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電車に5本以上は傘を忘れたことのあるあなたは天才的指導者かもしれない


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記事:いのあけ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
電車に傘を忘れる、人はそれを「うっかり」と呼ぶ。
 
「うっかり」しない人はいないと信じているけれど、「うっかりの頻度」には個人差がかなり大きい。そして私は明らかに「うっかりの頻度」が高い方の人間だ。電車でなくした傘の数は多分、2桁に達している。
 
今から、33年間のうっかりライフを通じて得たちょっとすてきな気づきを伝えようと思う。あなたが電車に5本以上、傘を忘れたことのある「うっかり頻度・高」な人なら、ぜひこの文章を最後まで読んでいただきたい。
 
うっかりしていることの最大のデメリットは何だろう。それはズバリ、「自己肯定感を下げてしまう」ことではないだろうか。というのも、うっかり頻度が高い人は、普段から、うっかりした自分を責め続けることになるからだ。
 
「ああ、見落としてました! 申し訳ありません」
「忘れてました! ごめんなさい」
 
そんな言葉を日々、連発していれば、自責の念を持つことは当然だろう。
これって結構、つらいことだ。
 
いっそのこと、「あ〜またやっちゃった、私ってほんっとうっかりしてるわ〜。アハハ」みたいなタイプになれたら、と何度か試みたが、普通の神経では無理だった。
 
私を含め、多くのうっかりさんは、好きでうっかりしてるわけじゃない。私たちがうっかりしているのは、神様が我々をたまたまそのようにお作りになったからだ。
 
そのような性質を与えられた者の責任として、私は、自分のうっかりを最小限に抑えるため、普段から十分、気をつけて生きている。悲しいことに、それでもうっかりは起こってしまう。そして私は、すでにちっぽけな自己肯定感を、さらに縮こまらせてしまう。そんなうっかりさんは、世の中に結構多いのではないかと想像する。
 
だけど先日、そんな私の人生に、自己肯定感をあたためる光が差し込んだ。
そして私は断言する。うっかりさんには、指導者の素質がある。天才的と言ってもいいほどの素質だ。
 
その気づきをくれたのは、今年で結婚して6年目になる夫である。
 
夫といえば、寝食を共にし、もっとも長い時間を共に過ごす人物だ。つまり、私のうっかりの被害を最大限こうむっているのも夫である。
 
この6年間、大小さまざまな数えきれないほどの私のうっかりが彼を襲った。お弁当に箸が1本しか入っていない、ポケットに入っていた携帯電話を洗濯される、取引先への郵便物に切手を貼らずに投函される、など、笑い話で済むものもあれば、済まないものもあった。
 
6年も配偶者にうっかりされ続けてきたら、いいかげん嫌気がさしても良さそうなものだ。結婚生活が破綻していないところを見ると、夫は割と、我慢強いのかもしれない。
 
そんな夫が先日、一週間ほど沖縄出張に出かけることになり、私は彼の荷物を用意していた。10月なかばを超えても沖縄はまだ30度に手が届きそうな気温なので、下着はシルキードライ、シャツも半袖、という組み合わせが必要だ。
 
頭ではバッチリ分かっていたのだが、出張前夜、バタバタしていたせいか、私のうっかりスイッチが押されてしまった。ヒートテックに5本指のもこもこソックス、長袖シャツと、完全な「冬装備」を仕込んでしまったのである。
 
私がミスに気づいたのは、帰宅した夫のスーツケースを開けた時である。
 
「あっ、ごめん! シャツ長袖じゃん、下着もヒートテックだし。おかしいな、夏仕様にしたはずだったんだけど……」
 
謝る私に、夫は意外な一言を返した。
 
「いや、大丈夫だったよ。念のために、家を出る直前に、半袖セットを入れておいたんだ」
 
私は驚いた。うちの夫は、自分のことを自分でできないタイプだ。育った環境のせいだと思うけれど、「お世話される」ことに慣れきっている。お箸を持ったらご飯が食べられて当たり前、脱いだ靴下は誰かが洗濯機に入れてくれる、そんな感覚の人だった。
 
結婚したばかりの頃は、「自分のことは自分でやろう」と繰り返し伝え続けた。しかし、改善のきざしは一向に見えない。結婚していた女友達に幾度となく相談したが、我が夫の状況を詳細に伝えると、彼女たちは全員キッパリと口をそろえて言った。「残念だけどね、そのタイプは一生そのままだよ」
 
そうか、これは治らないのか。仕方ない。そう思った私は、諦めて夫のお世話をしてきたのだ。
 
そのような彼が自主的に自分の荷物を準備するなど、おおよそ考えられない。何があったのか尋ねてみると、夫は笑いながら言った。
 
「なんか、そんな気がしてさ」
 
私は二度目の驚きを隠せなかった。彼は、私が「うっかり長袖を入れてしまう」のを予測したうえで、安全策として、みずから半袖を入れたというのだ。
 
女友達全員に「一生あのまま」と言われた夫が、自発的に、自分で自分のことをする日が来るなんて! ああ神様、なんということでしょう。あなたはこのために、今日まで私をうっかりさせてきたのですね。
 
こうして私は悟ったのだ。うっかりさんは、周囲に「自分がしっかりしなきゃ」と思わせることで、周りの人間を育てている。
 
うっかりさんには指導者の素質がある。指導力を秘めている。それも、普通の指導ではちょっとどうにもできないやつをどうにかできる、並外れたパワーだ。天才的指導力と言ってもいいかもしれない。
 
そういえば、4歳になったばかりの息子も、毎朝、リュックを背負う前に
「ママ、歯ブラシ、入ってる?」
「お手拭きタオルは?」
「連絡帳にサインした?」
などと私に確認してくれる。
すでに「しっかりもの」への道を歩みつつあるらしい。
 
うっかりさんのうっかりは決して無駄ではない。確実に、あなたの周囲の大切な人を、しっかりさんへと成長させている。だから自信を持って、生きていこう。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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