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熱を込めて文章を書こうとする時に、私に取り憑くMという存在


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:うえの(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
小学校の頃にMという同級生がいた。
特に親友という訳では無かったが、ゲームをよく貸し借りしあったし、彼の家で遊んだ記憶もある。お互い人付き合いが得意なタイプでは無かったので、いつも遊ぶ時は二人だった。
彼は3年の時に転校してしまい、それ以来合ってはいない。
今回これを書くにあたり、SNSでMの検索を試みたが、情報は出てこなかった。
彼が今何をしているのか、それこそ生きているのか死んでいるのかも不明である。
 
しかし、私の人生はMに取り憑かれている。
現在がわからない以上、この取り憑かれている存在を「亡霊」と言っていいのか「生霊」と言っていいのかはわからないが、厄介な事に彼は人生の節目節目で姿を現してくる。
一体どんな時にMが私の前に姿を現すのか?
 
それは熱を込めた文章を書こうとする瞬間にやってくる。
 
気合を入れて文章と向き合うと必ず【白紙の原稿用紙を前に固るMの姿】が浮かんでくるのだ。
しかも、書くのに苦戦すればする程、そのイメージはよりクリアになり、書くことの孤独や恐怖心を煽り続けてくる。
書く時に、最初に戦う存在、もしくは頭から振り払うべき存在と言っていい。
 
このMの姿は、彼が転校する直前、作文の授業で私が見た光景だ。
授業の詳細は覚えていないが、確か自由課題だったと思う。
作文が苦手だった私は適当に内容をでっちあげて課題を消化していた。下手くそでも書き上げる事さえできれば恥をかくことはないと、とにかく原稿用紙を埋める事だけに腐心したし、作文を書く時はいつもそうだった。
残り時間も僅かとなり、クラスのほとんどの生徒が課題を終えて騒がしくなってきた頃、
突然、担任教師が私の隣にいたMの前に立ち、「はやく書け!」と叱責し始めた。
この男は癇癪持ちで、何かにつけては生徒に目をつけて攻撃するタイプの教師であり、
私はMが自分の友人であるにも関わらず「自分が目をつけられなくてよかった……」と内心ホッとしながらその様子を眺めていた。
(余談だが、Mの事を思い出す度に、この男の事も割と思い出してしまう。困ったものだ)
しかし、ふとMの用紙を除き見してみると、彼の原稿用紙はほとんど白紙のまま進んでいないではない。
 
残り時間5分でそこに書かれていたのは『思ったこと』というタイトルと、自身の名前のみ。
 
授業中に書ききれない事はこの時点で確定している。それなのに「書け!腕を動かせ!」と罵る教師、自分に集まる全生徒の痛々しい視線。Mの絶望感を自分の事のように感じた。
そして、そんな彼の姿を見て、私は味わったことのない気持ちに襲われた。
「思ったことを書くってなんだ……?」
これが、私の人生で初めて「書くということ」を意識した瞬間だ。
 
『思ったこと』
この不器用とも深いとも言えるタイトルを、彼がどういう気持ちでつけたのかは今では知る由も無いが、自分が適当に日常の出来事をタイトルにして「楽しかったです」なんて無難に締めくくっている頃、彼は自分自身の内面と向き合おうと苦悶していたのである。
 
そこで小学校三年生の私はだんだん自分の事が恥ずかしくなってきた。
「今まで自分の”思ったこと”を書けた経験なんてあっただろうか?」
 
書くこととは、自分の頭に浮かんだ言葉を記す事。自分の目から見た事実だったり、感情だったり、面白いと思われる事柄だったり、何がしかの浮かんだ気持ちに従って書くものだろう。
そんなの当たり前だろ……と思われるかもしれないが、このMの姿を見るまで、自分は自分の気持ちと向き合って言葉を記した事なんて無かった。
 
学校教育について何か言いたい訳では無いが、平均点を下回らないこと・悪目立ちしないことが評価軸になっている学校生活を経て、私は自分を殺して過ごす事を知らず知らずのうちに処世術として身につけていた。
算数の公式や、年号の暗記、知識を詰め込む時にはまだ良いかもしれないが、創作活動においてこの価値観を持ち込むと人間の個性は死んでいく。
工作の時間「皆が校舎の絵を書いているから、俺もそうしよう。書きやすいようにド正面で」
書道の時間「“希望”と書いている人が多い。だから俺も“希望”だ」
作文の時間「皆が遠足の事を書から俺も“遠足”だ。出来事を羅列して“楽しかったです”で締めくくれば終わり」
そこに遠足へ行くのが本当は面倒だった気持ちや、好きな子と歩いた時の感情や、自分だけが密かに感動した光景などは入る余地は無い。
小学校の自分は、とにかく人と違う状態だけは避けたいという一心でしか学校生活を送っていなかったと悟った。
 
このMの原稿用紙を見て
「『思ったこと』ってなんだ?」
「自分はいつ、何を、思って生きているのだろうか?」
「もしかして、書くことって本当はそういう思いを記す事なのかな……」
そんな事をグルグルと考えているうちに、チャイムが鳴った。
 
Mは結局、何も書き進める事ができないまま授業を終えた。
原稿用紙の回収がきているのに、微動だにせず固まり続け、彼の目からは涙が溢れていた。
Mは自分の内面と向き合うという大きな勝負に出て……敗北したのだ。
その姿を見て、自分は今まで勝負に出た事なんてないんだと直感的に感じ取った。
 
この光景を人生の節目節目、文章を書く時に思い出すのである。
受験の小論文、好きな人に送るメッセージ、初めて脚本を書いた時、失敗できない企画書を練っている時……白紙と向き合いながら勝負に出ようとする瞬間、必ずMの姿が脳裏に浮かぶ。
 
そして不思議な事に、Mの姿を脳裏から振り払い書く事に集中し始めると、執筆中も、書いた後もMを思い出すことはない。彼に感謝をすることも恨む事もなく日々は過ぎ去り、次に彼を思い出すのは、新たに白紙の文章を前にした時だけなのである。
 
今日も課題を書こうパソコンを開いた瞬間、Mの姿を思い出した。
このゼミで毎週毎週、課題を提出する日々が始まった。そして、不器用が自分が毎回苦戦している姿が用意に想像できる。果たしてMは、その度に私の前に姿を現すのだろうか?
 
さて、ここまでMの事を書いてきて
「そういえば彼にあの頃借りたゲームって返したのかな……」
ふとそんな事が頭をよぎった。書くのを中断して実家に連絡をしてみると、Mに返していないゲームがある事が発覚した。
このゼミが終わるまでに、彼にこのゲームを返しに行こう。
もしかして、私が小学校の頃のMの姿に捉われるのは、彼のイメージが25年前で止まっているからかもしれない。現在のMを見ることができれば、彼の姿もアップデートされる事になる。
そしたら、小学校のMを思い出す事はなくなるのだろうか? それとも今後は34歳になったMが私の前に姿を現す事になるのだろうか。それは嫌だな……
 
現在の私は、人を楽しませたい時も、真剣に言葉を届けたい時も、自分の「思ったこと」と向き合っている。その言葉を、どう純度の高い状態で取り出すかに日々必死になり、戦い続けている。
 
願わくば、大人になったMが、自分の思ったことを言葉にできる人間になっていてほしい。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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