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人と人との距離


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記事:キムラアヤ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「えっ? ちょっと、ちょっと、ここに座るの?」
 
ガラガラのバスに乗っていた時のことだった。乗客は私だけ。次のバス停に着いた。すると、乗ってきた女性が、たくさんの袋を手に下げ、私の隣にガサガサっと座った。
 
「なんで? ほかの席が空いているのに」
 
これは、アメリカでの体験だ。
アメリカに住んでいた時、人と人との距離感について、違和感を覚えたのはこれだけではなかった。
 
例えば、デパートのエレベーターに乗っているとき、私の他には誰も乗っていないのに、後から来た人が近くに立ったり、列に並んでいるときに、妙に間隔を詰めてきたりする。
日本よりも犯罪が多いので、常に人との距離を気にしながら生活していた。この距離感が、ちょっと怖かった。
 
その反面、自分のテリトリーを主張する人もいた。いわゆる、パーソナルスペースだ。アメリカでは、「スペースバブル」と言った。
大学での座席の間隔や、公園の芝生に座るとき、後は、カフェで大きなテーブルをシェアするときなど。
「人種のるつぼ」といわれるアメリカだけに、多種多様な文化が共存している。それが故か、結局最後まで、基準が分らないままだった。
 
日本ではどうだろう。
今よりも、人と人との距離に敏感ではなかった、コロナ前の生活を思い出してみた。
電車では、先ず、長いシートの端に座り、その次に真ん中、最後に残っているそれらの間に座っていくという順番が、大半だった。その証拠に、電車の縦の手摺も、端と真ん中に付いていて、自ずと均等に座りやすいように、デザインされている。
これは、日本の文化だと思っていた。
 
最近、空間と人と心理の関係性について学び始めた。空間が創り出す環境が、そこにいる人の心理にどう影響するかという学びで、空間デザイン心理学という。
そこで、面白い課題があった。
 
「測るのは、お互いのおへそと、おへその距離ね」
 
そう、パーソナルスペースの計測だ。
前方、後方、左右の距離、それと頭上。理論的には足元より下の距離もあるのだが、床があるので、そこは割愛。自分自身が心地いいと思う、守られていると感じる空間のサイズを知ること。
まさに「スペースバブル」である。
 
課題では、自分のパーソナルスペースと、家族とのパーソナルスペースを測ることになった。
 
「正面で向き合って、少しずつ、私の方に近づいてきてくれる? ストップって言ったら、そこで止まって」
 
「次に、後ろ、そして左右をお願いします」
 
夫と実際に測ってみると、意外なことが見えてきた。
私の前方の許容範囲は20㎝だった。つまり、夫が目の前20㎝まで近づいてきても大丈夫であるということ。後方は25㎝で左右は45㎝。上方は2mと以外に小さなスペースバブルだ。
しかし、夫の結果はというと、前方の許容範囲は、なんと、65㎝だったのだ。後方は55㎝で、左右は50㎝。
特に、二人の前方に対する感覚が、45㎝も違うことに驚いた。
 
「へえ、そんなに距離が必要だったんだね」
 
これを知って、納得することがあった。
いままで、私は、夫に何かを話しかけるとき、わざわざ近くに行って話しかけていた。それなのに、彼の反応は、今一つ。聞いているのか、聞いていないのかよくわからないときが結構あった。
 
「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」
 
と、いつも言っている気がしていた。
でも、その原因がパーソナルスペースにあったのだ。
 
このことを夫に聞いてみると、いつも私の距離感が近いと思っていたという。だから何となく顔を向けにくかったのだと。
 
「そうだったんだ、早く言ってよー」
 
一つ疑問が解けた瞬間だった。
それ以来、私は彼に話しかけるときに、彼の快適だと感じるスペースをとるようにしている。
少し遠めから(これは私にとって)話しかけてみると、こちらを向いて話を聞くようになった。
 
パーソナルスペースの違いは、国や文化によって違うのだと思っていた。それらも大きな要素ではある。しかし、今回のことで、パーソナルスペースは「個性」であると学んだ。
一緒に学んでいるクラスメイト達のパーソナルスペースを見ても、結果は同じだった。日本人同士でも、友達でも、家族でも、人それぞれ快適で守られていると感じるスペースはバラバラなのだ。一人一人が違って当たり前、まさに「個性」だ。
 
コロナ禍において、人との距離、フィジカルディスタンスが問われるようになり、なんだか少し寂しい感じを覚えていた。
しかし、物理的に距離を取ることが、必ずしも心理的な距離に比例するわけではないようだ。
 
人にはそれぞれ快適な距離感があって、それをお互いに理解しあえれば、私たち家族のように、今まで以上に密なコミュニケーションが取れるようになるのだから。
 
新しい生活様式を求められている今だからこそ、今一度、自分のパーソナルスペースと、身近な人たちのパーソナルスペースを知り、お互いに尊重しあえたら、多くの幸せな時間を過ごせるのではないだろうか。
是非、パーソナルスペースを測ってみてはいかがでしょうか。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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