メディアグランプリ

ストローはスイッチだ


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記事:大下歩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
真っ青な南国の海で、1人のダイバーが野生のウミガメと出会う。
悠々と泳ぐウミガメは、しかしどことなく様子がおかしい。よく見ると、何か細長い物がその鼻から飛び出していた。不思議に思ったダイバーは、近寄ってそっとそれを取り出してみる。苦しそうに悶えるウミガメ。
真っ赤な鮮血と共に鼻から出てきたのは、茶色く変色したプラスチックストローだった。
 
これは中米コスタリカの海であるダイバーによって撮影された動画である。私たちが使い捨てているプラスチック製品の一部が、処理の過程で海に漏れ出し生き物たちを苦しめている実態を、広く世界に知らしめた。日本でもビニール袋が有料になったのは記憶に新しいが、世界全体でビニール袋やペットボトル、そしてストローなどをできるだけ使わないようにしようという機運がぐんと高まった背景には、この動画の衝撃が少なからずあったのである。
私もこの動画に人生を動かされた一人だ。そんな大げさな、と思うだろうか。しかしこの動画がきっかけの一つになって、大学で環境学を学ぼうと決めたのだから、あながち間違いでもあるまい。
そんな訳だから、金属でできたストローを手に入れたときは感動した。中を洗う細いブラシと一緒におしゃれな布の袋に収まっている姿は、さながら小さなフルートのようだ。普通の食器と同じで、なんどでも洗って使えるからゴミにならない。一生使えるものだと思うと、愛着もひとしおである。
それ以来、出かけるときには常にそのマイストローを持ち歩くようになったのだが、時が経つにつれて、ある素朴な疑問が頭をもたげてきた。
「ストローって、必要だろうか?」
お店で飲み物を注文する度、プラスチックのストローを断って自分のストローを使うのは気分がいい。街で落し物を見つけて交番に届けるようなものだ。本来出るはずのゴミを出さずに済むのだから、一つ徳を積んだと思える。
しかし、そもそもストローなんてなくてもたいていの物は飲める。ゴミを減らすためにプラスチックストローを断るのはいいとして、その代わりにわざわざ自分専用のストローで飲む必要があるだろうか?そもそもストローとはいったいなんのためにあるのだろう?
「アイスコーヒーに入れたガムシロップをかき混ぜるのに必要だ」
そんな声が聞えてきそうだ。たしかにいくつも味がブレンドされている物を飲むときは、かき混ぜる物があった方が都合がいい。だがかき混ぜることが目的なら、スプーンやマドラーを使えばいいのではないか?
「テイクアウトして歩きながら飲むとき、あった方が飲みやすい」
もっともだ。しかし、ではお店で坐って飲むときにまでストローが付いてくるのはなぜか?
「子どもや障がいのある人には必要なときがある」
なるほど。まだ手つきのおぼつかない小さい子や、身体的な理由で直接コップから飲むことが難しいひとに必要なのは納得できる。では、そうでない場合は?
どきどきする。今まで触れられたことのない扉を開けて、そっと中に足を踏み入れているようなスリル。おそらく最初は誰もが奇妙に思ったはずなのに、いつしかなんの疑問も持たなくなった、「飲み物を飲むときにはストローが必要だ」という固定概念が、少しずつ崩れていく。そのまま思考を推し進めるのがちょっぴり怖いのは、その先にお気に入りのマイストローが究極的には「いらなかった」という結論が待っているのかもしれないからだ。
友人とお茶をしたとき、例によって私が取り出したマイストローに興味を持ってくれた彼女に、そんなもやもやをぶつけてみた。彼女は「たしかに!」を連発しながら、熱心に聞いてくれた。そして、ウェイターを呼んでこう言った。
「アイスカフェオレ1つ。ストローは要らないので、代わりにスプーンをください」
それから私に向き直り、まるで長い眠りから覚めたようなさわやかな風情でこう言った。
「ストローが必要化どうかなんて、考えたこともなかったよ」
スイッチ。
そのとたん、目の前がぱっと明るくなった。私がマイストローを持ち歩くのはなぜか。その答えが唐突に降ってきた。
今世界には物があふれていて、誰もがそれが本当に必要化どうかなんて考えずに使っては捨てている。私だって、ウミガメの動画を見るまでストローの存在意義なんて考えたこともなかったし、ましてやそれが海の生き物を苦しめているなんて思い及ぶはずもなかった。それが今、ストローは本当に必要かどうか考えあぐねた結果、こうして2千時の文章を書いている。それと同じことが、今彼女にも起こったのだ。彼女の頭は今フル回転を始めている。きっかけになったのは、私がストローを持ち歩いている事実だった。
停止した思考を再稼働させるスイッチ。それこそがマイストローの存在意義だ。ああでもないこうでもないと考えることに意味がある。そしてもし一人一人がきちんと頭を働かせて、要らない物は使わないを徹底すれば、自然とゴミも減るだろう。
長いことかかえていた釈然としないものがふわりと消えて、私は晴れ晴れとした気持で友人に向かって大きくうなずきかえしたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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