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フィンランドにいったい何があるというんですか?


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記事:中村 翔(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「フィンランドを旅行されてたんですか? それとも、他の国へ?」
ゴールデンウィークの休暇を利用してヨーロッパを1週間旅行したあと、フィンランドの首都ヘルシンキから搭乗した成田行きJAL便の機内。ふとした会話の流れで、偶然隣の席になった日本人に問い掛けた。女子大生だと言われても信用しそうな可愛らしい外見だったが、2児のママだという説明からして、実年齢は30代のようだ。
ヘルシンキは成田から約9時間。極東ロシアのウラジオストクなどを除けば、日本から最も近い「直行便で行けるヨーロッパ」であり、日本人が北欧・中欧へ向かう際のゲートウェイになる。だから、ヘルシンキ発のフライト利用者が必ずしもフィンランドを訪れていたとは限らない。そう思っての冒頭の質問だったが、予期した答えとは違った。
「はい、1週間フィンランドにいました。わたし、フィンランドしか行ったことがないんです」
「そうなんですね。フィンランドだけ……。ということは、ひょっとして今回が初めての海外だったとか?」
そんな相槌を打ちつつ、内心、妙な違和感を覚えた。人生初の海外旅行先がフィンランド? なんだか少し変わっているなぁ。オーロラを見に来たというのならわかるけど、5月はオフシーズンのはず。ムーミンがめちゃくちゃ好きで聖地巡礼を思い付いたとか、マリメッコのアウトレットで爆買いしたかったとか、そんな理由だろうか。
 
なけなしの知識から答えを想像してみたが、その直後、全く頭になかった返答を聞いて困惑した。
「いえ、フィンランドに来たのは15回目で……」
15回目!?
機内はほぼ満席で四方八方に乗客がいるのに、思わず、少し大きな声を出してしまった。
これが、パリとかニューヨークとかハワイとか、いかにも日本人が好きそうな有名観光地であれば、そこまで驚くことはなかったかもしれない。しかし、なぜ敢えてフィンランドに15回も? 本当なんですか?
「そんなにおかしいですかね……?」
苦笑いされてしまったが、それでも僕が興味本位に話を聞くと、嫌な顔もせず丁寧に答えてくれた。
最初は姉に誘われて一緒にフィンランドへ来た。2回目からはひとり旅。最近は毎年2〜3回のペースで、季節に関係なく来ている。結婚して子供が生まれてからも、幼い2人の世話を毎回主人に任せて、必ずひとりで旅立っている。でもフィンランドに友人がいるわけではないし、フィンランド語も全く喋れない。
えっと、その旦那さん、優しすぎません? という余計なお世話でしかないコメントが思い浮かんだが、赤の他人のプライベートを詮索するのはこれぐらいにして、僕は一番聞きたいことに話を戻した。
 
フィンランドにいったい何があるというんですか?
 
他の場所には目もくれず、15回連続でフィンランドだけの海外旅行。そこまで心酔するのは、きっと何か特別な理由があるはずだ。
「そうですよね……。フィンランドって、確かに、何があるんでしょうね……?」
え、どういうことですか?
「そう言われてみると、フィンランドって、有名な観光地とか、あまりないですよね。しかも外食したら10ユーロ以上は当たり前だし、ホテル代も高いから、1週間もいるとそれだけで結構お金使っちゃうし」
そう思います。
「わたし、ムーミンにも特に興味はないし、マリメッコが好きなわけでもないんです。ヘルシンキの街の風景も特別な感じはしないし、食べ物がすごくおいしいっていう感じでもないですね。何度も来てますけど、いつも、特に何をしたいというのはなくて」
それなのに、なぜ15回もフィンランドに?
「なぜなんでしょうね。でも間違いなく言えるのは、ここに来ると落ち着くんです。フィンランドへ戻ってくるだけで、必ず『来てよかったな』と思うし、日本へ帰ると、必ず『また行きたいな』と思うんですよ。わたしにとっては、その気持ちが満たされるだけでいいんです」
 
生まれ育った故郷みたいなものですかね。
でも、一度きりの人生、せっかくならいろんな場所へ行きたいと思うことはないですか? 一つの場所を徹底的に極めるのも凄く楽しそうだなとは思うんですけど、僕はどうしても、もったいないと感じてしまって。
「その気持ち、わかりますよ。わたしをフィンランドに連れてきた姉はもともと海外旅行が好きで、毎年違うところへ行ってます。わたしと一緒に一度行ったきり、あれからフィンランドには全く行ってないんじゃないかな。姉を見ていると、たまには他の国に行ってみるのも楽しいんだろうなと考えることもあるんです。でも、わたしはきっとこの先も、やっぱりフィンランドしか行かないんだろうなと思います」
 
なるほど。
とても清々しい話を聞かせていただくことができた。
フィンランドには何があるのか。そんな質問も、今となっては野暮なものだった。
フィンランドには何もないけど、でも、それがいいんですよ。
どんなガイドブックを読んでも、どんな口コミサイトを探しても、こんな情報は載っていない。でも、僕はこういう人間味のある言葉が大好きだ。
命の危険を冒してまでインスタ映えする写真を撮ろうと夢中な若者のように、何かにつけて他人の評価を気にする人が増えている。そんな世の中に対して一線を引き、他人からどう見えようと、わたしは自分がやりたいことをマイペースにこれからもずっとやっていく。そんなメッセージを受け取ったように感じた。
旅に対する価値観は異なる部分もあるけれど、ブレない自分の物差しを持っている人は、単純にとてもカッコいい。
 
僕がフィンランドに行ったら、またどこかでお会いするかもしれないですね。
最後にそう言って成田空港で別れてから、5年の月日が過ぎた。あれからフィンランドには一度も行っていない。コロナの問題が収束したら、久々にフィンランドへ行ってみよう。そんなことを考える今日この頃である。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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