生速度調節機能が実装された。いつから始まったサービスか全く気がつかなかったが、待ち望んでいた機能だ。
 
私は、欲張りだ。
限りある時間の中で、なるべくたくさんの作品と出会いたい。
そのために今日も、私は悪いことをし続けている。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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